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べき論ではない教育論、市民教育はオワコンか?

べき論ではない教育論、市民教育はオワコンか?

 先日、次の動画を視聴した。岡田斗司夫氏が2014年11月に東京学芸大学で行った講演であり、2022年5月にYoutubeにアップされたものである。8年前の動画をアップするだけあって、内容は古びておらず、示唆に富む動画であった。今回はこの動画の内容を紹介しつつ、市民教育はオワコンかということを考えてみたい。

講演の内容

 岡田氏は、今回は「べき論ではない」教育について語ると切り出す。つまり、教

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『構造と力』千の否のあと大学の可能性を問う

『構造と力』千の否のあと大学の可能性を問う

 浅田彰『構造と力』。文庫化されて以降、どの本屋にも必ず平積みされており、否でも応でも目につく。久しぶりに、あの文体、浅田彰節に触れたいという思いがなくはない。というか、十二分にある。その一方で、「30半ばで手に取るようなものではない」、「論旨は覚えているではないか」「愚にもつかず、腹にたまらない思想ではないか」という心の声にも耳を貸さないわけにはいかない。結局、大垣書店で知人を待つ間の暇つぶしに

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「偏差値」の今とこれから

「偏差値」の今とこれから

 今回は、「偏差値」について書きたい。統計学的な意味での標準偏差のことではなく、日本社会で機能している大学受験の「偏差値」のことである。

 私は保険をかけることが、生き方として嫌いだ。しかし、非常にセンシティブな問題なため、本題に入る前に、一つ保険をかけたい。それは、私がこれから述べることは、組織に所属する私の意見ではなく、まして、所属する組織の見解ではないということだ。くれぐれもご留意いただき

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大学職員が読むべき10冊

大学職員が読むべき10冊

 今回は、私が考える「大学職員が読むべき10冊」を紹介する。「学校法人職員が」とせずに「大学職員が」とした理由は、1つは、初等・中等教育などには触れず、あくまで「大学」という制度・教育に関する書籍をピックアップしたからであり、1つは、法人経営・ガバナンスの在り方などに関する書籍は除いてピックアップしたからである。

 私は、ある程度、知識を持った者同士が議論をするから、生産的な意見や建設的な意見が

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マーチン・トロウを読む

マーチン・トロウを読む

 マーチン・トロウ。大学教育に携わる者であれば、頻繁に耳にする名前であり、エリート型、マス型、ユニバーサル型という高等教育の発展段階の理論(トロウ・モデル)を提唱したアメリカの教育社会学者である。

 日本においては、天野郁夫氏と喜多村和之氏が翻訳に尽力され、その高等教育論を知るには、『高学歴社会の大学ーエリートからマスへー』(1976)と『高度情報社会の大学 マスからユニバーサルへ』(2000)

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人文系学部不要論に一過言~労働者の養成か市民の養成か~

人文系学部不要論に一過言~労働者の養成か市民の養成か~

 著名人による人文系学部不要論が、メディアで定期的に取り上げられる。高校生の志望も、人文系から社会科学系や理系へとシフトしており、人文系の不人気は(入試広報担当者として)肌身で感じるところだ。今回は、人文系学部不要論に対して私の意見を述べたい。

 私の意見はこうだ。昨今、大学の教育・研究の目的が、「優秀な労働者の養成」や「(研究による)イノベーションの創出」など経済の論理(損か得か)に一元化され

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大学論②~学位の価値とその質保証を問う〜【後編】

 本論は、次の記事の後編であり、「なぜ日本では、学位の価値が認められていないのか」という問いに答えるとともに、解決の方向性を示すことにある。では、さっそくはじめよう。

問題の所在
 「価値」の有無を議論することには、独特の困難さが伴う。なぜなら、「価値」は、学位それ自体の「内容」では決まらず、その学位を日本社会が、どう「認識」するかに依存するからである。もう少し噛み砕いて言うと、どれだけ日本の大

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大学論②~学位の価値とその質保証を問う〜【前編】

はじめに
 大学業界において、その関係者が長らく、質保証、質保証と繰り返し叫んでいる。では、「何の」質(=Quality)が保証(=Assurance)されている必要があるのかと問えば、それは「学位(Degree)」である。大学には学位授与権があり、それがその他の教育機関、例えば高等学校、専門学校、塾、研修機関とは異なる点であり、大学が特権的な地位を確保出来ている理由である。

 学位とは、学士(

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大学論①~単位制度の実質化は可能か、そして必要か~【後編】

 本記事は、次の記事の後編である。前編では、単位制度の実質化とは何を意味するのか、そして、実質化出来ていない事情を整理した。本記事では、就社(≒日本的雇用慣行)と就職(≒ジョブ型雇用)の違いに着目しつつ、大学は、大学教育を通じて、これから労働者になる学生に、何を身に着けさせるべきかについて考察しつつ、サブタイトル「単位制度の実質化は可能か、そして必要か」という問いに、私なりの回答を提示したい。

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大学論①~単位制度の実質化は可能か、そして必要か~【前編】

 私は学校法人の事務職員として、人事、専門職大学の設置、潰れた高等学校の再建、入試広報の業務などに従事してきた。かれこれ7年も、事務職員として働いていると、日本の大学について、思うところが芽生えてくるし、鬱積もしてくる。そこで、日本の大学について思うところを書くことにした。第一弾は、日本の大学の宿痾である「単位制度の実質化」について、日本型雇用慣行と絡めて論じたい。

 最初に、「単位制度の実質化

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