思慕一途柳問答 11

「手を貸してもらうよ。」

「あんたは屋台で会った、、」

「天狗はあたしが落とした。」

「あんたが、、だったら恩があるって事だね。」

雪は何となく信幸の屋台に行きづらくなっていた。
だからこの日も小道を途中まで来て、急に帰ろうと踵を返したのだ。

そんな雪に松方澪は声を掛けた。

「勇也は今度も妖怪退治をする羽目になった。
 雪、あんたの助けがいる。」

雪は少し目を伏せた。

「ホントだったら、河童だけで良かったんだ。
 それをあたしが天狗に巻き込んだ。
 だからかな、またなんて、、、」

澪はそんな雪に、やはり優しい目を向けた。

「惚れた男なら、その幸せを願い守るのも悪くない。
 勇也はこの先も妖怪に会うだろうさ。
 あいつは目に映る困った奴を放っておけない性分だ
 からね。

 また誰かを助けようとするさね。」

雪は顔を上げて、それから少し笑った。

「勇也だもんなあ。」

「だからさね。
 勇也を助ける奴が必要さね。」

「あたしには、この足しかないよ。」

「ああ、また重い物背負って走ってくれ。」

「走る?それなら引き受けた。」

澪はいつもの様な煙に巻く様な話し方をしなかった。
雪はこの人も複雑なんだなと感じた。

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もう何日目だろう。
今宵もまた例の女が柳の下に立ち、やがてそこに男が訪れ手を取るんだろう。

見せつけてくれる。
顔はまだ腫れているが痛みは大分マシになった。
私の心をよくもまあ、、痛ぶってくれたな。
もう我慢なんないのよ!

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今宵は柳に右手から風が吹き込む。
女胸元の衿の合わせに右手を添え、頭に被った手拭いの端を右の唇で甘く噛む。
腰と膝を少し折り、風に負けじと立つ。
その姿は何とも妖艶である。

「色っぽい姉さんだねぇ。」

吹き込む風が声を乗せて運ぶ。
女はギクリとした様にその身を捩り、後退りする。

「今夜もあの男と手を握り合うのかい?

 あの、私の顔を殴った男と!」

声にいきなり怒気が篭り、女の耳元で響いた。
そこには宙に浮かぶ女の顔があった。
その顔は怒りに目を釣り上げている。

「あんたが誰かは知らないけどねえ、私を誘き出すの
 にやってんだろぉ!

 また私の顔を殴ろうってのかい!?
 ふざけんじゃないよ!

 今度はあいつが死ぬ番さ。
 あんたも一緒に送ってやるから、安心をし。」

言われた女は更に胸元をギュッと握った、、かの様に見えた。

「怖いかい?哀れな女!」

宙に浮いた首が高らかに笑う。

「哀れは、其方さんでござんしょ。」

不意に小さく発せられた男の声に、顔は笑いを止める。

あの男の声だ!?
何処にいやがる!?

顔の注意が周囲に移る。
そんな顔に左手から風が襲った。

風、、僅かな感触に顔は向きを逸らす。
その視線の先を己の髪が舞って流れていく。

「てめぇ!女に化けやがったのかい!」

「外しやしたか、、今度は左顔に派手な傷をと狙いや
 したんですがね。」

女が匕首を握っている。
噛んでいた手拭いの端を放す。
そこには、女形として見事に化けた佐納流園がいる。

「あっしはそもそも女形で御座んす。」

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「やーっぱりなあ!
 見てると思ったぜ!

 あんたみたいな女は執念深い。
 俺や流園さんが、この柳の下にまた来るか、
 見てると思ったんだぜ。」

勇也が言いながら柳の下に歩いてきた。

とは言え、これは澪の受け売りだ。
この妙姫という女は、この柳の下にしか現れなかった。

力も弱いろくろ首には、ここが有利な理由がある筈。
しかも殺したい流園は柳の下に毎夜現れ
同じく勇也もこの場所を通る。

ならば
絶対に見ている筈だ。

「まったくよおー!

 もっと早く出てきやがれ!
 毎晩、流園さんと手を取り合うのも、、
 何かぁ、、微妙だったんだぞ!」

「確かに、妙な気になりそうでやしたね、、」

「えっ!?
 やめてくれよ、、俺にその気はねぇぜ!」

「いや!あっしにも御座んせんよ!」

言い合う二人に顔が叫んだ。

「うるせえーーーーーーっ!」

その声は冬の空に響いていた。


つづく





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