「街の本屋の矜持」と「脱・二極化」
「売れる本を売るのも大事だけど、売れなくても良書を並べることが本屋の使命だ」
こう語ったのは、石川県珠洲市にある「いろは書店」代表・八木久さん。心から賛同します。
↑によると、同書店は創業75周年。能登半島地震で全壊したものの、灯を絶やしたくないと翌日から看板を照らし続けているそうです。
大型書店の経営陣や従業員にも、彼と同じ志を持った人はいるはず。でも普段この種の言葉を耳にする機会は、残念ながらほぼゼロです。
前に勤めていた小さな街の本屋では、荷物が多くなく忙しくもない時期の朝礼でしばしばこういう話題が出ました。店長が「お金を儲けることだけが目的なら、コミックやアイドル写真集の棚を増やす」「でもそんなことをして売り上げを伸ばしても意味がない。ウチの社長は矜持を持って会社を続けている」みたいな話をしてくれたのです。
そのお店は数年前に閉店しました(のちに他の場所へ移転し、縮小した形で続いている)。ゆえに社長の矜持や店長の教えは無意味だったと考える人もいるでしょう。しかし私は同意しません。
店長の作った棚を見るのが大好きで、巡回のときや店内へモップをかける際にラインナップや置き方をチェックしていました。当時の「見」の蓄積は、いまの職場で確実に役立っています。「何だこれ」という意外性を随所に盛り込む。売れ筋をカバーしつつ、読んでほしい良書はなかなか動かなくても返品しない。少し前に紹介した↓とか。
大型書店でしか働いていないと、気づかぬうちに思考が「売れるから置く」「売れなければ返品」の二極化へ陥りがちです。もちろん商売なのは大前提。でも「私はこの本を皆さまへお届けしたい」という強い意志が棚から伝わるか否かが売り上げにまったく無関係とも思えない。
営業再開の日が一日も早く訪れますように。
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