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「失われた時を求めて」を巡る冒険⑫

↓を読了しました。

訳者のあとがきでも触れられていた↓が、この巻のすべてでしょう。

私にとってアルベルチーヌとの生活は、一方で私が嫉妬していないときは退屈でしかなく、他方で私が嫉妬しているときは苦痛でしかなかった。たとえ幸福なときがあったとしても、長つづきするわけがなかった。

「失われた時を求めて11 囚われの女Ⅱ」 プルースト作 吉川一義訳 岩波文庫 469~470P

大学時代を思い出しました。ある後輩同士のカップルを。

最初はすごかった。女性は男性を「白馬に乗った王子様」と評し、男性は「実家の親に紹介します」と語っていました。

どちらとも関係性が良好だったせいか、相手への思いをしばしば打ち明けられました。微笑ましく感じたし、羨ましい部分もありました。

ただ徐々に雲行きが怪しくなる。男性が言っていることと女性の見解が食い違うケースが増えてきたのです。やがて男性の方が「軽々しく夢を語る人間はダメ。男なら不言実行だ」と主張するようになりました。ずっと「弁護士になって困っている人を助けたい!」と熱く話していたのに。

当時の私は小説家になりたいと公言していました。ゆえに己を否定されたように感じ、やんわりと真意を訊ねました。どうも彼女と仲のいい男性が他にいたらしく、その人が夢を語りたがるタイプだったとか。

同じ頃、女性の方は「法学部を辞めて医者になる」と言い出しました。真相はわかりませんが、その人の影響だったのかもしれない。

いずれにせよ、男性が嫉妬しているのは明らかでした。恋人が自分以外の男から影響されることが許せなかったのでしょうか。

ある日、男性から「別れたんです」と告げられました。数日前に女性と話した時はそんなことは言っていなかった。短い間に別れるとヨリを戻すを繰り返していたようです。そして双方とも、以前にも増して相手への熱を燃え上がらせていると感じました。

「失われた~」における「私」の感情の独白を読む間、ずっとこの記憶が頭に浮かんでいました。アルベルチーヌの最終的な選択を目にした際に驚きを感じなかったのはそのせいでしょう。

私がこれまでの拙い人生経験から学んだ教訓は「半信半疑がちょうどいい」ということ。自分にやましい点がなくても、信じてほしいなら、相手に100%の忠誠を求めない。許す許さないは事実の詳細がわかってから考えればいい。その前段階からいたずらに想像力を働かせ、感情や行動を束縛したら反発されてもやむなしです。

もうひとつ。嫉妬が原動力として有効なのは、己が目標に向けて進む際の内的燃料としてのみ。「○○に負けたくないから勉強頑張ろう」みたいな。他人との関係性そのものへ持ち込むと、悪感情や身勝手な手段を正当化する事態に陥り、ロクなことになりません。

モテない男の幼稚な嫉妬論でした。

なお、全14巻を読むに当たり、ふたつのルールを設けています。

1、1冊読み終えてから次の巻を買う。
2、すべて異なる書店で購入し、各々のブックカバーをかけてもらう。

1巻はリブロ、2巻は神保町ブックセンター、3巻はタロー書房、4巻は大地屋書店、5巻は教文館、6巻は書泉ブックタワー、7巻は丸善、8巻は三省堂書店、9巻はブックファースト、10巻はくまざわ書店、11巻はジュンク堂書店、そして12巻は↓で購入しました。

千駄木にある「往来堂書店」です。

いわゆる「文脈棚」の元祖として知られる街の本屋さん。ユニークな選書を楽しめる一方で、地域にフォーカスしたコーナーも充実。ベストセラーや雑誌、児童書、コミックなども置いています。

中に入ったら、いつも右側の棚を一冊ずつじっくり眺めます。並びにふんわりとした繋がりを感じられるから。大事なことです。この蓄積が仕事に活きています。

私が足を運んだ際は「失われた~」は岩波文庫のエリアにありませんでした。ではどこに? ぜひ探してみてください。その過程できっと運命的な一冊と邂逅できるはず。

「失われた時を求めて」皆さまもぜひ。

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