プロローグ 結婚の決め手って、何だろうーー 好きな人と、ずっと一緒に居たいから。 好きな人との子どもを望んでいるから。 結婚適齢期だから。 一生、独りは寂しいから。 子どもを先に授かってしまったから。 長く付き合っているから。 只、何となく。 この世の中に居る、既婚者達。 一組、一組、それぞれの決め手が、無限にあるだろう。正しい決め方なんてものも無いのだろうし、あったとしても、きっとあやふやで、曖昧なものかもしれない。 幸せの形も、人それぞれであ
俺達は、そんなにも、頼りなかったか? 俺達は、そんなにも、心許せる相手ではなかったか? 俺達は、そんなにも、君の心の荷物を分け合うには、不足だったか? 俺達は、そんなにも……… 一緒に酒を酌み交わしたばかりだったじゃないか。 その日だって、いつも通りの朝を迎え、「おはよう」と、挨拶を交わしたじゃないか。 俺達はいつだって、君の弱音も、ぶつけてくれる度、親身になって受け止めていたんだ。 仲間だと思っていたから、手厳しいことを言ったこともある。
私は、国外に出た事が無い。 だから、国外の買い物スタイルは、映画やドラマ、ネットニュースで見るレベル。 その浅い見聞だけで見ても、日本のスーパーの品物は大概何かに包まれている。ゴミを出す日にいつも思うのは、ラッピングや容器、梱包材など、そういった類いのゴミの量のほうが圧倒的に多いということ。サービス精神や衛生面、破損防止、見た目の良さに対する気持ち的なもの、様々な理由があるだろうが、過剰な面も否めない。そしてそれらの分別に割く時間。 便利が不便なのだ。 私は、日
――今日、壊れた傘を、そっと、ショッピングモールのトイレに置いて来た。 誰かが忘れて行ったかのように見せかけて。 傘の先端の金具はいつしか取れてしまっていて、雨で濡れる度、傘を置いた床にはいつも、丸く錆の円を描いた。 玄関にも、コンクリートの地面にも、傘立ての中にも。 その円は、決して綺麗な色でも、綺麗な円でも無く、歪な円。 それはまるで、私と白城のようだ、と思った。 大学を卒業し、就職した会社で、白城と出会った。 配属された部署に居た白城は、私よりも四歳
四季を通して生まれる、誰かの物語―― ❀長過ぎた春の先に❀ (二) 男性は、私よりも三つ上で「ヤガミ」さんといった。歳が近い事もあって、ついつい話が弾み、新幹線の中では、思いの外飲んでしまった。京都駅に着く頃には、心地良い眠気も合わさり、今すぐにでもベッドに潜り込みたい程だった。 駅直結のホテルでちょうど良かった。 「すっかり飲みすぎてしまいました。楽しい時間をありがとうございました」 駅構内で、ヤガミさんはそう言いながら、手を
四季を通して生まれる、誰かの物語―― ❀長過ぎた春の先に❀ (一) その年のニ月は、晴れた日なんて、せいぜい合わせて八日間程しかない、雨の多い月だった。 でも、私にとってそれは、とても都合が良かった。 沈んだ気分も全て、そのせいにできたから。 長過ぎる春とは、よく言ったものだ。 ちょうど、十年―― もうそろそろ結婚かな、なんて、考えていたのは、私だけだった。 三十五歳、私は、独りになってしまった―― 溜まっていた
❀❀❀ ――雨は、嫌い。 髪は乱れるし、水溜りの水が跳ねたり、車が通りがかる時に、水しぶきが上がるし。 見ているだけで、めまいが酷くなりそうな気がするから。 だから、梅雨のこの時期は、毎日が憂鬱。 でも、今日から少しの間、学校へは行かなくても済む事になった。 なんて、ママに言ったら、怒られるだろうけれど。 『起立性調整障害』―― 私が入院する事になった、病気の名前。 元々、朝起きる事が苦手だった。 別に、夜更かししてる訳じゃないのに。
一度、関わってしまったら、もう、後には戻れないんだよ―― 祖父が亡くなり、小さな街の、小さな葬儀社を継ぐことになった、識。 識は、小さな頃から、人には見えないものが見える、不思議な力があった。 その力を必要とされた時、識は―――― 二作目 ほどけて、消えて 三番線のホームに入ってきた電車に遮ぎられ、見えなくなった君は、あの日―――― 向かい側のホームに立つ僕に、どんな言葉を投げかけていたのだろうか。 それを聞くこともできないまま、君は、居なくなった。
最後に一度だけ逢えるとしたら、あなたは誰に逢いたいですか? ありふれた日常の中で出会った、紗羽と陽太。 二人が出会い、恋に落ち、今はもう、隣には居ない理由――― そして、二人に起きた奇跡とは―――― ――――紗羽。 もう少し早く、勇気を出していたら。 もう少し長く、一緒に居られただろうか… あの日、別の選択をしていたら。 ほんの少しだけでも、運命は、変わっていただろうか… ピピピピ、ピピピピ、ピピピ――――― 目覚ましのアラームが、朝
もし、明日死んでしまったら、この部屋の片付けや身の周りの事は、一体、誰がしてくれるのだろう。 二泊三日でのソロキャンプの準備を終えて、お風呂に浸かりながら、ふと、そんな事を思った。 会社の健康診断では、毎回特に問題は無く、健康体だ。 もしも交通事故ならば、こちらが気をつけて居たとしても、相手が突っ込んでくるかもしれないし、趣味のバイクで出かけた時には、もしかすると雨でスリップして、峠のガードレールにぶつかり、崖下に落ちてしまうかもしれない。 まあ、死んじゃったら、
何て、ツイていない日なのだろう。 ニュースの天気予報では、雨は降らないはずだった。それが、今やどうだ。バケツの水をひっくり返した程の大雨が、街を行き交う人々をずぶ濡れにしている。 どうしても、家には帰りたくない気分だった。少しだけ飲んで帰ろうと思って居たのに。 伸二は心の中でぼやいた。 ホームへ向かって歩き始めると、濡れたスーツのジャケットやYシャツ、身につけている物全てが動く度に纏わりつき、不快感と疲労感が増す。 同時に、伸二にとっては全く理由の分からな
今日は、何月の、何日だったかしら? 妻の昌江は、カレンダーをめくる。 朝から、幾度となく繰り返されている問いかけに、僕は根気強く、同じ返答をする。 「あら。もう、今年も終わるのねえ。早いわねえ、お父さん。あ、そうだ、寒くなってきたから、お父さんのマフラー、出さなくちゃね」 昌江はそう言って、微笑む。 物忘れが増えてきたな、と、気付いた時には、もう、手遅れだった。 日常生活でのちょっとした事も、段々と、できない事が増えてきた。 昌江がそうなる事が、信じら
あらすじ 『一度、関わってしまったら、もう、後には戻れないんだよーー』 祖父が亡くなり、小さな街の、小さな葬儀社を継ぐことになった、主人公の識。 識は、小さな頃から、人には視えないものが視える、不思議な力があった。 その力を必要とされた時、識はーー マタ、ミツケテネ 僕は、この街が好きだ。 自分がどこで生まれたかも知らないし、どこに居たのかも、とうに記憶の底に沈めた。 父親が居るのかも分からないし、母親の顔は、写真で知っているだけだ。 いわゆ
ある時、山から転がって 転がり続けたその先は ある時、川へと流されて 流され続けたその先は ある時、海に沈んだら 波にもまれたその先は ある時、岩とぶつかって ぶつかり続けたその先は ある時、道端見つかって 蹴られ続けたその先は 一つも同じ、色は無く 一つも同じ、形無く だけども、それぞれ まぁるく、まぁるく あなたも、わたしも まぁるく、まぁるく
今まで歩いたこの道は、 今日には何故か行き止まり 新たに見つけたこの道は、 デコボコだらけの道だけど、 綺麗な景色に出会えたり 或日は大小様々の、 真っ直ぐだったり、 曲がりくねったり、 沢山の道に、差し掛かり この道行ったら、どうなるか あの道行ったら、どうなのか 戻ってみようか、進もうか あの日、行き止まりの道は、 今はもう、通れるか 迷って、迷って、決めた道 大事な、大事な、自分だけの 唯一無二の、地図になる
流れゆく、流れゆく 花びらのせて、流れゆく 流れゆく、流れゆく 魚と戯れ、流れゆく 流れゆく、流れゆく 光と踊り、流れゆく 流れゆく、流れゆく 脚元こちょこちょ、流れゆく 流れゆく、流れゆく 落ち葉をのせて、流れゆく 流れゆく、流れゆく 雪と交わり、流れゆく ある時代、わたしは紅で ある時代、わたしは透明で ある時代、わたしは泥んこで そんな風を、繰り返し 流れゆく、流れゆく 流れゆく、流れゆく ああ、やっと、逢え