短歌+ショートエッセイ:湿気をまとって
湿原のワンピースを着て森と川、町から町へ雨を降らせる
/奥山いずみ
言葉にすると身も蓋もないが、高温多湿が不快である。
汗もうまく乾かなくて身体じゅうぺたぺたするし、気圧とあいまってか頭痛がするときまである。
……と、ぶちくさ言っていても楽しくはないので、少し想像を膨らませてみることにする。
例えば、この湿気が全部、一枚の服だったらどうだろう、とか。身にまとわりつく感じがなんとなく、衣服のような感じがするからそんなことが思い浮かんだのだ。
いったん設定が決まると、後は楽しい。歩いても服のなか、電車に乗って降りた先でも服のなか。巨大な服のなかにいるという愉快な世界観で過ごせる。
「今日も暑いし、あいかわらずの湿度だねー」
会った人に言われて、はっと気づく。この人とわたしは今、同じ湿気のなかにいる。ということは同じ服を一緒に着ていることにならないか……? なります……。
考えた途端、急に恥ずかしくなって、しゅるるると意識は現実に戻ってきた。
Cover photo by Philipp Deus on Unsplash