〔公開記事〕濱田美枝子『女人短歌』(書肆侃侃房)
時代をはね返す炎
一九四九年から一九九七年まで四八年間に亘って女性たちの手で運営された季刊歌誌『女人短歌』について考察した論。本書は戦後の短歌史を考える上で、欠かせない資料的価値を持つ重要な一冊になると思われる。今まで語られて来た戦後短歌史にはこの『女人短歌』に対する言及が驚くほど少なかったのではないか。本書はそうした傾向に一石を投じる役割を果たすものとなるだろう。
まず著者は、『女人短歌』が生まれる土台になった戦時下及び戦後すぐの時代状況を分析し、創刊への道のりを丁寧に描き出す。
「『女人短歌』の前身がひさぎ会であるという通説は的を射ているとは言い難い」といったように、資料を精査した上で通説に疑義を呈する姿勢には、まさに新しい短歌史を描こうという著者の意志を感じる。
戦時中から男性に伍して活動してきた五島美代子が女性だけの団体に難色を示したこと、それを長沢美津が説得したエピソードは印象的だ。長沢の「認められない多くの女歌人のために、自分だけのことを考えないで仲間入りするのが当然ではありませんか」という言葉に五島が説得されたわけだが、これは現代から見るとやや集団主義的で違和感のある言葉かもしれない。しかし著者は、現在では考えられないほどの男性優位であった時代背景を丹念に説明し、長沢の意図を明確にする。五島は、自分が個人の問題と捉えていたことを、長沢の言葉で、社会と女性歌人の問題と捉え直したのである。
その後同誌が「女人短歌叢書」として女性の歌集を次々と刊行し、歌壇に大きな足跡を記したこと、歌だけでなく評論も積極的に掲載していったこと等その発展を記す。また、時代の変遷と終刊への事情を辿り、この稀有な歌誌の歴史を網羅する。
さらには通史だけではなく、第四章で代表的な五歌人、五島美代子、長沢美津、山田あき、生方たつゑ、葛原妙子を分析しており、細部にも目が行き届いている。特に著者は五島の研究者であり、五島についての文章は筆が冴えている。また長沢の『女人和歌大系』は驚くべき業績だ。再評価の必要な歌人と思う。
(書肆侃侃房 二二〇〇円税別)
〔公開記事〕『歌壇』2024年1月号