まーびぃん

たまに本や映画の感想を書いていきたいと思ってます。

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最近の記事

映画『リプリー(1999年)』にみる、人間のいびつな自己愛

 ジャック・ラカンによれば、人間の欲望はすべて自己愛の変形らしい(最近はラカンの話ばっかりしているなあ)。その発端は幼児期の鏡像段階だと言われていて、この時に幼児は初めての自己愛に目覚める。ラカンの言う自己愛の対象は、本当の自分ではなく、鏡に映った自分を愛するということ。ラカンはこの自己愛を、あらゆる欲望の発端とした。どういう事か。  例えば、お金が沢山欲しいと欲望している人。ラカンによれば、この人の本当の目的はお金自体ではなく、お金持ちの自分に憧れているだけだっていうわけ。

    • 村田沙耶香『コンビニ人間』感想

       『コンビニ人間』の話に入る前に、少し前置きを。  JGバラードの怪作『クラッシュ』では、自動車や電車などに性的興奮する人間が描かれる。いわゆるフェティッシュというやつ。なにこのヘンタイ、大っ嫌い!なんて思うかもしれないけれど、そもそも人間は何にでも発情する生き物だ。異性を好むストレートが特別に健常なわけではなく、両親を見て育った結果、異性を好きになる人が比較的多いというだけ。つまり性的発情の対象は生まれもった性質ではなく、後天的に社会によって教育された性質だということ。歴史

      • 言葉なんて大っ嫌い

        「茶色を定義するには、茶色以外のすべての色を列挙しなければならない」 と、どこかの坊さんが言っていたが、これこそ言葉の本質を表しているように思う。ソシュールの言語理論によれば、言葉は意味そのものを直接表現しているわけではない。先ほど言った茶色について、例えば茶色一色しかない世界に暮らしている民族がいたとして、その民族の言語に茶色を指す言葉はあるだろうか? 言葉の世界はひとつの大きな箱に、いくつもの風船がギュウギュウに押し込まれているようなものだ。ギュウギュウだから当然ひとつ

        • 【SFショートショート】精子の生きがい

          長いあいだ二人で育んできた愛の成就が、もうすぐそこまできている。わたしの表面の卵巣は成長を終えていて、あとは精子たちの到着を待つだけだ。できるだけ居心地が良いように、これまでずっと彼らに適した環境を整えてきた。あなたの方も、タイミングに合わせて大事に育ててきた精子たちが、やっと旅にでる準備が整ったみたい。 (いくよ) テレパスを通じて、遠くのあなたがささやきかける。(いいわ。わたしも大丈夫) すばらしいタイミング。あなたの精子たちも今ごろはわたしを見つけて、たったひとつの生き

          【感想】映画『箱男』

          以下、あらすじコピペ。 完全な孤立、完全な孤独を得て、社会の螺旋から外れた「本物」の存在。ダンボールを頭からすっぽりと被り、街中に存在し、一方的に世界を覗き見る『箱男』。カメラマンである“わたし”(永瀬正敏)は、偶然目にした箱男に心を奪われ、自らもダンボールをかぶり、遂に箱男としての一歩を踏み出すことに。しかし、本物の『箱男』になる道は険しく、数々の試練と危険が襲いかかる。存在を乗っ取ろうとするニセ箱男(浅野忠信)、完全犯罪に利用しようと企む軍医(佐藤浩市)、 “わたし”を

          【感想】映画『箱男』

          ジェイムズ・ティプトリー・jr『たったひとつの冴えたやりかた』※微ネタバレあり

          日本で最も有名なティプトリーの作品といえば、押しも押されぬ『たったひとつの冴えたやりかた』だろう。宇宙に家出をした少女コーティが、脳に寄生した生命体シベローンと共に旅をするこの短編は”泣きSF”の古典として、今でも新品が本屋に置かれている。 ただこの短編、ティプトリーファンからはそこまでウケがよろしくないようで、かくいう僕も好きな作品に挙げる事はない。何故ならこの作品はこれぞティプトリーというような読者を突き放す冷徹さはなく、むしろ終盤はややくどいくらいに泣かせにくる“らしく

          ジェイムズ・ティプトリー・jr『たったひとつの冴えたやりかた』※微ネタバレあり

          文学フリマ大阪で買った本

          去年存在を知ってから、ずっと行ってみたかった文学フリマ。物書き友達のオモさんを誘って、遂に大阪文学フリマに参戦してきました!僕は埼玉在住だけど、東京開催まで待ちきれず…。でも行ってよかったです。とにかく楽しかったし、刺激を受けまくりで心身ともにヘトヘトに。 10冊近く買ったけど、もっと買えばよかったと後悔。だってどれも面白いんだもの。今回は文学フリマで買った作品の中でも、特に印象に残った作品を三つレビューします。ほんとは全部レビューしたいんだけどね。 1、『反小説』一石和さ

          文学フリマ大阪で買った本

          【感想】ジェイムズ・ティプトリー・Jr『接続された女』※ネタバレあり

          民衆に無駄な消費を促進するとして、広告が禁止された近未来。企業に雇われた主人公が電極に繋がれて美女のアバターを遠隔操作で操り、セレブ界に潜入してこっそり商品の宣伝をするというこの話は、なんと1974年に書かれたものだ。予言的っていう褒め言葉はあまり好きじゃないけれど、現代人がステルスマーケティングやVチューバーを想起するのは簡単。そして何より、意識と身体が切り離されるというSFテーマは、1984年に書かれたニューロマンサーから始まるサイバーパンクブームよりもずっと前になる。テ

          【感想】ジェイムズ・ティプトリー・Jr『接続された女』※ネタバレあり

          【書評】フラナリー・オコナー『田舎の善人』

          僕が好む小説のジャンルはSFで、理由は簡単。どうせ読むのだったら、タイムマシンとか宇宙人が出てきた方が絶対楽しいに決まっているから。映画だってどんなに内容が酷かろうが、カッコいい宇宙船や恐竜を見れれば「楽しかったあ♡」と満足できる程度にお馬鹿さんです。 ただし最近は好みの幅も少し広がってきたようで、今回感想を書こうと思っているフラナリー・オコナーやサリンジャーみたいな、団地系小説も結構楽しめるようになってきた。そこで今回は短編『田舎の善人』の感想を書こうと思います。ネタバレあ

          【書評】フラナリー・オコナー『田舎の善人』

          【感想】浅田彰『構造と力』⑦

          7、感想 スピルバーグの『フェイブルマンズ』という映画は、スピルバーグ自身の伝記映画であるにも関わらず、伝記映画らしからぬ寓話感に溢れている。それもそのはず、タイトルのフェイブルマンも寓話という意味らしい。映画の中のスピルバーグ少年は映画が大好きで、自主映画を友達同士で撮って楽しんでいるんだけど、それを撮っている映像もあえて作り物っぽく、映画感に溢れているのだ。極め付けはオチのアレ。見た人なら分かると思うけど、あのオチは最高に爽快だし、ユーモアに溢れていたよね。 スピルバー

          【感想】浅田彰『構造と力』⑦

          【本要約】浅田彰『構造と力』⑥

          6、祝祭のゆくえ バタイユが明らかにした、飽和した力の消化方法。それは祝祭による禁止の侵犯だという話はすでにした。ちょっと話がずれるけど、バタイユはこれをエロティシズムと言っている。普段は禁止してあるけど、ある時は一時的に解除される許された禁止に人は快楽する。人間を“パンツをはいた猿”と定義し、パンツの存在とそれをあえて脱ぐ侵犯の快楽を思索した栗本慎一郎のベストセラーに、バタイユの影響をみるのは簡単だ。本要約では順番が逆になってしまったけれど、クリステヴァの提唱した、象徴秩

          【本要約】浅田彰『構造と力』⑥

          【本要約】浅田彰『構造と力』⑤

          5、近代の王 近代を分析するにあたって、二つの大きな謎がある。ひとつはかつての君主社会のような王は存在しない。大統領や神の概念はあるにしても、かつての頂点からの抑圧、制御といった畏怖ゆえの支配力は持ち合わせないのは感覚的にも賛同してくれるだろう。 もうひとつは垂直方向の力だ。祝祭なき近代において、飽和した力はどこへいってしまったのか。本要約ではこのふたつをキーとして近代に迫っていく。まずは消えた王の行方を追っていこう。 かつての王(神も含む)を頂点とした君主社会では、全員

          【本要約】浅田彰『構造と力』⑤

          【本要約】浅田彰『構造と力』④

          4、力 浅田はレヴィ=ストロースの構造理論を、構造の内部しか見ていないと批判している(これだけでなく、本書中でレヴィ=ストロースとユングは何かと批判の的だ。かわいそう)。レヴィ=ストロースは先に言った象徴秩序を、静的なものと捉えていたきらいがあるというのだ。登場人物たちを象徴秩序の各役割にきっちり配置してしまえば、あたかも秩序と均衡は保たれているとでも言わんばかり。例えば、2項で説明した原始の象徴秩序を、レヴィ=ストロースは“冷たい社会”と呼んでいる。穏やかならぬモースの贈

          【本要約】浅田彰『構造と力』④

          【本要約】浅田彰『構造と力』③

          3、古代中世の象徴秩序 やっと象徴秩序(人間の秩序)が次の段階へと向かう準備が整った。ただし、ここから先はちょっと難解だ。僕個人としては、ここがいちばんとっつき辛かったというのは言っておく。なぜなら具体的な説明が極めて困難である上に、感覚的にも捉えにくい。分からなくても「まあ、浅田がそう言うのなら、多分そういう事なんだろう」と軽やかにスルーしてください(今、他人のせいにしました)。 まず象徴秩序の現状をおさらいしよう。原始の象徴秩序は、各個が無頭の怪物と化して互いの主体を

          【本要約】浅田彰『構造と力』③

          【本要約】浅田彰『構造と力』②

          本編を始める前に、ふたつ言っておきたい事がある。まず、できるだけ専門用語は使わない。本書は専門用語のオンパレードなので、僕みたいな弱者が読むと「これ何の意味だっけ?」と行ったり来たりで全く進まないからだ。 もうひとつ。この要約では『構造と力』と同じ順序で説明しません。あくまで分かりやすくを最優先に、ひとつに統一した脈略に沿って説明しようと思う。『構造と力』では各章が独立していて、それぞれ単体で成立するように書かれてあるが、その為に度々内容が重複するきらいがあった。ただしそのお

          【本要約】浅田彰『構造と力』②

          【本要約】浅田彰『構造と力』①

          ここ数年読んだ中で最も疲労困憊した本が『構造と力』だ。構造主義以降の哲学史をまとめ、構造主義の限界と現代とはなにか?について書かれた本書は「これ本当にベストセラーなの?」と疑いたくなるくらい難解だった。どうしてこんな本に手を出してしまったのかと自分自身を呪いつつ、何度も投げ出しそうになりながらもどうにか読み終えた時の感想は、 「なるほど、全然わからん」 三十歳を過ぎても未だにジュラシックパークやスターシップトゥルーパーズを観てキャッキャしてる僕なんかが、半端な気持ちで手を出す

          【本要約】浅田彰『構造と力』①