思慕一途柳問答 12

「スゴい声だね。」

「こりゃあ屋台まで聞こえたろうねぇい。
 お美代がジッとしてないだろさね。」

「お美代ちゃん、来るね。」

「やれやれだねぇい。早いとこ終わらせないと。」

澪と雪は柳から川を挟んだ向こう側に居た。
澪はろくろ首の事を鉄斎に調べてもらっていた。

だから首が伸びて宙に浮いた顔の、身体の部分が何処にあるのか?その見当をつけていた。

あの女は素っ頓狂で非力だ。
そしてきっと臆病に違いない。
身体はそんなに遠くなく、襲われない場所にある。
この川向こうに。

ろくろ首は陽が登るまでに身体に戻れなければ死ぬ。
しかも離れている間は身体の異変には気付かない。

「さて、雪。出来たかい。」

「この前の凧よりは軽いね。
 ただ、、ちょっと気持ち悪いかな。」

「あたしの声がしたら、走っとくれ。
 川向こうに行ってくるよ。」

「この格好で一人、、まぁ頑張るか。」

雪はその背中に長く伸びた首が蠢く、女の身体を括り付けた姿で気合いを入れた。

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「ちょうどいいってもんさ!
 二人纏めてあの世に送ってやる。」

「おいおい!男二人相手に勝てる気かい!」

勇也は腰から抜いた棒をサッと伸ばした。

「まだ死ぬ訳にゃあいきやせん。」

流園も匕首を握り直す。

「馬鹿か、お前ら?
 私は物の怪と化してるんだ。
 ただの人間風情が何をイキがってやがる。」

「うるせえやぁ!」

勇也がダッと駆け寄り、その顔に棒を振るう。
顔はグルんと回転しながら避ける。
今度は流園の匕首が襲うが、これも首を引っ込めて躱す。

冬の夜空に女の高笑いが響く。

「あれ?当たらねえ。」

「的が小せえんで御座んす。」

「不意を突かれたなら当たりもしようがね。
 来るって分かってりゃあ、私の方が有利!」

「くっそぉー弱いって思ってたから、楽勝だと思って
 たのによぉ。」

「思い込みでやしたね、、」

嘲笑いながら、顔が宙を自在に舞う。

「ほぅら!当ててみたらどうだい?」

勇也と流園は果敢に顔を追うが、やはり棒も匕首も躱されてしまう。

やがて追うのに夢中になって、勇也と流園がぶつかってしまう。

「済まねえ!」

「いや、あっしこそ、、」

その隙にろくろ首の蠢く首が勇也の首に巻き付いた。

「勇也さん!」

流園が首に斬り付けようとするが、サッと勇也の身体を前に出される。

「手が出せねぇ、、」

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「あんたさぁ、中々勘がいいんだねぇ。」

「うるせえん、、だよ。」

勇也は自分の首と巻き付く首の間に棒を捩じ込んでいた。

両手で棒の端をそれぞれに握り、締め付ける力に抗っている。

「でもさぁー宙高く持ち上げて落とされたらぁ、、
 どうなるもんかね。」

「何だと、、この野郎、、」

「女に野郎はお門違いだよ!」

そう言うと首が勇也を高く持ち上げた。
柳のてっぺんが見える。
この高さから落とされたら、、骨はいっちまうなあ。
勇也は手に込めた力を緩めなかった。
緩めたら締められて落とされる。
そうなったら腕一本で済ますなんて甘い考えも出来なくなる。

「ほうら!」

ろくろ首が地面スレスレまで勇也の身体を落とすが、叩きつけずにまた持ち上げる。

「怖いかい?怖いだろ?ざまあみろ!」

そろを何度も繰り返す中、こちらに駆けてくる足音が響いた。

「ああ?誰だい?」

ろくろ首の顔が闇を見つめる。

「ちょっと!何やってんのよお!」

「この、、声、、美代じゃねぇかよぉ、、」

「勇也ぁ!」

やがて息を切らした美代が姿を見せた。

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「あんだい?あんたの男かい?
 ちょうどいいや!目の前でこいつが死ぬのを見せて
 やるよぉ!」

ろくろ首は美代によく見える様に勇也を降ろした。
勇也の顔の横にろくろ首の顔がくる。

「私の愛する旦那様、草太様が大怪我をなされて、、
 私がどんなに心に痛みを覚えたか、、お前も身をも
 って知るがいいさあ!」

美代に見せつける様に勇也の身体を左右に振った。


つづく

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