邂逅罪垢火焔演舞 3

太助は勇也の組に最近入った若者である。
田舎から稼ぎを求めて江戸に来たという。

「確かになぁ、、壊さずにゃあ済んだが。」

「留のトコは建て直しだぁな!」

「雨が降らなきゃあ、おめえらも皆んな宿無しだった
 んでぇ!」

あの日。
烈行と火車が消えると共に、稲光が閃いた。
突然の雨が火を消す助けとなった。

それはまるで運命を促すような光に、宗矩には見えていた。

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柳生宗矩が松方澪と出会った頃、隠れ人は既にあった。

ただその頃は、まだ江戸の隠れた守り人としての役割は、戦う事よりは規律を正す事にあった。

血の気の多い職人が集まれば、その欲望の吐口としての女が商売になる。

だがあちらこちらでそれが営まれては、江戸は風紀の無い無法の町とも言える。

さらにはそれを見越して若い女を拐かす者などが増えるのも宜しくは無い。

宗矩はそんな無法に立ち向かっていた。
江戸もまだ、ただの田舎町でしかない。
その周りは木々に覆われている。
そこを抜け辿り着く前に拐かされる女も多い。

その夜も宗矩は配下数名を連れ、そんな非道が無いかと出向いていた。
すると突然、一瞬の瞬き程の時、暗い夜の林道にも関わらず光が溢れた。
そのしばらくの後。

ガラガラあぁー!

腹に響く音が天から鳴り響いた。
ついぞ見た事が無い激しい稲妻が落ちたのだ。
宗矩たちよりは少し離れた場所だ。

「何と、、何が起きたのか?」

必然、宗矩一向はその場を目指し足を速める事となった。

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そこには男共の屍が横だわっていた。
粗末な形を見るに山賊の類であろう。
この場に居たものか、自分たちと同じく稲光にさそわれてきたのか。

どちらにしても宗矩たちより早く、この場に居たのは違いない。

そして斬り伏せられた。
何故分かるのか?

その屍の向こうに、短い脇差しを構え獣の様な目をした女が居たからだ。
その着物はボロボロに破れ、荒い息はまさに獣の唸りを思わせる。
その目は油断なく自分たちに向けられている。

「女、大事無いか?」

宗矩はそう声を掛けてから、もう少し言い様があったか?とも考えた。

「次は、、お前らかい?」

女は腹の座った声で応えた。

「何の事か。」

「はん!次にあたしを襲ってくるのは、てめえらかっ
 て聞いてんだよ!」

なるほど、やはりこの屍共は女を拐かそうとしたか、慰み者にしようとしたか。

「待て!拙者は柳生宗矩と申す。
 徳川殿の命で見回っておる。」

「徳川、、、い、痛い、、頭がぁ、、」

その名を聞き、何事か思案しようとした女が頭を抱えて苦しみ出した。

「大丈夫か?
 頭を打ったか?」

宗矩は駆け寄り、その身体を支えようとした。
が、女の手前で何かを感じ、足を緩める。
その宗矩の前を女の斬撃が走る。
殺気だ。殺気が何処からともなく生まれたのだ。

「何と!速い!」

宗矩は判断せねばならなかった。
真っ直ぐに上から下に走った剣。
次はどう動く?

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その宗矩の思考を剣先は裏切った。
斬れなかった事が分かると剣先はその動きを急に止め、不恰好ながらもそのまま斜め上へと刃を返した。

これには宗矩も多々良を踏んで後退った。

剣の勢い、流れに乗って動いたのでは無い。
この女の細腕で剣自体の重さを受け取め、流れを閉ざし斬り上げたのだ。

こんな事が出来るのなら、斬撃は相手を斬るまで無限に生まれ続ける。
繰り出した剣の勢いの乗った流れを操り、そのまま剣尖を生きたものとして追撃したのでは無い。
言うなれば、死んだ剣を生き返らせて襲ってきたと宗矩は感じた。

「死に剣とでも言うか。」

宗矩はいかに対処すべきかと考えた。
女を斬りたくはないのだ。
自分の剣はそういうものでは無い。
宗矩にはそんな自負があった。

「うっ、、何、、分からない、、」

だが、そんな宗矩のつまらない刹那の葛藤は意味を成さなかった。

女がそのまま気を失ったからだ。
自分の剣の勢いのままその身体は引かれ、少し浮き上がった後にドサりと土に落ちていた。


つづく



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