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短歌・和歌

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短歌+ショートエッセイをつづったものなどを投稿します。
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#ショートエッセイ

短歌+ショートエッセイ:新品の遺跡のような

短歌+ショートエッセイ:新品の遺跡のような


すこしずつ街は遺跡になってゆく 人より思索を深めた顔で
/奥山いずみ

 去年、指の骨を折ってから、年が明けて2月になってもだらだらと通院が続いている。それも、家からも職場からも離れた、生活圏にない場所の病院へ。指の治療ができる専門医が整形外科のなかでも限られていることや、家から近い病院では治療ができなかった関係で、そうなってしまった。

 通院の道のりではいつも、移動に時間がかかるのと、仕事に

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短歌+ショートエッセイ:ほろ酔いの会話

短歌+ショートエッセイ:ほろ酔いの会話

三本のビールが会話を淡くしてひとなつっこい笑顔がのこる
/奥山いずみ

 9月から11月にかけて、住んでいる地域で開講されている起業セミナーに通っていた。大きな事業を立ち上げよう……などというつもりではなく、自分のなかで個人事業主として働き始めそうな予感があり、ビジネスをするうえでの作法というか、いろはを学んでおこうと思ったのだ。

 行ってみて、予想とだいぶ異なる収穫があった。

 セミナー受講

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短歌+ショートエッセイ:夜の陰翳

短歌+ショートエッセイ:夜の陰翳

ふっつりと途絶えたものを思い出す指から熱が逃げる夜ほど
/奥山いずみ

11月最後の週、仕事場を出て帰るときに街灯の白い光に照らされて木の葉が影を成していた。

何か訴えてくるような、意思を持っているかのような陰翳だと思った。

通り過ぎかけてから、やはり、と思い、振り向いて写真に撮る。ふっくらとしたすがたの葉、一枚一枚がきちんと影となり、美しく画面に収まっている。

その写真に満足したあとで歩き

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短歌+ショートエッセイ:一期幾会

短歌+ショートエッセイ:一期幾会

何回も会っていたってうれしくてするりと剥いて出す梨の舟
/奥山いずみ

 

 カフェに行ったら、好みの曲がかかっていた。ゆったり流れる、歌詞が英語の曲。ロンドン出身のアーティストの曲らしい。

 スマホに音楽を聴かせると曲名を教えてもらえる機能があり、その機能を使ってわたしはときどき曲をコレクトしている。初めて聴いたにも関わらずカフェでかかっていた曲がロンドン出身のアーティストのものだと知ること

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短歌+ショートエッセイ:ねむけを乗せて

短歌+ショートエッセイ:ねむけを乗せて

ひとびとのねむけを乗せて車庫へゆく回送列車は夜に染まって
/奥山いずみ

 次は終点、○○です。この列車は車庫に入る回送列車になります……。

 電車が駅に着く前にこんなアナウンスが入った。車内に乗客はまばらで、人が少ない電車がやけに明るく感じられた。
 車窓から見える景色は、黒地に光の粒を散りばめた、夜の町文様。背の高いビルが少ないので夜空がのったりと見えていた。

 やがてホームの光が「こんな

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短歌+ショートエッセイ:真ん中にない中心

短歌+ショートエッセイ:真ん中にない中心



としん、としん せり上がりゆく心音を感じて都心という場所をゆく
/奥山いずみ

 東京出身っていっても、西東京だから……。
 こういう謙遜?の言葉を言われたことがある。西東京はみんなが思っているいわゆる東京とは異なります、という東京都民のリアルを語るひと言なのだろう。

 同じ用例として、横浜っていっても○○だから……などもあって、いずれにしてもthe 東京・the 横浜ではない場所が東京にも

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短歌+ショートエッセイ:言葉がなじんでゆく

短歌+ショートエッセイ:言葉がなじんでゆく

あたらしい言葉はすこしずつなじむあなたが記憶になったあとでも
/奥山いずみ

 先日、純喫茶というところに久しぶりに行った。
 古めかしい建物に、なじみらしいお客が思い思いの時間を過ごしていて、ゆったりとしたいい空間。

 ふと、角の席が空いたとき、店員さんが靴を脱いで椅子の上に立った。店の天井近くの棚にプレイヤーが設置してあって、手動でCDを交換していたのだ。
 それまではくぐもった声の女性歌手

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短歌+ショートエッセイ:湿気をまとって

短歌+ショートエッセイ:湿気をまとって


湿原のワンピースを着て森と川、町から町へ雨を降らせる
/奥山いずみ

 言葉にすると身も蓋もないが、高温多湿が不快である。
 汗もうまく乾かなくて身体じゅうぺたぺたするし、気圧とあいまってか頭痛がするときまである。

 ……と、ぶちくさ言っていても楽しくはないので、少し想像を膨らませてみることにする。
 例えば、この湿気が全部、一枚の服だったらどうだろう、とか。身にまとわりつく感じがなんとなく、

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短歌+ショートエッセイ:影の美しい季節

短歌+ショートエッセイ:影の美しい季節

 これからときどき、日常のことと、それにちなんで詠んだ短歌をつづっていこうと思う。なんでもない出来事も、言葉にして、さらに短歌の形にもしてみると少し面白いのでは……なんて考えたのだ。
 初回は、散歩しつつ感じたことについて。

ゆれている葉陰のうえを渡りゆくあいだに季節がめぐっていたの
奥山いずみ

 この前、道を歩きながら、今の時期は一年のなかでも特に影が美しい季節なのではないかと気がついた。

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