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邪道作家第五巻 狂瀾怒濤・災害作家は跡を濁す 分割版その6

新規用一巻横書き記事

テーマ 非人間讃歌

ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)

縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)



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「き、きひひいひいいいいいッ! この彼女、つい最近まで俺の事なんて見向きもしなかったのに・・・・・・いまじゃあ俺の言いなりだ! あの「泉」また使ってやる! たった三億で「人間」が買えるなんて・・・・・・安いもんだ!」
 などと騒ぐ男をまず発見した。
 どうやら噂通り、と言うべきなのか。ここでは「人間関係」を「買う」事が出来るらしい。高嶺の花を何人も侍らしている「客」らしい男の姿から、一目瞭然だった。
 どうやら洗脳の類らしく(あるいは別の能力かもしれない)侍らせている女は盲目、と言うのだろうか。元々その「客」に、千年前から婚姻を結んでいたかのように、身も心もその男に心酔している風だった。無論、泉を使う前は違ったのだろうが。
「アンタもここの客かい? ここは「ルール」があるからな。それをまずクリアしないと「泉」との契約は出来ないが、でも見ろよ! 実際終わってみれば、どんな人間でも思い通りにできるぜ」 私はただ取材、作家としての「仕事」で来ている上、解決したい人間関係など無いのだが、まぁ適当に合わせてその男とは別れた。
 人間関係。
 それを買うこと。
 それ自体は容易だ。金で動く人間は多いし、むしろ結婚などその最たる例だろう。金が稼げる存在へ媚びを売る行為。デジタル世界で雑貨品だけでなく人間の心も安売りできるとは、実に便利なのか魅せるモノが消えたのか、形容し難い時代、世界になったものだ。
 どうでもいいがな。
 私にはあまり関係がない。
 あったところで、知らないしな。
 しかし不気味だ。先ほどの女たちは恐らく金で動かない類の人間だったのだろう。純朴そうな少女たちが、気色悪い大男の言いなりになる姿は、実に奇妙で不気味だった。
 女なんて好かれてどうするつもりなのだろう・・・・・・時が立てば憧れのあの子、あの人だって皺だらけの怪物に変わるのだから、究極的に言えば、いずれ「劣化」することが確約されている外観など価値はないし、あったところで金で動く人間を選べば良さそうなものだが。
 きっと「見栄」だとか「威信」だとかそういう金にもならず実利にもならないゴミを基準に生きているのだろう。暇そうで羨ましい。
 あろうがなかろうが同じ事だ。
 仮に誰かに愛されたところで、「愛される」ということにだっていずれ「飽き」は来る。何事も手にしてしまえばそんなものだ。
 それでも金は欲しいがね。
 欲しいということにしておこう。
 欲しくなくとも必要だ。
 必要は行動の母だ。失敗は苦悩の父であり、苦悩は絶望の養分となる。私が言いたいのは当人の意志に関係なく、物語は動くって事だ。
 大きな流れに従って・・・・・・その「流れ」をコントロールすることこそが私の悲願だが、如何せん人間の手に余る所行だ。
 それでも挑むしかないのだが。
 挑んで勝たねば「道」は無い。
 勝つには「幸運」が必要だというのだから、横着しているとも言えるが・・・・・・こればかりはどうにもならないものだ。流れに任せるさ。それに、私の主義とは相反することだが、人間は「結果」ではなく「過程」でしか充実を感じ取れない生き物だ。私はその「過程」すら感じ取れないのだがしかし、まぁ、道中楽しむとしよう。
 大きな回り道を。
 とはいえ、このまま物思いに耽っていても仕方がないので、私は泉を調べることにした。叩いたり蹴ったり斬ったりしたが、何の反応もない。
 やはり何か条件があるようだ。
「もし、お前さん」
 すると、年寄りの男がそう言って、私に声をかけてきた。どうやら私が泉に触れていたことから察したらしく、彼は「泉に用があるんだね?」と聞いてくるのだった。
「ああ、そうだが・・・・・・何か知っているのか?」「この泉はなぁ「権利」のある奴にしか開かんのさ。いいか、「権利」だ。何でもそうだろう? 大会に出場する「権利」挑戦する「権利」・・・・・・・・・・・・最もお前さんは、「権利」の無い人生を送ってきたようだがな」
「大きなお世話だ」
 どいつもこいつも図々しい。
 それにしても「奇妙」なジジイだ・・・・・・上はブランドモノのジャケットえお着ている癖に、下はチノパンを穿いている。そして何よりずんぐりしたドングリみたいな、人間離れした「体型」・・・・・・・・・・・・本当に人間か?
 ともすると、これが「試練」なのか?
 とりあえず、気は抜かないでおこう。
「欲しい人間関係があるのかね? とてもそうは思えんが」
「いいや、私ではなく、依頼主がな」
「なるほど」
 けっけっ、と不気味に笑い「ならば権利があるわいな」と老人は答えるのだった。
 不気味な奴だ。
「いいか? 「権利」って奴は「勝って奪う」モノなんじゃ。お前さんもそうせねばならん」
「具体的に、何をさせるつもりだ」
「そうさな、今回は」
 ごそごそとポケットから小汚いモノを取り出し「これじゃ」と老人は言った。
 それは、
「・・・・・・ベーゴマか?」
 汚らしいそれは、駒遊びの派生系というか、狭い闘技場の中で駒同士をぶつけ、叩き出した方が勝者という、わかりやすい子供同士の遊び道具だった。
 私はやらないが。
「こんなモノで、いいのか? 勝負と言っても」 こんなしょぼい勝負で、納得行くのかと、そう問いただそうとしたのだが「わかっとらんなあ」と一喝された。
「いいか、若いの・・・・・・「勝負」というのは争いなんじゃよ。個人同士の戦争よ。だから内容なんてのは何でもいいのさ。一対一で」
 争えればの、と老人は言うのだった。
 面白い。
 こんな辺境の惑星でこんな変な争いをするとは夢にも思わなかったが、だからこそ面白い。
 面白いモノには、すべからく価値がある。
 少なくとも、作家である私には。
「いいだろう。受けよう、その勝負」
「ふっふっふ、言っておくが儂はこの道30年じゃぞ。この泉の前で何度も何度も「権利」を選定してきた」
「御託はいい、さっさと始めろ」
「分かった」
 こうして、大の大人二人が駒をぶつけて戦うという、世にも奇妙な戦争が始まるのだった。

   8

「ルールは簡単じゃ。3回勝負して、一度でもお主が勝てれば「権利」をやろう」
「負ければ?」
「それは負けてのお楽しみよ・・・・・・少なくともただでは帰さん。この「泉」の性質を考えれば、想像くらいはつくと、思うがの」
 奪われるという事か。「何が」かは分からないが、推察はつく。
 私の場合、それもあまり意味のないことだ。いやこの場合「どれが」奪われるかによって、展開も変わってくるか。
 重要所が奪われれば、こちらとしても「仕事」に差し支えるだろう。
 私は気を引き締めた。
 我々二人は円形の台を間に置き、それを挟む形で勝負することにした。左手には泉がある。いやこの勝負、泉の前でなければ、私が負けた場合
も勝った場合も取り立てられないし、権利を獲得できないのかもしれない。
「さて、始めようか」
 言って、妙な巻き方で駒に紐をつけている。だが私はこういうモノには知識がないので、恐らくは巻き方からして回転力に差は出るのだろう。
 この勝負、私が不利だ。
 不利なだけで、私は勝つが。
「さあ、やるぞ、若いの。勝負は15秒で決着する。15秒じゃ。それを越えたら仕切り直しよ」「承知した」
 我々はほぼ同時に駒を投げた。
 すると、当然ながら台の上に駒は落ちるのだがしかし、どうにも妙だった。
「ちょっと待て。ジジイ、貴様の駒から何か、空気みたいなモノがでているぞ」
 機械仕掛けか?
 だとしたら、ただの駒を持たされた私には、どう足掻いても勝ち目がない。
「ぬるいなぁー若いの! 儂が「勝負」の話を持ちかけた時点で、お主は「最新型」の駒を調達するべきじゃった。言っておくが、負ければお主の「人間関係」を頂くぞ。そうさな、あの女、お主の依頼人である「神」とおぼしき女との関係を、頂くとしようか」
 最初から、あの女、タマモとの人脈を目当てにして、私に近づいたのか。まぁ、普通に生きていれば神と交流を深める奴も、そうそういまい。
「これは高く売れるぞぉ〜。この「関係」は高く売れる! 誰もが欲しがる関係じゃ」
 私の駒が弾き出され、一度目の敗北が決定した・・・・・・だが、それより気になることがある。
「何故、それを知っている?」
 私が「始末屋」として雇われていることを知る存在は、かなり少ない。情報が漏れるわけがないのだが。
「どうしても何も、ほれ」
 言って、シャボン玉のようなモノを取り出した・・・・・・いや、シャボン玉ではない。
 これは。
「中に女が写ってるじゃろ? これはお主の「人間関係」じゃよ。お主がいけないんじゃぞ。自分の魂でこの争いを納得し、勝負に出た。だからこそお主の人間関係、それをこうして、賭けの商品として手に入れることが出来る」
「そんなことが」
「出来る、から、君も来たんだろ? 遅いぞ、もうな。お若いの、何の策もなしにここへ来たのは間違いじゃったな。もうこれで、お主の積み重ねてきた「人間関係」は全て頂くぞ。安心しろ、高値で売ってやる」
 まずいぞ・・・・・・このままでは「関係性」を奪われてしまう。私のような人間からすれば、真綿で首を絞められるようなものだ。なぜなら私は基本的にも応用的にも、「誰かを通すことで」力を発揮するからだ。人脈が消失すれば、私はどう足掻いても、どこにもたどり着けなくなる。
「この勝負、イカサマはありなのか?」
「何じゃ、急に。まぁ、バレなければありじゃろうな」
「そうか、なら私は「勝てる」な」
「なんじゃと?」
「いや、もういいぞ喋らなくて・・・・・・この戦い、私の「勝ち」は決定した。大人しくその「資格」だか「権利」だかを、私に献上する準備でもしているんだな」
「面白いの・・・・・・」
 何でもありならこちらのものだ。どんな手を使っても良いなら、私に勝てない相手はいない。
 勝つことと実利は別だが、今回はいいだろう。「行くぞい!」
 言って、老人は駒を投げた。当然、私の駒よりも圧倒的に優れていて、回転の多いであろう駒なのだろう。
 だが。
「なんじゃと?」
 私の駒の方が圧倒的優位に立つのだった。見る見る内に弾き続け、私の駒は老人の駒を追いやっていく。
「一体何が」
「さあ、何だろうな。そちらの不手際じゃないのか?」
 意地悪く、私は言うのだった。
「ま、まさか」
 弾き飛ばされた自分の駒を見て、駒を回すための部分が削り取られていることに、気づいたようだった。
「オホン、へぇ、そりゃ災難だったな。まさか駒の芯が、削られて上手く回らなかったなんて」
「き、貴様がやったんじゃろうが! こんな」
「おいおい、一体どこに証拠があるんだ? もしかしたら耐久年数が丁度、今この瞬間に尽きただけかもしれないじゃないか・・・・・・メンテナンスをミスしただけかも」
「ふざけるな、さっきまでは」
「証拠はあるのか?」
 当然、私が切り捨てた。
 とはいえ、本来ただ斬るだけでは切り捨てた証拠が残りそうなものだが、私の「サムライ刀」は物質の魂を切断する。パーツごとに分かれて組み立てられていたことが幸いした。私の持つような全部が同じ素材で出来ているものでは丸ごと切り捨てて全て消滅してしまうが、最新式の駒とやらは「駒を回す部分」と「台に接触して回転数をあげる部分」が分かれていた。その部分のみを切り捨てただけだ。
 そう言う意味では、私に「素材が木の駒」を渡した時点で、私のイカサマを容認したようなモノだった。
 性能差を重視したのだろうが、仇になったな。「私の勝ちで、貴様の負けだ」
「ぐぅ、くぬぬ」
「負け犬のうなり声は耳障りだな。さて、さっさと権利とやらを頂こうか、負け犬」
「っ! 勝手にせい」
 言って、乱暴に私に何かを投げつけるのだった・・・・・・見ると、どうやら赤子の手のようだ。しかもただの手ではない。数百年間は経っているであろう、ミイラの手だった。
「夜にそれを投げ込め。そうすれば「番人」に会える。けっ! お前なんぞ番人に喰われてしまえばいいんじゃ」
 負け犬は捨て台詞を言って、去って行った。しかし「喰われる」とはどういう意味であろう?
 何かの比喩か?
 いずれにせよ「権利」は手に入れた。後は人間関係の泉を「使用」して、それを求めているであろう「タマモの敵対組織」を手にした「関係」をネタに正体を突き止め、いつもどおりに「始末」すれば終わりだ。
 二重依頼ではない。
 元から、そういう計画だった。そう言う意味では私は受けると言った気もするが、しかし顔を見せもしない奴の依頼を受ける気は、端からない。 金は頂いたし、何より李とか言う女もそうだが今回は幾つもの組織が、「泉」の等価交換のパワーを巡っている可能性が非常に高い。速やかに終わらせるに越したことはないだろう。
 私は近くで宿を取り、夜まで待つことにした。 泉を見てみたが、何の変哲もなく、人間関係を売買して惑わしているようには見えなかった。案外扱う人間たちに問題があるのだと、そんなことを考えながら、私は宿へと向かうのだった。

 

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「なぁ、先生」
 先生にはかけがえのないものってあるかい? などと、宿のテーブルの上で、電子世界の波に揺られながら、彼はそう言うのだった。
「無い、と答えたいところだが、強いて言えば私自身の意志だろうな」
 意志に力がないと普段、うそぶいている私からすれば、何とも皮肉だが。
 しかし事実だ。
 同時に矛盾もあるが。
「この「私」が消えるのは困る。だが同時に矛盾もはらむことになる」
「・・・・・・その「自分」だって移ろうからか?」
「ああ、そうだ。こうしてここにいる「私」すら未来には消えて無くなる。そして別の主義主張を掲げる「私」になるだろう。ロマンチズムではなく、成長とは変化だからだ」
「だが、先生は変わらないな」
「当然だ。根底にあるモノは揺るがない。だからこその信念だ。崇高かどうかはともかくとして、私はそれを何より尊重する」
「人間の「業」を?」
「ああ、その通りだ」
 背負って生まれた「宿業」は無くならない。当人の魂に刻まれた「生き様」こそが、見る価値のある「物語」足り得るのも、やはり困難や生涯にあっても揺るがないで突き進む人間、というのは我々のあるべき姿だからだろう。
 私は、それが見たい。
 「人間」が、見たい。
 それが私の望みだ。
 人間ほど面白い娯楽はない。そうじゃないか? 簡単に裏切ったかと思えば信念の為戦ったり、戦ったかと思えば逃げたり、逃げるべきところで戦いに赴いたり、好きになったかと思えば好き故に殺したり、愛故に虐げたり。色々だがな。
 見ている分には最高に面白い娯楽だ。
 飽きたら、また別の人間を見ればいいしな。
 替わりの効かない信念があるならば、金のためにすげ替えればいいというのが私だ。つい先ほどまで自分自身には替えが効かない、みたいなことを言った気もするが、あれは嘘だ。
 自分ほど替えの効く存在もない。
 などと、適当を言っているだけの気もするが。「先生はさ」
 人間になり損ねた人工知能は、こう言った。
「人間に「成りたい」んだな」
 だから私はこう答えた。
「いいや違うさ・・・・・・人間らしさに興味は無い。ただ」
「ただ、何だ?」
 私は夜空を見据えながら、続きを言った。
「その方が、面白いだけさ」

   9

 夜の公園には神秘がある。
 人知れず他人を始末したり、邪魔者を罠にはめることにも多々、使われるが、主に人間という奴は、昼間に使う存在は、夜に魔性を持つものだと信じてきているのだ。
 魔性。
 物の怪の類。
 そんなもの、いたところで切り捨てるだけだがしかし、不思議なものだ。こうして夜遅くに訪れただけで、迷い込んだ少女アリスのように、未知の世界へ足を踏み入れている。そんな気がするのだった。
 未知。
 作家にとって、それは蜜と同義だ。
 無論面白くて愉快なモノに限るがな・・・・・・そう言う意味では、今回の取材はうってつけだった。 依頼をこなして報酬を貰い、作品のネタも同時に手に入れる。美味しい話もあったものだ。 
 思うのだが、人間はその「未知」に金を払っている気がするのだ。既知の欲望に使うことも多いが「不老不死」だとか「無敵の肉体」を過去、多くの権力者が求めたのは、それが未知の領域だったからだ。
 皆が皆不老不死で無敵の肉体を持っていれば、金は払うまい。要は「必要」や「欲望」こそが、金を使う「理由」になるのだ。
 では、私はどうなのだろう?
 生活のために「必要」ではあるが、不老不死も無敵の肉体も「必要」でしかなく、無ければ別に構わない代物だ。少なくとも、私にとっては。
 ささやかなストレスすら許さない平穏なる日常・・・・・・だが、それは「環境」の問題であって、あくまでも私個人の生き方であって、金があれば実現できるが、金があれば実現するだけのモノだ。 心の底から欲しい、という「欲望」なのか・・・・・・いや、そういう暮らしは確かに魅力的ではあるのだが、しかし、それは「願い」なのか?
 願いだと思う。
 だが、その先は?
 私は何をすればいい、なんて私の言う台詞とも思えない。私は私の生活が守れればそれでいい人間だ。だから「生き甲斐」なんていうのは、物語を書くだけで十分だ。
 これ以上生き様が増えても困るしな。
 多ければ良いものでもあるまい。
 少なくとも、私はそれが望みなのだ。
 それを横からあれこれ言われる覚えはない。
 それこそ、余計なお世話だ。
 金の使い道か・・・・・・私のように「目的」が、強い野心が無い人間が増えている実状は知っているだろう。ある程度そつなくこなせる「才能」があれば、人間はさほど苦労せず、情熱無くとも生きていけるからこその資本主義だ。
 それに満足できない馬鹿は多い。
 やれ夢があればだの、生き甲斐が欲しいだの、誰それのようになりたい、だの。
 金があるなら満足しろ。
 無いなら金で買え。
 それが出来ない腑抜けが、何かを成し遂げられるとでも思っているのだろうか・・・・・・いや、別に何一つ成し遂げない方が、私個人からすれば、そういう「こなすための人生」の方が楽だし、金に不自由しなくて良いのだろうが。
 中途半端な才能に驕った悲劇とでも言えばいいのか、何とも間抜けだが、しかしこれは「満たされている人間は上を見ようとしない」という教訓なのだろうか?
 私は別に見たくもなかったが。
 まあ言っても仕方がない。良かれ悪しかれ私は未来を見据えなければならないのだ。奇矯な星の下に生まれた因果を断ち切るためにも、私は金の力で「平穏」を買いたい。
 買わなければ。
 前に進むためにも。
 無論進んだからってどうという事はない。それこそ神だか悪魔だかを喜ばせるために、私は生きているわけではないのだ。成長などどうでも言い話でしかないと断言しよう。
 人間的な成長ほど、寒い話はない。成長したから何だというのだ。それが金になるのか? 馬鹿馬鹿しい。
 世の中金だ。
 人間的に成長したところで、精神の内で自己満足しているだけで、そんな成長はあってもなくても同じモノでしかないのだ。ある意味何一つとして変わっていないのだろう。見える景色が、ほんの少しだけ「違う」ような気になるだけだ。
 実際には何も変わらないが。
 まぁ、私個人が一つだけ成長してこの世界に感謝してやっても良いことがあるとすれば、それは作品を書き上げることで、私が言いたいことはあらかた物語に詰め込めるという点だけだ。何か私に効きたいことがある奴には、作品を見せれば良いだけだからだ。
 そこに私の意見は全てある。
 この「私」はそこに載っている。
 説明の手間が省けて非常に良い話だ。無論、浅慮な読み手にはこちらの意図が伝わらない場合も結構あるのだが、手に負えない話だ。
 金さえ払えば客だがな。
 100万ドル払うのなら、誰にでもサインを書いてやるさ。欲しがる奴がいるのかは知らないが、とにかくそういう姿勢だという噺だ。
 金のために、書く。
 読者の成長など、知らん。
 私は誰かを成長させるために書いているのでは無い。あくまで「金」だ。誰かを成長させたりしたいなら教師になればいいし、何かを伝えたいならば大声で叫ぶ政治家になればいいし、感動させたいならば貧困地域をTVに写せば良いだけだ。 金、金、金だ。
 それで作家失格ならば、失格の方がいい。変に下らない愛だとか友情だとか夢だとか、そういう中身のない下らない物語を書いて、忘れられるまでの間だけちやほやされて、飽きたら捨てられる消費型の大衆娯楽に興味はない。
 そんなものはどうでもいい。
 ちやほやされたいならアイドルにでもなればいいものを、作家という生き物を、世は勘違いしすぎだ。そのおかげで私のような、読者をゴミとしか思っていない人間が、いらない苦労をする。
 作者と読者の交流、なんて下らない響きだ。にこやかに嘘の笑顔を作るのだって体力を消費するからな・・・・・・心の底から御免被りたい噺だ。
 多くの協力者に支えられて、などと言う成功者は多いが、協力者だって見返りを求めて協力しているわけであって、別に個人として協力したわけではあるまい。もしそうなら金にはならない。
 人を支えるのは金だ。
 人を押し上げるのも金だ。
 聖者ぶったところで、金が集まらなければ誰も噺を聞かないだろう。「人間らしさ」など、所詮金銭の多寡で買えるモノでしかない。
 だから人間らしさなど、別にいらない。
 人間を見るのは面白いが、人間らしさはいらない・・・・・・なんて、それこそ雲の上からの偉そうな神様目線だが。
 どうでもいいがな。
 思想も意志も、金があるから賛同者が出る。企業などその良い例だ。営業理念に共感する人間などどこにもいないが、金が貰えるなら品性だって売るし、信念だって売る。
 それが人間だ。
 生きるために、自分を切り売りする。
 そこに崇高さとか、人間賛歌など、あろうはずがないではないか。自分たちを美化しすぎだ。有り体に言えばそんな世界でも「自分」を維持してブレずに進むことを「生きる」と言うのかもしれない。生きていなくても、こなすだけでもむしろい人間という奴は、それなりに豊かでいられるのだが。
 豊かさと人間性は相反するものだ。
 下品であればあるほど、豊かだ。
 誰もが目を背けているが、見ればいい。
 あれが人間だ。
 まぁ、人間性が微塵もなく、金さえあればと考えている私に、こんなことを言われてしまうのだから、人間に先はなさそうだ。それならそれで、私は人間を辞めてでも、この世界を楽しむだけだがな。
 人間かどうかなど、それこそどうでもいい。
 どうでも良くないのは、金だけだ。
 私はTVが嫌いだ。下品な娯楽、下らない会話のバラエティ。そもそもそういうモノは、自身の周りの人間と楽しむものだったはずだ。そんなモノを見て面白い人間関係を娯楽にしなくても、周囲の面白い奴らと噺をして楽しむのが、本来の楽しみ方だったはずだ。
 大体が、何年持つのだ?
 物語なら、数百年でも持つだろう。だが消費娯楽は明日には消える。そんなものを楽しみにしたところで、何の意義も無い。大体が誰だってアイドル気取りの王様気取りは薬物と女と権力に溺れると知っていることだ。
 何も見ない方がマシだ。
 映像の向こう側の人間を幸せにしたい、なんてわかりやすく破綻している。それなら何故馬鹿みたいなギャラを貰っているのか、教えて欲しいものだが。
 まぁどうでもいい。
 言い訳をして生きている人間など、どうでも。 私からすればいてもいなくても同じだ。
 何故かな・・・・・・「満足した死に顔」って奴が許せないのだ。「満足して?」笑わせるな。そんなものではまだ足りない。私はそんな小さいもので満足してやるつもりはない。
 小さな幸せで満足などしてたまるか。
 もとより「出来ない」からこそ、私はこうも数奇な旅路を歩んできているのだが、しかしそれにしたって納得行かない。
 最後に満足できたから、いままでのことはそれはそれ、忘れて納得しろ、などと、持つ側の考えにすぎん。私は、
「・・・・・・考え過ぎかな」
 夜風に吹かれながらそんなことを考える。
 私は、私の道を往く。
 私は私の望む未知を愛でる。
 私は私のやり方で「手に入れて」みせるぞ。  幸福とやらをな。
 人間の真の幸福は、たまには私も正直に答えよう。愛がその答えかもしれない。だが、ここで問題なのは私は「愛」を感じることは絶対に無いことと、私の「道」にはその影さえ無いことだ。
 そもそもそれを感じ取れるようならば私は作家になど成ってはいない。感じるようになれば、それはもう「私」では無いだろう。
 そんな私は別人だ。
 この「私」が消えない限り、ありえない。
 消えるかもしれないが・・・・・・案外あっさり、時の経過で、あるいは人との出会いで人間らしく、道徳的になったりするのか? だとしてもそんなのは洗脳と変わるまい。仲間を増やす主人公が、私は大嫌いだ。今までの当人の苦悩と苦痛を、消し去って人間性を変えてまで、無理矢理仲間に仕立て上げるのだから、嫌いにならずにいられない存在だ。
 愛や友情、人間関係こそが真の幸福だったところで、私には無いも同然だ。それが正しいとしても、押しつけられる謂われはない。
 そんなつもりもない。
 だから私は、金を求めるのだ・・・・・・一定以上集めても、正直意味のない代物であるのは確かだがしかし、したり顔で「皆の笑顔が見たくてこの仕事をしているんだ」なんて、舐めた台詞だけは吐きたくない。

 私はそんなことの為に書いていない。

 私は、私自身の為に、この「私」が自身の選んだ「道」を歩けるように、ここにいる。
 それを曲げる奴は、誰であろうと始末する。
 読者でも神でも悪魔でも、敵とみなす。
 一番嫌なのは「俺たちよくやったよ」みたいな話をして、自己満足で完結することだ。例えそれがどんな道のりであれ、「結果」が形になり、豊かさを運ばないのであれば嘘ではないか。
 嘘は嫌いだ。
 私がつく分には構わないが、騙されるのは大嫌いだ。特に「生きること」に関して言えば。
 結果がなければ嘘だ。
 だから私は金を求めるのかもしれない。
 金とは、物事の結果なのだから。
 願わくば、あの世(そんなものがあるのかは知らないが、あるとして)にも、私の作品と、執筆道具と嗜好品は、持って行きたいモノだ。豊かさと執筆。この二つがあれば、少なくとも作家という生き物はどこでも生きていける。
 邪道作家なら尚更な。
 私は読者に何一つ期待していないし、金も払わないかもと思っている。読者からすれば無料で本が読めるに越したことはないから、立ち読みをするしな・・・・・・金も払わずに。
 私だって金を払わなくて読めるならそうするのだから間違いない。商売だと割り切るにしても、どうも要領の良い人間がやることでは無い。
 我ながら、割に合わない商売だ。
 読者、ふん。金を払うなら物語を売ってやるさ・・・・・・支払いは一律なのだから、お得意さまもあったものではないが、客は客だ。選んでいては金にならん。精々読むだけ読んで糧にしろ。
 私の糧を、分けてやるさ。
 それが何の役に立つかは知らんがな。
 傑作の物語とは「勇気」や「生きる希望」を与えることが条件だ。暗くうじうじ内側にこだわっているだけでは、思春期の餓鬼のポエムを読んでいるのと変わりはない。
 私は大層なモノは与えてやれないが、しかし、勇気も生きる希望も無い一人の作家が、ここまでやれるのだ。少なくとも読者どもには私以上の力があるはずだとして、ならば簡単ではないか。
 私でもここまでやれるのだ。
 貴様等はもっとやれ。
 私が物語を通じて伝えたいのは、案外そんな下らないことなのかもしれない。私のような何一つ持たない人間が、プラスマイナスゼロの存在が、強さも弱さも持たない人間が言うからこそ、説得力を持つ言葉は、確かにあるはずだからな。
 それが金に直結しないのが何とも悲しい事実だが・・・・・・言っても仕方がない。
 上手くやるさ。
 多分な。
 夜空を眺めながら考える・・・・・・私はどこへ行くのだろうか? この、何一つ持たず人間を捨てているこの「私」が行き着くところは、どこだ?
 人並みの幸福か?
 正直、想像はついても、それこそ説得力がない噺だ。そんなものが「私」にあるのか?
 言っても仕方ないが。
 夢や幸福を叶えたら、案外実は思っていたほど幸福でなく、叶えない方が幸せに成れるケースは珍しくもない。金にだけは成って欲しいものだ。 そこだけは、誤魔化したく無いからな。
 誤魔化して生きている人間も多いがな・・・・・・肩書きの大層な人間が、科学が発達するほど増えてきている現状は、個々人の「強い自分」を殺すことでできあがるものだ。私は我の強い人間が大好きなのだが、神も人間も「肩書き」を取ってしまうとたちまちしょぼい場末の悪役に成り下がるのだから、呆れたものだ。
 己は無いのか?
 強さを奪えばそれだけか?
 何もかもを失っても消えない、確固たる己自身の業と生き様を、私は見たい。
 私自身が最近そうなりつつある気がするが、私は別に自身でそう在りたい訳ではないのだ。見る方が面白いしな。
 人間は、いやこの世界では「自分」というのが小さくなってきている。神も人間も、力ばかり蓄えて随分小さくなったものだ。
 私は「邪道作家」としての自分自身を変えるつもりはさらさらない。誰がどう私を説得しようが私は読者より金を大事にするし、作品のため、己自身のためならば、世界が滅んでも構わない。
 無論、戦況に応じてそんな自分の意見すらも、変えてしまうのが私だが。
 だが、そんな私でも世の中を楽しむことと、己自身の幸福だけは忘れられそうに無い。道中、楽しめれば良いのだが。
 私の選んだ、道の果てで。
 私は人生を謳歌するのだ。
 それが私の望む光景だ。
 私は。
「着いたぜ」
 ジャックの声で私はふと、前を見た。そこには今朝の泉が置かれているのだった。
 私はミイラになった赤子の手を投げ入れた。
 賽は投げられたようだった。

   9

 押しつけがましいのは御免だ。
 真実の幸福が「愛」だったとして、私は別に、そのために犠牲になるつもりは無い。人間関係こそが幸福そのものだったとしても、だからって何故「それ」を決して共感できないこの「私」が、それで満足しなければならないのだ。押しつけがましい、どころか今まで散々な道のりだったというのに、後からそんな幸福を押しつけられても、図々しいにもほどがあるとしか、私は思わない。 自己満足なら余所でやれ。
 私に押しつけるんじゃない。
 金も払えない奴に限って「道徳的な」幸せってモノを説くからな。迷惑な話だ。
 思想を押しつける前に金を払え。
 話はそれからだ。
 押しつけられるつもりなど毛頭無いが、話だけならば聞いてやる。聞くだけだがな。
 「愛」も「心」も「信念」も、現実に何の力も持たないと言うのに、それが「尊いもの」だから尊べなど、押しつけがましいにも程がある。
 現実には力と金だ。
 仮想現実がこうも普及したのは、何の危険もなくそれらを実行でき、かつ安全な場所から危険を楽しめるからだろう。「失敗したら」を考えずに物事に挑戦し続けられれば、この世は楽園だ。
 現実にはそうも行かないが。
 仮想世界、ゲームならそれは可能だ。
 ゲームが普及するのは、そういう本質的な人間の欲望を叶えるからだ。スリルは欲しい。だが痛いのは嫌だ。だから楽しめる。
 対して、現実に私は生きているわけだが、プロとして現実を捉えるのは簡単だ。何事も自身への糧にすればいい。全ての事柄を作品の為に活かし全ての経験を作品の中で活かす。
 全てを仕事に変えるのだ。
 それがプロと言う生き物だ。
 始末屋家業も、取材旅行も、プライベートも、読んだ本の内容も、偶さか得た知識も、己を構成する全てを作品に昇華する。
 それこそが、作家の在り方だと、私は思う。
 作家とは、無論売ることも重要だが、売り続けること、すなわち読まれ続けることが重要だ。読まれないなら書いても仕方ない。だが、それでも書き続けそれでも生き方を反映し、そして
生涯を賭けて物語を綴り続ける。
 それをやり遂げて、初めて作家なのだ。
 死ぬまでやり遂げれていない私は、だから邪道の作家なのさ。
 構わないがな・・・・・・私からすればいずれやり遂げる事柄でしかない。精々この道中を楽しめるだけ楽しむだけだ。
 名声や、手柄などいらない。ちやほやされたいならアイドルにでも成ればいい。大体が私は人の意見が嫌いなのだ。何も嬉しくもない。
 ただ、一つの結果があればいいのだ。曰く・・・・・・・・・・・・その作家は世界最高の物語を書いた人物である、とな。最高の傑作を書いたという結果さえあれば、その他大勢の結論など知らん。金さえあれば読者に媚びを売る必要すら無い。
 好きにやるさ。
 金が無くてもやるがな。
 だからこそ、金があるに越したことはない。どうでもいいことでストレスを貯めたくはないしな・・・・・・今回は金になったし、またゆっくりと釣りでもしながら、作品の構想を練りたいものだ。
 そして、また傑作を書く。
 何度も何度も、ずっと。
 他でもない「私」の為に、私が書くのだ。
 「正しさ」というのはどこにも存在しない代物でしかない。仮に「あの世」があったとしてそこに「天国」があり、全知全能の「神」がいたとしても、その正しさは押しつけがましい権威にモノを言わせたものでしかないのだ。「正しさ」やそれに付随する「道徳」など、人に押しつけて満足するものでしかない。宗教が良い例だ。神の教えに背いただけで、人間は天国に行けない。天国に行けるかどうか、それを肩書きが大層立派な存在の一声で決めるのならば、それは暴君と変わるまい・・・・・・例え神でも、絶対的な「正しさ」など持ちようがないのだ。
 まして人間が持つはずもない。
 だから私が言いたいのは「自分で決める」ということだ。何が正しいか、何が間違っているのか・・・・・・殺人が悪か人助けが善か、などと流されるんじゃない。
 人殺しが栄光の時代もある。
 人助けが迫害の時代もある。
 善悪など、簡単に入れ替わる。
 宗教という奴は言わば、「絶対に間違わない」と思える「強い存在」であるところの「神」に、思考をあわせることで楽して「正しい基準」を手にする行為だ。
 私から言わせれば人生をズルしている。
 イカサマで生きている。
 そもそも、神がいたとして、何故正しいのか不明だ・・・・・・単にそうあって欲しいだけではないか・・・・・・神が正しければ、それにあわせるだけで、人間は清く正しく美しく・・・・・・そう成れると、思いこみたいだけだ。
 私は信仰など当然持たないが、成る程神はいるかもしれない。だが、神が正しい保証などどこにも無いではないか。
 これは政治にも言えることだ。
 世界って奴は何かを求めれば何かその分だけ、足りなくなるよう出来ている。全知全能の神が居たところで、それは同じだ。偉く有能であることはむしろ、間違いを犯したとき誰も注意できず、誰も咎められず、そして力の分だけ大きな過ちを起こしてしまうと言うことだ。
 偉ぶる奴などそういうものだ。
 権威がある時点で、大したことはない。
 ただ我が儘を通せるだけだ。だから、自分の基準で物事を計り、例え誰に何と言われようとも、押し通す意志が人間を光らせるのだ。
 最近はそういう人間も減ったが。
 だが、減っただけで、消えてはいないか。
 そうあって欲しいものだ。
 まぁ私の場合、迎えに来て欲しい人間など一人も居ないし、再会したい奴もいない。あの世があったところで、迎える奴がいないだろう。
 そうでもなくても、居場所はなさそうだが。
 一人で生きるという点を鑑みれば、あの世にいようが現世で長生きしようが、やっていることは同じだろう。
 何一つ無くても、生きる。
 ただそれだけだ。
 魂の幸福など、私には無いのだ。
 無いモノは無い。
 それでも私は歩いてきた。
 これからも、そうするだけだ。
 あったところで感じ入れないのだから、あったところで無いも同然だが。精々金を使って人生を楽しむさ。
 とりあえず平穏が買えればいいのだが。
 ミイラの手を投げ入れると、中から形容し難い「存在」が、そう、「存在」という言葉であっているのだ。人間ではないが宇宙人でもアンドロイドでもない。強いて言うなら人形のようだった。 糸で吊られた、不出来な人形。
 私の抱いた感想はそれだった。
 どこからともなく現れた「それ」は、頭に出来損ないの半円の耳と、腕は関節がむき出しになっている人形の腕のような、肉の付いていない外郭を持つのだった。体長は3メートルくらいか?
 不気味な存在だ。
 生き物ではあるまい。
「オマエダ」
「何だ、こいつ」
 喋れるのか。
 ますます不気味だ。
「オマエ、「資格」ガアルナ。選ブガイイ。対価を支払ッテ何ヲノゾム?」
「生憎、依頼の関係上ここに来ただけだ。依頼主が敵対している奴らの情報収集に、今回の件がお誂え向きだっただけで・・・・・・望みなど無い」
 私を監視する人間たちを、今頃ジャックがあらゆる電子網を使って情報を整理し、私の依頼主である女、タマモと敵対する組織の情報を、得ているはずだ。
 ここに来たのはその特性上、何か作品のネタになるのではと思ったからだ。
 それ以外の、理由は無い。
 何一つとして、ありはしない。
「ウソヲツクナ」
「何の話だ」
「オマエは「愛」がホシイノダロウ? ダガ理解はデキテモ「共感」デキヌ自身に絶望している」「下らん」
 だとしたら、何だ?
 無いモノは、やはり無い。
「話は終わりか?」
「終ワリダ。ダガ、無駄ダゾ・・・・・・オマエは幸福ニナドナレハシナイ。ココで多くの「人間」をミテキタ。オマエは一人ダ。ダカラ幸セガ存在シ得ナイノダ」
 生まれたときから一人のオマエには。
 幸せなど概念からして存在しない。
 そんなことを「番人」は言うのだった。
 それでブレる私でもないが。
 それで笑いながら逆の事を言うのが、私だ。
「だからどうした? たかが「幸福」など私には必要ない。いや、私は金があればそれを「幸福」と、そういうことに出来る」
「無理ダ」
「構わない。無理なら無理で他の楽しみを探すまでだ・・・・・・いずれにしても、いいか良く聞け、私の幸福は、私が決める。誰に何と言われようが、私は私の選んだ道を、間違っているとは思わん」「ダガ、不可能ダ。生物の幸福トハ、それが私利私欲の「欲望」カラ来ルモノデスラ、他者がイナケレバナリタタヌ」
 そうかもしれない。
 だが、それを決めるのは「私」だ。
 お前達では断じてない。
 私が決めることだ。
 したり顔で勝手を言うな。
 成り立つがどうかは、私が決める。
「それを決めるのは私だ。答えを決めるのも、やはり私だ。偉そうに口だけ動かしたところで、私は貴様の意見などに左右されない。私の道は私が決める・・・・・・さて、実を言うとお前の、「等価交換を行う化け物」の処分も私は依頼人の女に頼まれていてね。お前こそ、何か言い残すことはあるのか?」
「ナイ。ダガ、ソウカ。ワタシは、多クノ人間が「人間関係」ヲ求メル姿ヲミテキタ。ワタシは、人間ニ、ナリタカッタ」
 夢見るように、人間でない「それ」は、空を見上げてそう口にした。
 だが。
「そうか」
 何の感傷も持たず、私は怪物を切り捨てた。
 何も、思わなかった。
 何一つ、感じなかった。
 それが私だった。
 邪道作家のサムライの姿だった。




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