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まほろば流麗譚

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2024年7月の記事一覧

邂逅罪垢火焔演舞 3

太助は勇也の組に最近入った若者である。
田舎から稼ぎを求めて江戸に来たという。

「確かになぁ、、壊さずにゃあ済んだが。」

「留のトコは建て直しだぁな!」

「雨が降らなきゃあ、おめえらも皆んな宿無しだった
 んでぇ!」

あの日。
烈行と火車が消えると共に、稲光が閃いた。
突然の雨が火を消す助けとなった。

それはまるで運命を促すような光に、宗矩には見えていた。

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邂逅罪垢火焔演舞 2

澪は痛む頭に意識を失った。
最後に雷が鳴るのを聞いた気がした。
次に見たものは皆川良源のホッとした様な顔だった。

「気が付いたか、良かった。」

「良源先生、、あたしはどうなっちまったんだい?」

「宗矩殿と勇也がここに担ぎ込んで来た。
 少し火傷はあったが、、それとは関わらず頭の痛み
 で倒れたようだ。」

「ああ、何だってんだろうね。
 ここんとこはめっきり無かったのにさ。」

「この症状は

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邂逅罪垢火焔演舞 1

松方澪がそれまで立っていた場所を、炎があたかも剣となり走った。

転がり躱し顔を上げた澪の目に
信じられない者が映る。
頭がクラクラするのは、辺り一体を包む熱気に眩暈を覚えるからだけでは無かった。

「澪、無事か!?」

傍に滑り込んできた柳生宗矩の声にも反応が無い程に、澪はそれから目を離せずにいる。

「澪!」

肩に触れた宗矩の手に、漸く澪は我に帰る。

「旦那、あの顔。
 あの物の怪の顔。」

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第三話 あとがき

長かったぁ、、

「お前が言うな!」

ごめんなさい🙏

体調不良に悩まされながらの第三話が、やっと終わりました。

ラブコメ回で美代回でありながら、まほろば世界の女性像を打ち出す意味も持っていました。
最後に美琴が出たのも、そのせいですね。

僕は美代が大好きなんですが、読者様はどうですか?

「まほろば流麗譚」は恋愛物語でもあります。
勇也と美代の関係性が一話ずつ進んでいきます。
この2人が

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思慕一途柳問答 13(完)

「美代、マズい、、」

こちら側に来た澪がそう思った時、美代はゆっくりと勇也に向かって歩を進め始めた。
その目が座っている。

「何だい!?その気に食わない目はさあ!
 はぁん、惚れた男と一緒に死にたいって事かい?」

そんな言葉が聞こえないかの様に、美代は勇也とろくろ首の顔の前まで来ていた。
美代の目はろくろ首の目を睨み付けている。
その目にろくろ首が少し気圧される。

「あ、あんだよ、このアマ

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思慕一途柳問答 12

「スゴい声だね。」

「こりゃあ屋台まで聞こえたろうねぇい。
 お美代がジッとしてないだろさね。」

「お美代ちゃん、来るね。」

「やれやれだねぇい。早いとこ終わらせないと。」

澪と雪は柳から川を挟んだ向こう側に居た。
澪はろくろ首の事を鉄斎に調べてもらっていた。

だから首が伸びて宙に浮いた顔の、身体の部分が何処にあるのか?その見当をつけていた。

あの女は素っ頓狂で非力だ。
そしてきっと臆

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思慕一途柳問答 11

「手を貸してもらうよ。」

「あんたは屋台で会った、、」

「天狗はあたしが落とした。」

「あんたが、、だったら恩があるって事だね。」

雪は何となく信幸の屋台に行きづらくなっていた。
だからこの日も小道を途中まで来て、急に帰ろうと踵を返したのだ。

そんな雪に松方澪は声を掛けた。

「勇也は今度も妖怪退治をする羽目になった。
 雪、あんたの助けがいる。」

雪は少し目を伏せた。

「ホントだっ

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思慕一途柳問答 10

皆さ、勇也を誤解してるよね。
勇也は大胆だし決断力もある。
判断は早い方だと思う。

でもさ、この人は意外と繊細なのよ。
だから物凄い早さで色々考えてる。
そして決めてる。

口では何と言ってても、約束した事は守る。
守れないとひどく落ち込む。

あたしがろくろ首に関わるな!って言ったから、今回はそのつもりに決めてたんだね。

だから澪さんが屋台に来た時、嫌な顔をしてたんだ。
深入りすると放ってお

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思慕一途柳問答 9

「へえ?どういう事ったよ!?」

訳が分からないのは勇也も同じである。

「あんた、お節介なんだよぉ。
 そうやって目に映る連中に片っ端から関わるから
 当たりを引いちまうって話さぁね。」

「ああ、確かに勇さんは、それだ。」

珍しく信幸が口を挟んだ。
澪がその信幸を見る。

「あんた、武士だったねぇい。」

「お恥ずかしい、、
 身に付いたものはぁ、どうにも。」

「澪さん、何で分かるの?」

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思慕一途柳問答 8

「ひゃっあ!!」

不意に後ろから声を掛けられた女は、やはり素っ頓狂な声を出し小さく身体を飛び上がらせた。

「お妙、、はい。以前はそう呼ばれていましたけれど
 ぉ、、どちら様ですかぁ?」

それから振り返らないままで答えた。

「お妙、あっしの事が分からねぇのかい?」

「あのぅ、誰かと間違えてませんかぁ。今の私を妙と
 呼ぶ人はいませんからぁ。」

そこに堪らず勇也も来る。

「流園さん、どう

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思慕一途柳問答 7

信幸の屋台は柳の前の小道を進んでいくとある。   
同じ川沿いにはなる。
その小道の先には少し開けた場所がある。
川の水が使え、人数が居る事も出来る。
元は勇也の組が大八車や仕事道具を置くのに使っていた。

今はそこに余った切り株やら樽やらが置いてある。
そこに大八車に乗っかった形に鉄斎が作ってくれた屋台が入り、皆で輪になり飲み食いをする。
冬になってからは三箇所に火鉢を置き、そこにそれぞれが座る

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