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『高慢と偏見』を読んで

読書の秋。
今年はずいぶんと秋の到来が遅かったが、
最近ようやく秋らしい季節になってきた。
ということで、最近読んだ本で、個人的に面白かった
『高慢と偏見』(ジェーン・オースティン, 富田彬訳, 岩波書店)
の感想を書いてみたい。

作者はイギリスの女性作家であり、
イギリスの紙幣にもなっているジェーン・オースティン。
その彼女の最高傑作と評されているのが『高慢と偏見』である。
舞台は18~19世紀のイギリスの田舎街。
ある日、その街に住む五人姉妹のベネット一家にとあるニュースが届く。
ロンドンから大変裕福な青年が、別荘を借りて越してくるのだという。
彼とその友人の登場が、
このベネット一家にどのような変化をもたらすのか。
当時のイギリスの富裕層の生活や習慣も合わせて楽しめる恋愛小説だ。


私は、この小説が始め恋愛小説だとは思わずに読み始めた。
「高慢と偏見」というタイトルだけを見て、
誰が恋愛小説だと予想するだろうか。
むしろ、寓意小説のような、教訓めいた話かと想像した。
つまり私は幸運にも、
恋愛小説という「偏見」を持たずにこの本に出会えた。
普段は恋愛小説は読まないという人にも
進めたい本であるので、
みなさんもぜひ偏見を持たずに手に取ってほしい。
以下は、私が感じたこの本の魅力を語りたい。


”相当な財産をもっている独身の男なら、きっと奥さんをほしがっているにちがいないということは、世界のどこへ行っても通る真理である。”

『高慢と偏見』(ジェーン・オースティン, 富田彬訳, 岩波書店)


人に対する印象は、容易には変えられない ー偏見ー

第一印象がとても大事だということは、
みなご存知の通りである。
しかし、もっと恐ろしいことは、
第一印象は良かったが、その後の態度によって評判が悪くなる、
という場合なのではないか。
それは、一度その人物に対して抱いた印象に反して、
この人の「本性」はこっちなんだ、
という裏切りの感情を人々に起こさせるからかもしれない。
この物語のヒーロー、ダーシーという男も、
資産、出身、容姿によって、
当初は人々に大変な好印象を与える。
しかし、しばらくして彼の評価は一転する。
彼の態度が「高慢だ」という印象を人々に与え、
その噂はまたたく間に広まる。
五人娘の次女であり、物語のヒロイン、エリザベスも、
彼に対するこの印象をなかなか変えられない。
ダーシー氏の為すこと全てに対して
「高慢なあの人」の行為という偏見がちらつき、
物事を冷静に見られなくなる。

一度思ったことは、容易には変えられないし、その考えが付きまとうことで、狭量な視野でしか物事が見られなくなってしまう。

これが偏見の恐ろしさだと言えるだろう。
しかし、この物語は悲劇ではない。
この偏見を彼女は、愛の力で乗り越えるのだ。


ダーシー氏の魅力 ー少女漫画のヒーローは世界共通ー

この物語は、一言で表すならば
「元祖少女漫画、玉の輿物語」になるだろう。
やはりどの国にも、格差恋愛に
ときめいてしまう心理があるようだ。
そしてこの物語のヒーロー、ダーシー氏は、
まさしく王道少女漫画のヒーローと重なる。
正直に言って、ダーシー氏が気になるあまり、
先が気になって読む手が止まらなくなる
小説とも言えるかもしれない。
では、「王道少女漫画のヒーロー」とは、
果たしてどういうものか。
私が考えるに、それは
①寡黙で、どこかミステリアスな性格
←読者でさえも読めない心情
②何かの要素で人を遥かに凌駕している
←資産、才能、容姿など
③パッとしないヒロインを好きになり、意外と一途
←ヒヤヒヤする展開があっても結局一途
だろうか。
ダーシー氏は、まさしくこの三要素を持つ。
しかし、どこが日本の王道少女漫画と違うのか。
それは、ヒロインの態度である。
王道な少女漫画では、ヒロインがかなり受け身な日本に対して、
エリザベスはあまりに勝気すぎる。
この性格だと、日本の少女漫画のヒーローでは、
エリザベスに恋をしないかもしれない。
この違いが実に面白い。

世界共通でヒーローの条件は同じだが、
ヒロインの好みは国で異なる。

エリザベスを好きになるからこそダーシー氏が
輝いて、魅力的に映るのだろう。
王道に惹かれる自分が少し憎らしい。


裏切り満載 ーエンターテイメント性に富むー

本の面白さの条件は多様だ。
しかしそのひとつには、「読者の期待を裏切る」
というのがあるかもしれない。
巷で永遠に「どんでん返し」が流行るのも、
この最極端の例だろう。
この物語でも、さまざまな裏切りがある。
さまざまな場面で我々の予想をたびたび覆してくるからこそ、
ヒーローとヒロインも最終的に結ばれるのか
最後までわからず、読者を引きつけてやまない。
この点は、ぜひ本そのものを読んで確認してほしい。


長くなってしまったが、この物語から何か教訓を得よう、
などと考えてこの本を読むことはあまりおすすめしない。
この本は、心底楽しんで読んでほしい。
それくらい面白いし、エンターテイメントとしても楽しめる。
展開が気になって読む手が止まらなくなること
間違いなしだ。


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