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然も有りぬべしツイート女王
歴史に「もしも」は禁物だとは言いますが、もしも平安時代にSNSがあったなら、清少納言は断トツのインフルエンサーだったに違いありません。
また何を急に突拍子もないことを、と不審に思われそうですが、近ごろ『枕草子』づいているために、ひしひしとそんな実感が強まります。
ああ、『枕草子』ね、むかし読まされたっけ。
「春は曙やうやう白くなりゆく山際」
眠くなったなあ…そんな遠い目をなさるのは予想できますが、あらためて読み返してみると、これがなかなか、思いがけない面白さに満ちているのです。
最近、私は兵法で有名な『孫子』を少しずつ読み進めており、この“ザ・論理的・男の世界”のカウンターに、何か良い古典がないかな、と考えた時、思い浮かんだのが『枕草子』でした。
一瞬、『源氏物語』も脳裏をよぎりましたが、『枕草子』の方が、より“ザ・感覚的・女の世界”の感じです。
そして、どうせ読むならと手に取ったのが、かの有名な『桃尻語訳 枕草子』(橋本治)です。
「春って曙よ!
だんだん白くなってく山の上が少し明るくなって、紫っぽい雲が細くたなびいてんの!」
この正確無比かつ驚異的な口語直訳。
原文の意を忠実に汲みつつも、既存の訳とは一線を画したビビッドな表現です。
本来、こういった文章は全巻読破の上で書くのが本当でしょうが、実は、今のところまだ上巻を読み終わったに過ぎません。
あと中・下巻の二冊が控えており、これはいわばフライングの読書感想文です。
それでも、もうすでにこの物語についての、私の中にある“雅な王朝文化に生きる女房の宮廷日記”という認識はすっかり変わってしまいました。
今の私のとらえ方で、これを有り体に、下世話かつストレートに表現すると“バリキャリOLの毒舌ミーハー日記”とでもいったところでしょうか。
これは私一人の暴言ではなく、天才・橋本治の観点によるところでもあるため、苦情はお受けできません…。
清少納言はどこまでも感覚的で、きらびやかなものが大好き、逆に貧乏臭く垢抜けない物や人が大嫌いなことを隠しません。
そのため、冷徹かつ的確な観察眼で、位の高い公達のささいな愚行にも、容赦ないバッシングを行います。
「時代に取り残された人が、自分は退屈で暇ばっかりの生活だからって、昔を思い出して面白くもない和歌を詠んで送ってくるの、うんざり!」
[第二十二段]
(全引用・意訳 『枕草子』)
「酒を飲んでわめいて、唇を撫で回して、髭がある奴はそれを撫でて、盃を他人に押し付けてくる時の感じ。めちゃくちゃイライラする!」
[第二十五段]
「遣り戸を乱暴に開け閉めするのも、すっごく下品ね」
「靭負の次官(弓を背負った役人)の密会スタイル!人に怖がられる袍(制服)は大げさだし、ウロウロしてるのも無様で、笑っちゃう」
[第四十二段]
思わず親近感が湧くような悪態のつきっぷりです。
そして話の冒頭に戻りますが、この人がもしSNSをするならば、向いているのは絶対にTwitterで、短文の名手ぶりを大いに発揮してくれるはずです。
たとえば、私が成り代わって書くならば、こんな感じ。
「仕事する女の陰口叩いたり妬む男って、マジで!むかつく!!」
[第二十一段]
(全引用・意訳 『枕草子』)
「あんまりにもお人好しだって人に知られちゃうとバカにされるよね」
[第二十四段]
「髪もメイクもばっちり、いい香りのするドレスを着るのって、すっごく素敵でドキドキする…」
[第二十六段]
「仏教のお話をしてくれるお坊さんが超絶イケメン!お顔を見てるだけでありがたい。尊い」
[第三十段]
「かき氷にシロップをかけて、新しい銀のカップに入れたの。
藤の花。
梅の花に降りかかる雪。
めちゃくちゃかわいい子どもがイチゴなんか食べてるの。
エレガント!」
[第三十九段]
極めつけはこんな連投ツイートも。
「今ね、宮(みや。皇后・中宮定子)のお供で大進生昌(だいじんなりまさ。中宮の兄を陥れた役人)の家に来てるんだけど、なんと、夜這いされてます!ありえん。笑。宮が自分の家にお越しだからって、浮かれて勘違いしてんのね。面白いから実況中継」
「生昌の奴、ちょっとだけドア開けて、『入ってもよろしいかな?』とか、上ずったしわがれ声でしつこく言ってくんの。ウケる」
「同室の後輩も起こして、あれ?誰かいるみたいよーとか言ったら、その子も気づいてめっちゃ笑ってる」
「誰?って知らんふりして聞いたら、屋敷の主としてご相談が、だって。またとぼけて返事したら、入ってもよろしいかな?とか何べんも言ってくるし」
「ないない!無理!って後輩と爆笑してたら、一人じゃないって急に気づいて、慌ててドア閉めて行っちゃった。開けるなら開けるで入ってくりゃいいのに、いいですか、にいいわよ、なんて誰が答えるかって。笑いが止まらないー」
[第五段]
(引用・意訳『枕草子』)
清少納言の妄想Twitter。もし本当に彼女がアカウントを持っていたら私は絶対にフォローしますが、あまり調子に乗っているとどこかからお叱りを受けそうなので、このくらいにしておきます。
『枕草子』は千年以上も前に書かれたとはとても信じられない本ですし、清少納言の感性も、まるで同時代の人と錯覚しそうに“ときめく”ものです。
本当に新しいものは決して古びないことを実感しつつ、中・下巻を読み進んでいくのが楽しみです。
もちろん『孫子』も忘れていません。
実はこの人もTwitterにぴったりな気がしており、さぞ含蓄に富んだ素晴らしいツイートを連発してくれそうなのですが、昔の偉人にすぐにSNSをさせたがるのは、私の悪い癖かもしれません。
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