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止まり木療育:抱っこの役割と方法
子どもの成長を支えるために、指導員としてどのように接するべきかを深く考えることは非常に重要です。療育の現場では、「抱っこ」や「指導」の一つひとつに、子どもの可能性を広げるための大切な役割があります。特に「止まり木による巣立ちの促進」を意識し、やる気を引き出す適切な方法を学ぶことで、子どもが新たな経験に挑戦し、成長していける環境を提供できます。本記事では、抱っこの正しい方法や、キャパシティ(心の容量)を広げるための指導のポイント、さらには信頼を構築するための心構えについて詳しく解説します。
■抱っことは「巣立ち」を助けるためのもの
試合に負けて悔しい時、どうしても涙が出る。
一生懸命頑張ったけれど涙があふれる。
しかし、指導員は「抱っこの目的は可哀想だからするのではない」と言う事をはっきり理解しておく必要があります。抱っこの本来の目的は、小鳥が飛び立つように、子どもが次のステップへ進む「巣立ち」を支えるためなのです。
抱っこの後の大切なステップと見守り方
抱っこをして、少し甘えさせた後は、耳元で優しく魔法の言葉を伝えましょう。
「今日は良く頑張った。もう少し練習すればきっと強くなる。また、一緒に練習しようね。ほんと良く頑張った。偉かったね」といった温かい褒め言葉です。
魔法の言葉とは
・「今日はよく頑張ったね。」
・「もう少し練習すれば、もっと強くなれるよ。」
・「また一緒に練習しようね。」
・「本当に頑張ったね。偉いよ。」
これらの言葉は、子どもの心に安心感を与え、やる気を引き出し、心の容量を広げる効果があります。
このような行動を指導員が行うことで、子どもは「遊んでくれるお兄さん・お姉さん」ではなく、「信頼できる先生」として指導員を認識するようになります。そのためには、指導員自身が紳士的で丁寧な言葉遣いを心がけることが大切です。
抱っこを終えるタイミング
注意が必要なのは「抱っこを終えるタイミング」です。子どもがまだ気持ちを切り替えられていない状態で抱っこを解除してしまうと、「巣立ち」の準備が整わないままになってしまいます。子どもがもぞもぞ動いたり、周りに興味を示し始めたりしたら、抱っこを終えるタイミングです。
抱っこを降りた後に、走り去ったり、何かに取り組み始めたりすることが「巣立ち」の成功のサインです。
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指導員として抱っこするときの心構え
抱っこをすることで自然と愛情がわき、児童がかわいく思えることもあるでしょう。しかし、児童は指導員の子どもではなく、保護者の大切な存在です。そのため、抱っこをする際には次のような心構えを持つことが大切です。
■「止まり木」としての支援で巣立ちを助ける
抱っこをしたり、子どもがかわいいからと抱きしめることもあるでしょう。しかし、指導員という「プロ」は、単なる抱っこではなく、「止まり木」として接することが求められます。療育とは子どもの可能性を引き出すことであり、「保育」とは異なることを理解し、療育のプロとしての意識を持つ必要があります。
▼参考記事
子どもの「キャパシティ」を広げる
子どもには受け入れられる情報や刺激の容量(キャパシティ)があります。
機械は小さな容量では固まってしまいますよね。動かなくなるのです。児童も一緒です。
言うこと聞かない児童を叱る。
容量が十分であれば、叱られても納得したり、従ったりすることができますが、容量が足りない場合には「固まってしまう」ことがあります。例えば、ダウン症や自閉症の子どもが「こだわり行動」をしたり動けなくなるのは、容量が不足していることが原因です。
だから抱っこをしてあげて、容量(キャパシティ)を増やしてあげます。
スモールステップで教える
もう一つ、キャパシティを増やすために、私は以前から「たくさん出来ることが多くなれば、選択肢が増えるので、違う方法を遊びながら見つけ、教えてあげる」方法を指導員には教えています。
例えば、鉛筆を持てない子どもに対して、「これは鉛筆だよ。書く道具だよ。書いてごらん」と言っても、振るだけで、理解が追いつかないことがあります。
私の運営する継志館では、指導員がまずやってみせます。
何が悪いかを指の動かし方、姿勢、やる気、力の入れ方、強さ等、指導員が児童の現状の技術を理解し、もっと細かく指導します。つまりスモールステップで指導をします。
少しでもできたら褒めてあげる。こうした「スモールステップ」の指導を継志館の指導員たちは、数日、数ヶ月、あるいは数年をかけて技術を教えています。
初めの一歩を引き出す「抱っこ」
何かできるようになったら、児童は面白いので自ら進んでやるようになりますが、最初のとっかかりとは極めて難しいのです。
子どものやる気を引き出す最初の一歩は、「抱っこ」や指導員の「やさしい目」や「やさしい声」により、許容量が増えることです。この初めのステップは非常に繊細で、タイミングを間違えると「巣立ち」がうまくいかなくなります。
巣立ちのタイミングを見極める
ひな鳥が巣立つタイミングが早すぎたり、遅すぎたりすると、飛び立つ力を失うことがあります。同じように、子どもの「巣立ち」のタイミングを見極めることが大切です。療育では、指導員がそのタイミングを見ながら、子どもが一歩前に進むサポートを行います。
保護者への理解と支援
多くの保護者は教育についての知識を持っていますが、療育(子どもの能力を引き出す支援)について学ぶ機会は少ないのが現状です。そのため、指導員は保護者に対しても、適切なタイミングの重要性や子どもの成長を助ける方法を伝える役割を担う必要があります。
子どもたちの未来を支える療育
現在、競争や挑戦の場が少なくなり、負ける悔しさを知らない世代が育っています。これから親になる世代も同様に、その感覚が薄れてきているかもしれません。しかし、指導員として、子どもたちが自分の力で困難を乗り越え、「巣立ち」できるように支援することは、未来を担う子どもたちの可能性を広げる大切な役割です。
■「抱っこ」の役割と正しい方法について
まとめ
抱っこは、子どものやる気を育てるための重要な行動であり、「かわいいから抱っこする」というものではありません。指導員は、「止まり木による巣立ちの促進」という指導方法を通じて、子どもが安心しながら新しい経験を積み、心の容量(キャパシティ)を広げていく支援を行います。この容量が広がらなければ、「こだわり行動」や「固まり」の改善は難しいことを理解してください。
「叱り役」と「なだめ役」の分担
最初は、「叱り役」と「なだめ役」を2人で分担する方法がおすすめです。例えば、1人が注意を促し、もう1人が優しくフォローする役割を担うことで、子どもが混乱せずに指導を受け入れやすくなります。
ただし、指導に慣れてくれば、1人で「叱り役」と「なだめ役」の両方をこなせるようになるでしょう。その際も、子どもに不信感を抱かせないよう注意してください。
正しい抱っこの方法を学ぶ
「抱っこの仕方」の訓練は非常に重要です。ただ抱きしめるだけではなく、子どもの心を育てる一環としての抱っこを実践しましょう。また、「止まり木による巣立ちの促進」と容量を増やす療育方法について、しっかりと学ぶことが指導員には求められます。
子どもに安心感とやる気を与え、成長を支える抱っこのスキルは、療育の中で欠かせない基本的な技術です。