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「失われた時を求めて」を巡る冒険⑭
↓を読了しました。
作中の時間経過に戸惑いました。まさか冒頭と終盤で20年の開きがあろうとは。
あとがきによると、中心を占める第一次世界大戦下におけるパリの描写は、戦争で出版が中断している間に取り込まれたようです。これがなかなか辛辣でした。
新聞の報道を鵜呑みにする連中や、明らかにデマとわかる情報を吹聴する人が描かれています。興味深いのは戦時でもドイツ贔屓を隠さないシャルリュス。ただメディアや身近な人々への反発からそうなっている部分があり、決してフランスの負けを願ってはいない。ドイツを全肯定しているわけでもありません。
他人事ではないと感じました。
連日視界に入る情報の嵐。いったい何が正しいのか? 取捨選択を己の頭で決めていると信じたいけど、本当にできているのか? 無意識のバイアスや感情に流されていないか?
かといってメディアを相手にせず、自分の目で見たもの、当事者から直接聴いた話だけを信じれば無謬とも限らない。それすらも勘違いや思い込み、一部分を拡大解釈した可能性を否定できません。少なくとも私の場合は。
ゆえに「半信半疑」を座右の銘に据えています。自分を含む誰に対しても何に対しても。理由もなく疑わず、軽々しく全幅の信頼を置くこともしない。
ただこれはこれで「結局どっちもどっち」みたいな価値相対主義へ甘えがち。白か黒かで断ずることのできるテーマが多くないのは事実ですが、そこに囚われればまたある種の慣れが生じてしまう。
判断のどこかで主観が介在するし、ミスは常に起こり得る。まずこれを大前提として頭に入れておくことが不可欠かもしれません。
そして見誤りを少なくするには、過去や未来ではなく「いま」を思考の起点に据える。歴史から学ぶ姿勢を大事にしつつ、昔との矛盾を恐れない。あの時といまとでは状況の細部が異なる方が通常です。同じ理由で真逆の結果へ至るケースは珍しくありません。そこでムリに辻褄を合わせようとすれば、ロジックの正しさが現実から得た直観の解決策より優先されてしまう。
ならば主観と客観、感情と理性、過去のデータと未来の予測、論理と直観、それらの双方を等しく磨き、どちらかに統べらせない。なおかつ目線を置く地点のデフォルトを「いま」にする。
いまが原因。ゆえの未来。いま次第で過去の受け取り方も変わる。これを認識するだけでだいぶ違う気がします。
もうひとつ。「失われた~」の後半の巻がいずれもそうであるように、13巻も推敲半ばという印象を随所から感じました。辻褄の合わない点も少なくありません。
完成形を読みたかった気持ちはあります。しかしそもそも完成形とは? あくまでも作り手が主観的に確信しただけ。むしろダ・ヴィンチが「モナ・リザ」へそうしたように死ぬまで作品に手を加え続ける方が、商売云々とは切り離したクリエイターの本能により忠実なのかもしれません。
この文脈で持ち出すのはおこがましい話ですが、先日約3年前に書いた小説をリライトしました。当時は「よし完成!」と思ってアップしたわけですが、いま読み返すと頭を抱えたくなる。新作を書きつつ、これはこれで続けていきます。
全14巻を読むに当たり、ふたつのルールを設けました。
1、1冊読み終えてから次の巻を買う。
2、すべて異なる書店で購入し、各々のブックカバーをかけてもらう。
1巻はリブロ、2巻は神保町ブックセンター、3巻はタロー書房、4巻は大地屋書店、5巻は教文館、6巻は書泉ブックタワー、7巻は丸善、8巻は三省堂書店、9巻はブックファースト、10巻はくまざわ書店、11巻はジュンク堂書店、12巻は往来堂書店、13巻は青山ブックセンター、そして14巻は↓で購入しました。
神保町にある「東京堂書店」です。
最終巻はここ。なんとなく決めていました。
本の街・神保町。知名度では「三省堂書店」や「書泉」の方が上かもしれない。でも仮に擬人化した際に「私は他の何者でもない本屋です」という誇りを最も声高に打ち出すのは「東京堂書店」だと確信しています。
1Fの品揃えと雰囲気だけでも満足できますが、よろしければ上の階にも足を運んでみてください。まるで図書館。己の内に潜む好奇心や学びたい意欲が刺激されるはず。
あと一冊。最後までお付き合いいただけたら幸いです。
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