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短歌+ショートエッセイ:一期幾会


何回も会っていたってうれしくてするりと剥いて出す梨の舟
/奥山いずみ

 

 カフェに行ったら、好みの曲がかかっていた。ゆったり流れる、歌詞が英語の曲。ロンドン出身のアーティストの曲らしい。

 スマホに音楽を聴かせると曲名を教えてもらえる機能があり、その機能を使ってわたしはときどき曲をコレクトしている。初めて聴いたにも関わらずカフェでかかっていた曲がロンドン出身のアーティストのものだと知ることができたのも、この機能のおかげ。この機能を利用すると、一期一会だったはずのものが一期幾会にもなりうる。

 カフェで知ったその曲を、家でもかけて聴いた。カフェで過ごしたようなほっとする時間が部屋にも訪れた。


 もしかしたら、「同じものをたやすく再現できてしまう」ことはつまらないことなのかもしれない。そのときだけ・今だけという感動が薄れてしまうから。それに臨場感や限定性も失われてしまうから。

 でも、「再現できること」は豊かなことなんじゃないかなと思うのだ。すきな人々、物事、状況に何度もあえるなんて、本来とても貴重なことなんだから。

 おだやかなリズムのその曲を聴きながら、そんなことを考えていた。




冒頭の短歌は2024年10月7日の毎日新聞 朝刊 毎日歌壇 伊藤一彦氏の選として掲載いただいた一首です。
Cover phot by Alex McCarthy on Unsplash.


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