邪道作家第五巻 狂瀾怒濤・災害作家は跡を濁す 分割版その1 続話リンク付
新規用一巻横書き記事
テーマ 非人間讃歌
ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)
縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)
簡易あらすじ
業は金を超える。命すらも。
当然だ。だからこそ善悪を超越した概念として語られ、これだけ豊かな時代においても人を悩ませ死に至る。
扱いきれなければどうなるか? たまに、自殺する有名人だとか金持ちだとかいるだろう? あれはまさに「命以上のもの」である業を、何一つ持たざる結果だろう──────生きる死ぬなど、瑣末事だ。
それ「以上」の何かがあれば、絶望して死にはしない。下なのだ。貴様ら下っ端のカスに何かを言われて、絶望で首を括るのか?
しない。誰でもそうだ。私は勿論、物語を売り捌く為に、大抵の人間は金の為に。
言っておくが、違うぞ••••••他の方法でどれだけ金を稼いだところで「満足」には至らない。そう、あくまで「物語」を金にし「やりがい」にせねばならんのだ。
そんな非人間が、未来の極まった連中に対して何を思うか? これはそういう物語だ──────なので、人間に学ぶところがあるかは分からない。
全てが非人間、サイコパスの感覚だ。であれば、殺人鬼に見せるが相応しい。
だが、残念なことに大半の人間はまだ「善良」を自称するつまらない民衆だからな••••••一般人向けに語るべきか?
そうだな、ではこう言おう。
生きている意味が分からない。
命より重いものなんて見つからない。
自身に、足りない「何か」が欲しい。
──────そんな奴なら読むがいい。少なくとも私にそんな「暇」な悩みなどカケラも無いことだけは、確かな「事実」だ。
非人間を参考に、人間性など捨ててしまえ!!
さあ、もう遅い。ここから貴様も、非人間へとなるがいい!!
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この物語は有料だ。
立ち読みをするんじゃない。
思うに、人間とは生まれや育ちで大体決まってしまうものである・・・・・・宿業が深ければ尚更だ。 その業が物語。
書きたくない書きたくない読者の事なんてどうでもいい。金だけあれば十分だ・・・・・・そんな風に思いながら、嫌々、今日も私は物語を紡ぎ、読者共に嘘っぱちの希望を魅せ、金にしている。
そういえば、だが、作家になるのに才能とかそういう「優秀さ」が必要なのかと、以前人工知能に問われたことがある。
答えは当然、否だ。
そんな訳がない。
そも、良ければ売れるわけでもない。
マーケティングとデジタル面での独占能力こそが、作品の善し悪しを左右するこの世界で、才能など実に下らない、あろうがなかろうが存在が無意味なものでしかない。
まぁ私には才能も無かったが。
科学的に説明(科学も宗教みたいなものだからいかがわしくはあるが)すると、人間には身体のイメージ、確かボディイメージ(そのままだが)と言う機能がある。
身体を思考とブレさせないこと。
これが意外に、難しい。
所謂普通の人間は、これが十分に発達していないらしく、武術家などはこれを鍛えに鍛え、思い通りの型の動きをするそうだ。作家の場合、思考と意識の表現、つまり文字によって自分自身を、物語という枠で表現すること。
これは誰でも出来る。
時間さえかければ、だが。フランス語を馬鹿でも数ヶ月住んでいれば話せることと、理屈は同じだろう。
誰にでも出来る。
時間をかけなくてもそれこそ、私みたいに何十年も賭けずとも、出来る人間はいるだろう。ただ、人の心を魅了するとなると、それだけでは、何の意味もない能力だ。
破綻した人生を送るほど、面白い。
まぁ、私は別に作家として大成しても、嬉しくも何ともないので人事のように話すが・・・・・・それに全てが全て、そうでもないだろうが、そういう人間の方が、狂気のある人間の方が、普通の人間では届かないし行こうともしない部分を表現できるから、魅了しやすいと言う噺だ。
どうでもいいがな。
問題なのはあくまでも私個人の利益だ・・・・・・だが業というのは厄介なモノで、外すことが出来ないからこそなのだろう。私の場合案外あっさり外して幸せになれるかもしれないが、大抵は、大抵の行き着いた人間は、作家は特に、早死にする。 苦悩か貧困か病か、いずれかがないと人間は思い上がるとかそんな言葉もあるが、しかしそんなもの無いに越したことはない。苦悩したことなど人生で一度もないが、他二つは明らかに邪魔だ。 私は原因不明の病を抱えている。
だから何だって噺ではあるが、しかしどうだろう? 私は病にかからなければこうも、自己中心的で清々しいまでに己の保身を気にする人間に成ったかと言えば、正直分からない。
長所は短所であり、短所は長所であるならば、今後の私の課題はその業を克服することだろう。 背負った業を、そのデメリットを克服する。
これが出来ずに大抵の偉人は苦悩して死んでいるが、私はそうなるつもりもない。金以外で何かに悩んだことなど、一度もない。
世界は金で出来ていると私は言ったが、あれは嘘だ。訂正しよう。
世界は金で動いている。
そして、世界を金が動かすのだ。
どちらかでは足りまい。世界とは所詮、個々人の自己満足でしかないものだ。だからこそ、私は決して満足しないこの身を、満足させなければならないのだろう。
満足。
あり得ない噺なので、いやただ満足したいだけならコーヒーでも飲めばいいのか? とにかく、人生における充足みたいな意味合いを、私はあまり「作家」という生き方に、期待していない。
辞めることも出来ていないが。
実際、何故辞められないのか不思議だ・・・・・・案外あっさり、金が有り余っていれば、それこそいつ辞めたって良いのだが、人生における「やりがい」や「生き甲斐」として、自身で固定してしまったからな。
今更外すのも面倒だ。
他にアテがあるわけでもない。
生き方など私にとってはオプションパーツみたいなモノだがな。いずれにしてもどうでもいいことだろう。今やっている生き方に、あれこれ言ったところでどうなるわけでもあるまい。
今回は、そんな人間の業について語ろう。
と、言ってはみたものの、案外私のことだ。突然手のひらを返して幸福について語り、家族の素晴らしさを頼まれてもいないのに無理矢理説明して、したかと思えばひっくり返す。
かもしれない。
先の見えない物語であることだけは保証しよう・・・・・・なんて、これもただの思いつきだが。
読者に魅せること。
それだけは確実だ。
問題は私の魅せるモノは、悉くが「人間の裏側であり、見ないで済ませようとする部分」であることだろう。だから
読み終わった後に、後悔だけはしないように。 まぁ、読者共の心情など、知らないがね。
1
プロというのは生き方をはずせない人間の在り方だ。ならば私はプロの作家ではあるものの、私の作品が人の心を打つのかと言えば、打つ気はあまりないが、物事の事実を突きつけ、「お前たちの信じる正義など、その程度だ」と、あざ笑うことを考えていることだけは、確かなことだ。
革製の鞄を置いて、私はカフェでコーヒーを飲みながら、次回作を検討していた。正直そこまで頑張って書く必要はどこにもないので書きたくもなかったが、だから私は指が痛いから書きたくないなぁと嫌々、渋々、書いていた。
手が勝手に動くのだ。
動かなくていいのに。
比喩ではない。迷惑な話だ。私の掌部分は何かにとりつかれているのかと思ったが、しかしよくよく考えれば、長い訓練(そんなつもりはまるで無かったが)のおかげか、私には思考と表現のブレが無いどころか、腕が勝手に動くのだ。先んじるのは素晴らしいが、少し体力を考えて欲しい。 能力のある人間が羨ましい。
楽そうで・・・・・・能力の有無で言えば、私は計るべき能力が無い、測定不能ではなく能力というカードそのものを最初から持ってはいないので、私からすればどうでもいい話だが。
過程が華々しいだけだ。
結果が在れば、構わない。
だが、能力の多寡と言うよりは、この場合、理屈からも理論からも、あらゆる常識を意にも介さない人外の方が問題だ。・・・・・・作家にはそういう人間が多いな。それに、そういう人間は総じて「ちょっとそこまで」感覚で、世界をむちゃくちゃにするものだ。比喩でも何でもなく、実際その人間の書いた物語を読んだ人間が、次々に自殺するという実話を聞いたことがある。こんなのは、能力とか技術とか、そういう理屈で計れる領域を越えている。
まさに人外魔境だ。
私のような普通極まる人間には、理解しがたい話だ・・・・・・まぁ、自身が異端であるかさえ、目的となる結果が伴えば、どうでもいいのだが。
私はそうだ。
どうでも良さ過ぎる。
悪の自認があるかさえ、どうでもいいのだ。
悪だと自認したところで、別に何をもらえるわけでもない。金を払うなら考えるが。
まぁ善人ではないだろう。
しかしそれほど大層な悪かどうかは、結局は周りが決めることなので、どうでもいい。そこまで大層ではないと、後から文句を言われても、私からすればただ迷惑なだけだしな。
偽悪者ぶるつもりも・・・・・・いや、私の場合間違いなく生まれついての悪、それも極めて珍しいタイプの、悪の自覚と、感情によるブレーキのない存在そのものがどうかしている悪なのだが、変に期待されても困るしな。
私は生まれついての悪だ。
だが、そんなことはどうでも良いことだ。
問題は金になるかどうかだ・・・・・・善も悪も社会の都合でしか無いのだから、気にするだけ無駄と言うものだ。社会が変われば善悪の基準も変わるのだから。
そんなものは、どうでもいい。
そもそも、人間はすべからく生まれついての悪なのだ。善人など、一人もいない。
誰かの悲鳴で誰かの希望が出来ている。
世界は残酷で、汚い部分を見なくても、生きていけるほどには寛容だ。
この世界で生きると言うことに対して、まじめに考える人間は随分減った。世界は変わらないが人間は小さくなった。その上で言うが、人間、いや人間以外の存在でも、生きる、ということは何かを成し遂げるための行動だ。
私は既に成し遂げている。
成し遂げ続けている。
物語を、紡ぎ続けている。
だからこそ思うのだ・・・・・・私は生きている、間違いない。だが、人間というのは、誰かに何かを託して伝え続けることを良しとしてきた。
それこそが種の存続だと。
だが、私には伝えるべき相手も、伝えたい相手もいない。読者共がいるだろうと思うかもしれないが、しかし、どうでもいい。
伝えたい相手ではない。
第一、伝えることは出来ても、託せまい。
託すに値しないと言うよりも、私の意志を受け継ぐ存在など、いるのだろうか? いたとして、受け継がせるのは趣味じゃない。
虚無からでなくては。
何もないところから産まれる狂気にこそ、輝きがある。それがなんであれ、受け継いだものでは意志が弱い。
所詮他人のモノだからだ。
だから私は、人間としてのまっとうな生き方よりも、死んだ後のことなど知らないとばかりに己自身だけを見据えて、ここまで来た。
それが間違いかどうかなど、知らない。だが、誰にどう言われようが、間違っているとは思わないだろう。
思う気はない。
私は、間違っていないと、人間としてはどうだか知らないが、作家として、成し遂げていると、自信に誇りを持てるだろう。
問題なのは、そう。
私が愛すらも持たずに産まれた最悪の人間であること、ではない。
私は、己の道を信じることは出来ても、満たされることが、心を満たすことが、出来ないのだ。
被害者ぶるつもりはないし、悪人ぶるつもりもない。だが、人間として手に入れるべき実利が、私の場合掌からこぼれ落ちる。
許せるものか。
人間の信念、など、私は信じていない。私は作家としての業を背負ってここまで来た。信じることは最初から、選択肢にない。
だが、それならばどう幸せになればいいのだ。 方法が無いなら探せばいい。だが。
それも、随分長い旅だった。
まだ、続くのか。
もうそんなモノはないと、諦めてしまおうか。 それもいい。
とはいえ、作家として生きるなら、諦めはしても考えることを辞めるわけにも行くまい。だからこそ、私はここにいる。
さて、どうするか。
今回の依頼は
「主人公を殺して貰いたいのです」
そう女の神は私の前に立ち、言い放った。
2
「どういうことだ?」
「言葉の通りです」
彼女は上品に紅茶を飲みながら(カフェで頼むのはコーヒーだろうに、邪道だ)これまた上品にカップを皿に置いた。
相対する、と言う言葉がふさわしい。
我々は相席で、相対していた。
願いを持てない人間。
願いを受け、叶える神。
涙を理解できない人間。
人に干渉し涙する神。
叶わない目的を追い続ける業深き人間。
叶わない人間との交流を、夢見る神。
人間。
神。
相対していた。
鏡のように。
実際、向こうからこちらはどう見えているのか・・・・・・興味深いものだ。
勿論、私からは、神など人間に搾取され、いいように使われているだけの、被害者にしか見えはしないのだが。
人の願いを叶えるなど。
わかりやすく破綻している。
誰かのために何かを成すと言うことは、結局のところ己自身を殺すことに他ならない。神に強い自己が在ったところで、それら神の都合は悉く無視されるモノでしかない。
役に立たなければ捨てられる。
これが神の正体だ。
この世界の、あらゆる「ヘタ」を掴まされているだけの、ただの被害者に過ぎない。
どうでもいいがな。
いっそのこと、私の作品を読ませることで、私のような人間を量産できればいいのだが・・・・・・我ながら悪くないアイデアだ。
全ての人間が他人を思いやる「フリ」を辞め。 堂々と開き直って、己のためだけに生きる。
そんな世界だ。
まぁ、私と一般人の違いなど、思いやるフリをしているかどうか、感情豊かに振る舞って自身に感情があると思いこんでいるか否か、ただそれだけの違いでしかないしな。
そういう意味では、あまり違わない。
私が最悪なら、彼らは邪悪だ。
いや、醜悪と言うべきか。
自覚のない悪など世界に満ち満ちている。ただ見ないフリをしているだけだ。ただのそれだけ。 世界は自己満足で出来ている。
どうでもいい、自己満足で。
それを通すのは、やはり金だがな。
私は自分のコーヒーを飲んで一息ついた。世界がどうなろうと知らないが、コーヒーは不変であって欲しいものだ。
欲しいモノはどこにもない。
だが、いらないものならある。
それが私の人生観だ。
不必要なストレス、想定外の事態という困難を私は心底嫌う。人間の成長はさぞや美しいのかもしれないが、私は別に、成長するために日々、物語を書いているわけではない。
あくまで金のためだ。
平穏のためだ。
だから今回の意味不明な、それでいてあまり酔い予感のしない依頼内容は、十分驚異に値するモノだった・・・・・・もっとも、警戒しようがどうしようが、物事は起こるべくして起こるのだが。
「貴方は所謂「強さ」をどう思いますか?」
「強さだと?」
そんな事を聞いて、どうするのだろう?
彼女は言った。
「仕事の参考に、ですよ。私はともかくとして、今回の標的は「それ」を意識した結果、手に負えなくなった節がありますので」
「意見を参考にしたいというわけか」
実際始末しに行くのは私だろうが、ふん。そりゃ考えなかったほど、私は考えない人生を送れなかったからな。
いいだろう。
そういう「持つ側」の人間の悩みなど、理解は出来ても決して共感はしないだろうが・・・・・・暴いてやるとしよう。
「彼ら「持つ側」は、弱さを求める。同じ視点で生きたいからだ・・・・・・贅沢な話だ。しかし「強さ」など、逆に言えばその程度でしかない」
貴様等が求めるモノは。
凡俗の憧れの対象など。
その程度のモノでしかない。
「その程度、ですか」
「ああ。その程度だ、生きることを楽にして、後は暇つぶし程度の効力しか持たない。強さなどその程度だ。だからこそ、「弱さ」を求める」
もっとも、行き着いたモノほど、真逆を理解するのは難しい。弱さを手にするのは簡単だが、しかし理解しようとも出来ないのである。
本当に不便な奴らだ。
まったくな。
「だが、同様に・・・・・・「弱さ」というモノが、特別光を放つわけでもない。自己満足のこの世界で「世界に価値は無い」と自覚させるだけだ。つまり当たり前のことが見えるようになるだけだ」
「貴方は」
どちらなのですか?
そう女は聞くのだった。
答えは簡単だった。
「どちらでもない。私には、強さは勿論、弱さも無かった。ただの事実として、私はどちらにも成ろうとも思えない。思おうとしても思えない。だから」
「人間になりたかった?」
愛が欲しかったかって?
残念ながら、それすら違う。
私にはそんな便利なもの、心はなかった。
「それも、違う。私には「望み」が無い。金も執筆も、生きる上での最適解、生き甲斐には作家業は「便利」だったし、金はあるに越したことは無いのは必然だが、それは必然であって、必要だから欲するという当たり前の事だ。思い出の無い人間など死体も同然と言うが、私には本来、思うべき事柄すらも、無いのだ」
怪物は心の有り様を求めるだろう。
英雄は人間の弱さに近づきたがるだろう。
人間は憧れから未来を見るだろう。
何も無い。
何も無かったんだ。
それを悲しむことすら、悲観すら、しない。
だからこその、私だ。
「だから私に願いは無い。金が欲しいのは本当だが、本当だったかな。とにかく、美味いモノを食べて悪い気はしないさ。だが、別に金があっても私は全く、満たされない。どころか、世界一の美女を抱いても、私は何も思わない、精々ストレス解消になったくらいだろう。どれだけ美味いモノを食べようが、栄養を気にするだけだ」
コーヒーの良さも、本当は良く分からない。ただ気分が紛れるだけだ。
所詮化け物に、人間や怪物や英雄の真似事など出来るはずもない。
しかし私はそれを悲観すら、できない。
悲観に暮れて、問題を楽に消費することすら、私には理解できないのだ。
「私は自身を悲観したことは一度もない。当然だ・・・・・・そんなものは、金になれば同じ事だ。どうでも良さ過ぎる。私は悲劇のヒロインではないのでな。大体が、助けを求める相手もいまい」
「だから、貴方は金を求めるのですか? 自身を誤魔化すために」
「それは人聞きが悪いな。いや、実際金は生きる上で必要だろう? 余計なストレスは避けたい」「それだけですか?」
「それだけだ」
必要だから。
ストレスを軽減するために。
予想外を排除するために。
「貴方は、そんな理由で」
「そんな理由で、生きているのさ」
哀れまれる覚えはないのだが、女は哀れむように私を見るのだった。そんな茶番は要らないから金を払えばいいモノを。
いや、違うのか。
この女は、それこそが私の足掻きだと、そう見抜いているのだったか。
どうでもいいがな。
「しかし、大層な理由がない以上、どうでもいい理由で生きるしかあるまい。それに、金が在ればどんな人間であれ、生存は可能だ」
心外、というか憤慨したようだった。
私を糾弾するように、彼女は言った。
「・・・・・そんな生き方は、狂っています」
「だろうな。で?」
それが、何だ。
どうでもいい話だ。
どうでも良さ過ぎる。
「弱さも強さも併せ持たない。平等すらも切り捨てて、悪平等すら鼻で笑い、人間性などハナから持たず、本来あるべき心無い存在の悲しみすら感じ入らずに、ここまで来た」
「そんなモノは」
人間じゃない。
そう言いたいのだろうか。
どうでもいいがな。
些細な違いでしかない。
四本足でも八本足でも、いや、それは構うか。 気持ち悪いしな。
見栄えしなければ様にならんしな。
背が高くて、本当に良かった。
なんて、ただの嘘かもしれないが。
「どころか、私は・・・・・・何だろうな。定義なんてどうでも良いが、しかし、難しい」
「貴方はただの最悪ですよ」
最悪か。
そんな安い言葉で表されるのも何だか皮肉だがしかし、実にしっくりくる。
「もう、いや、最初から人間の領分を越えています・・・・・・そんな思想は、本来あってはならないものですから」
何でも良いが、あまり私は過大評価が嫌いなのだ・・・・・・後から手のひら返されても困るからな。 そんなに大層なものなのか?
私はただ、ただ、何だ?
私はただ、怪物が尊い願いを願いような、そんな感情すらも無かった。だから
何もないのに、在るかのように振る舞っただけだ・・・・・・目的など無い。
動機も、本当は無いのかもしれない。
幸福など、信じてすらいない。
確かに、最悪だ。
これ以上は、望めまい。
「私は構わないがな。問題は」
そう、問題は割に合わないと言うことだ。
「普通、こういう奇特な環境下にいる奴は、金とか仲間とか能力とかに恵まれるものだが、私には何もなかったのでな。金くらいは、無くては困るだろう?」
「嘘ですね」
「何がだ」
「困らないでしょう?」
「霞を食って、生きてはいけまい」
「でも、食べていければ、最低限の生活さえ確保してしまえば、貴方には、金すらも、あってもなくても、同じでしょう?」
なるほど、確かに。
必要から求めている。
だから、あながち間違いでも無かろう。
「確かにな。まぁ必要だから欲しいがね」
「素直に、混ざりたいと言えば、いいじゃないですか」
「違うな」
だから、私にはそれすらも、無いのだ。
無いモノは、願えまい。
「私には、憧れることすら、出来なかった。だから意味はないんだよ」
何故こんな七面倒な説明をしなければならないのか意味不明だったが、しかし仕方在るまい。
「私に願いはないんだよ、思いでも、共に在りたい存在も、夢見る奇跡も、人間の輝きも、人が望むあらゆる全てを」
望めなかった。
欲しいと思えなかった。
その上で、他に欲しいモノも、なかぅた。
「だからこそ、欲しい、欲するのに足るものだと願い続けることで、手に入らないかとは思わなかったが、何かヒントくらい出るかと思ったのだがな・・・・・・それも無駄足だった」
何の意味も、価値も無かった。
何も、相変わらず、無かった。
何も無い世界で生きているのだった。
「だから金だけ在れば十分だ。世界は所詮自己満足・・・・・・適度な生活と平穏なる生活」
今はそれだけだ。
「それは逃げではないですか?」
「だとしても、どうでもいいな。大体が向かっていけば大抵、望むモノは手に入っていない」
金は入った、という事にしておこう。
縁起でもないしな。
「それに、私に勝利は、出来ない。求める勝利が無いからな」
「それは嘘でしょう。貴方は人間らしさ、その尊い幸せを求めていたはずだ」
「だとしても、手に入らないなら無いも同然だ」 似たような話をした記憶がある。
つまり常日頃から意識しているって事だ。
「人間らしさ、か。それこそ戯れ言だ。そんなものは、結局どこにもないのだからな」
「孤独を恐れる心、共に手を取り合い、安心する心こそ、人間らしさですよ」
「そうだな、そして・・・・・・私には孤独など痛くも痒くも「感じられない」し、感じる気もないし、感じたところで要らなくなれば捨てるだけだ」
「そんなのは」
「そう、人間ではない。どうでもいいがな。私は人間らしさも愛情も、友情も憐憫も、別に欲しいと思ったことは一度もない。ある方が人間らしいと伝聞の伝聞みたいな情報で知り、ならそうあれれば良いなと思っただけだ。実際、無かったわけだが・・・・・・」
実に傑作だ。
求めてもいないモノを「欲しい」ということにしなければならないとは、皮肉だ。
それでも金は欲しいがね。
金があれば何でも買える。
「まぁ無いなら無いでいいんだ。金さえあれば優雅に生活でき、所詮この世は自己満足。精神の充足など金で買える」
「そう思っていないからこそ、貴方は物語を書いているのでは?」
そうなのだろうか?
だとしても、結果的に手に入らなければ、最初から無いも同然だろう。
物語の中だけだ。
人間が、人間らしく生きられるのは。
「・・・・・・少なくとも私は、金のない生活など御免だがな・・・・・・そんなモノがあろうと無かろうと」「話を逸らさないで下さい。貴方は」
人間が、欲しくないのですか?
人間の温かみが。
人間の勇気が。
人間の誇りが。
欲しくないのですか、と。
そう聞くのだった。
だが、
「いや、そんなもの、物語の中で読めればそれでいいさ。どうでもいい。それは金になるのか?」 と答えられる私は、やはりブレない人間性を持って要るものだな、と感心すらした。
「幸せにはなれないかもしれないが、まぁ幸せよりも愉しめるほうが面白いしな。愉悦、か。まぁ私の場合は、高笑いしながら全てを楽しみ尽くして面白ければ、それでいい」
勿論、金がある前提で、だが。
別に構わない。
どうせ一時間もすれば別の思想を話していそうだしな、私の場合・・・・・・それもまた、別に構いはしないが。
「金を言い訳にしているだけですね」
「言い訳ではないな。とはいえ、実際欲しくもない「人間らしさ」を求めるのも、面倒だ。あれば良いがなくてもいい。孤独を苦痛どころか、まともに認識すらしない人間だからな」
物語なら心無いことに苦悩したりするモノだが・・・・・・そんな「弱さ」すら、持ち得ない。
確かに、最悪だ。
金になれば、どうでもいいがな。
「面白いしな、金を使うのは・・・・・・愉しみだと、そう言うべきかもしれないが。ここ最近何度も聞かれているのだが、私は才能で作家に成った人間では無いのでな・・・・・・人間のあらゆる普遍的な幸せという幸せと、私は無縁で生きてきた。あらゆる人間らしさを拒絶して、時には掌からすくい損ねて、ここまで来た。だから私には」
人間が、共感できない。
理解は出来る。
愛も。
恋も。
友も。
命も。
魂も。
だが、決して感じない。
だからこそ、私は物語を、全ての人間を辞めることで、描ききることが出来たのだ。
何とも皮肉な噺だ。
まったくな。
「それもある種の才能だと思いますが」
「生憎、そんな使い勝手の良いものでも無いがな・・・・・・持たざる人間の強みなど、知れている」
「そうでしょうか」
ずず、といつの間にか持っていた茶碗で、茶をすすりながら彼女は言った。
「人間は持たざる者だからこそ、届かない高みを目指せます。持つ人間は強いですが、届かない高見を目指す者は希です。それに、持たざる者だからこそ、言えることもあります」
「馬鹿馬鹿しい
「貴方の作品を読みました。きっと、貴方が生まれついて恵まれた人間ならば、貴方の作品は、賭けても良いですが、誰に心にも届かなかったでしょう」
「そんなことはあるまい。同じ人間だ」
「いえ、違う人間です。愛を知らず、恋を持たず、友を排斥し、金で良しとする。そんな生き方は、恵まれた人間には送ろうとも思えないでしょう・・・・・・持たざる者でなければ、届かない言葉は確かにあります」
「だとしても、私は読者のために生きているわけではないのだ。どうでも良い噺だ。お涙ちょうだいよりも、金だ金。金にならぬ言霊など、知ったことではないな」
大体が、本当に響くのか?
私は書くだけなので理解しかねるが。
頼んでおいたナッツ入りチョコレートを口の中に入れ、コーヒーで味わった。やはり、コーヒーは美味い。少なくとも、何かを考えながら行動するものではないのだろうが、まぁ雰囲気も出るし良しとしよう。
「貴方の物語が、人の心を救うとしても?」
「当然だ。知るか」
読者の都合よりも、金だ。
大体、物語が人の心など、救えるものか。
人を救うのは己自身だ。
金と、己自身の自己満足と、後は美味いコーヒーがあれば大抵の人間は救われる。
「物語が人を救うだと? 妄言ここに極まったな・・・・・・所詮嘘八百だ。何の意味もない」
「意味がなければ、人類の起源から続いたりはしませんよ・・・・・・聖書に指針を貰い、物語に勇気を感じ、人間はここまで来たのですから。言語も時代も文化も思想も、戦争ですら、この世界から物語を排斥することは出来ませんでした。物語とは人間の意志、その思想を伝え、広めるためのツールです・・・・・・作者が世界を、たった一冊の本の中に表現する、究極の人間を表現する方法です」
「そんな大層な」
アンドロイドも神も、そういう言い回しが好きなだけなのではないのか?
大げさな。
だが、確かに物語は大昔から、いやいっそのこと何時からあるのか分からないくらいだと言ってもいいだろう。実際、何を思って書いたのか。
物語なんて。
ただの嘘ではないか。
「嘘ではありますが、しかしその嘘に人間は魅せられる。魅せられて、夢を見て、そうであらんとするのですよ」
「はいはい、わかったよ」
面倒なので会話を遮った。
凄い目で睨まれたが、構うまい。
認める気もないしな。
「誠実だけでは世界は人間を殺す。だが、お前のように夢ばかり見る人間の考えることも、分からないでもない・・・・・・その方が楽だからだ」
女は答えない。
構わない。
私が述べるのは、事実だ。
「確かに、貴様の言うように人間は物語に魅せられるだろうさ・・・・・・だがそれは良い一面をなぞっただけだ」
「なら、その一面を認めなければ、嘘でしょう」「確かに、そうだ。だがな・・・・・・この世界に、人を魅せるほどの物語は、もうあるのか? 売れれば良いというのは確かに事実だが、しかし同時に物語から輝きを奪った。世界に物語は無数に存在出来るようになった。だが、そのほとんどはただの紙の束」
燃える上にかさばるゴミだ。
事実、売れはしても人を魅せる物語の、なんと少ないことか・・・・・・読む側の我が儘な目線に立てば、私でもそう思える。
「だから物語に価値はないんだよ」
「貴方が、それを言いますか」
「当然だ。私は邪道作家だからな」
下らない言い回しだが、気に入ったらしい。
まぁ語呂もいいしな。
今後、活用するとしよう。
「世界は金で出来ている。死ぬ寸前まで、死んだ後も、魂が消え去ろうが、私は物語に価値はない金こそが全てだと、嫌がる読者共の顔を見ながらそう言うさ。事実、紙の束を売っただけの物語、それは別に珍しくもないしな」
事実だ。
文句があるなら言うが良い。
貴様の知る物語で、魂の奥底まで抉り取る物語は、一体幾つあるのだとな。
ま、無理だろうがな、
「いずれにせよ、お前のそれは綺麗事だ。綺麗事は美しくはあっても力がない。強かなだけでは人間はゴミに落ちるが、美しいだけでも醜悪だ。この世界の汚さ、卑怯さ、嘘と力の真実に、目を向けないのは崇高だからではなく、ただ卑怯なだけだ」
小綺麗な言葉は誰でも言える。
問題は、小綺麗で無い現実に目を据え、それでいて勝つことだろう。
その上でまだ綺麗事を言うならば、金さえ払えば聞いてやろう。
聞くだけだがな。
「卑怯ですか」
なら、私は卑怯だったんですねと、意味の分からない独白をするのだった。まぁどうでもいい。女の過去に興味はない。
持つべきでもないだろう。
「ですが、例え百が届かなかったとしても、その内一が心に届けば、それは尊いはずです」
「下らん」
こと私に対して、戯れ言は通じない。
あらゆる綺麗事、あらゆる言い訳は、勝利者の敗北者への言い訳は、私には無力だ。
「まともに敗北し続けた人間からは、出るはずのない台詞だな」
「なら、貴方は何と言うのですか?」
「そうだな・・・・・・勝利は、それに向かう意志は尊いのかもしれない」
「だったら」
「だが」
認めるか、そんな綺麗事。
上から目線でふざけるな。
全て持たざる人間こそが、その尊さに対して語る権利がある。
貴様等は、ただ綺麗事を並べただけだ。
「だからって、この敗北が、この苦痛が、この辛酸が、そんな綺麗事で片づけられてたまるか。過程に価値を見いだすのは、勝利して余裕ある人間でしかない。本当に敗北してここまで来たなら、そんな綺麗事は、絶対に口にしない」
尊いと思うかもしれない。
だが、思うだけだ。
それで満足は、しない。
するつもりもない。
納得するつもりも、無い。
「私は全てを持たざる人間だ。強さによる強さも弱さによる強さも、全て、無い。だが、私は人間らしく幸福に生きられたところで」
あり得ないとは思うが。
人間らしい幸福を掴むなど。
だが、それでも宣言しよう・
「それでも、私は金を求め続ける。結果だからだ・・・・・・金にあらゆる尊さは、無い。だが、金はお前たちの言う下らない嘘とは違い、力がある。だからこそ私は金よりも道徳を上に置き、綺麗事の戯れ言で自身を貶めることは」
絶対にしない、と。
私の宣言ほど忘れられそうな言葉もないが。
だが、事実だ。
今、この瞬間においては。
まごうことなき。
私の魂の真実だ。
「私は綺麗事が嫌いだ」
「・・・・・・そうですか。なら、今回の依頼は貴方にぴったりですね」
「何の噺だ」
「人を信じない英雄の話です」
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