本屋大賞の思い出 ACT2
町田そのこさん、受賞おめでとうございます!
私が推していた伊与原新「八月の銀の雪」は6位でした。大健闘。伊坂幸太郎「逆ソクラテス」も元気をもらった作品なので、4位は嬉しいです。
伊坂さんは2008年に「ゴールデンスランバー」で受賞していますが、複数回獲ってはいけないというルールはありません(あったらノミネートされない)。2015年に「アイネクライネナハトムジーク」と阿部和重さんとの共著「キャプテン・サンダーボルト」がダブルノミネートされたときは「どっちかで2回目?」と思いましたが、結果は8位と9位。悔しかったです。
特に「キャプテン~」は単行本と文庫両方で持っているくらい好きな作品。世間の評価と認知度がイマイチで切ないですが、いつか大ブレークして映画化すると信じています。
この本は伊坂さんと阿部さんが各々担当するパートを書き、その後互いの原稿に手を加え合うというユニークな方式で創られています。ゆえに我々は読みながら「このダジャレは伊坂だろう」「この戦闘描写のリアリティは阿部に違いない」と推測する楽しみを得られるのです。「章全体は伊坂だけど、この文章の言葉遣いは阿部っぽい」とか。
単行本発売後、すぐに買って読書メーターにレビューを書きました。読友さんの多くは「伊坂さんは好きだけど阿部さんは読んだことない」という感じでした。川上未映子さんの夫だとか芥川賞作家ということしか知られていなくて。「この本をバンドにたとえるとギターとヴォーカルは伊坂。ベースとドラムは阿部」というのが私の認識でしたが「阿部の要素がどこにあるかわからない」という声もちらほら。。。
個人的に阿部さんの最高傑作は「ピストルズ」で、いちばん衝撃的だったのは繊細な少年テロリストを描いた芥川賞候補作「ニッポニア・ニッポン」です(のちに受賞した「グランド・フィナーレ」よりも絶対面白い!)。でも「キャプテン~」に興味が芽生えた人には↓をオススメします。
非合法なやり口でアイドルの私生活を探るパパラッチの話です。かなりクセの強い変化球で傑作かと問われたら即答不能。少なくとも「本屋大賞」にエントリーされるような作品ではありません。でもこれを読んだ上で「キャプテン~」を開くと、間違いなく見える景色が変わります。ポール・マッカートニーのベースラインの巧みさに気づいた人がビートルズのメロディーの豊かさを再認識するように。
「本屋大賞」受賞作はもちろん素晴らしい一冊。でも下位に終わった作品がイマイチというわけではありません。むしろ「何でこれがこんな下の順位なの?」と首をひねる傑作の宝庫です。気になったら、ぜひ手に取ってみてください。その出会いをキッカケに同じ作家の他の作品も追いかけてもらえたら、書店員としても嬉しいです。
2015年本屋大賞9位「キャプテン・サンダーボルト」よろしければぜひ。