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Bon voyage

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旅の途中で出会ったかけがえのないものたち。 いつもの見慣れた場所に留まっているとしても、そこではないどこかを歩いているとしても、いつだって旅。終わることのない旅の途中。
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#物語

アリとセミ

アリとセミ

昔々、ある国に、アリさんとセミさんが住んでいました。
性格も考え方も全く違うけれど、諍い合うこともなく、干渉し合うこともなく、お互いに自分の信条のもと自由に生きていました。

アリさんは毎日、朝日とともに起きて日没まで一生懸命働いていました。
好きな仕事ではなく、アリさんにとっては辛い仕事でしたが、生きていくために頑張りました。
今日食べるものをも節約し、せっせと倉庫に貯蔵しました。
朝はもっとゆ

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#9 深くしゃがんだらジャンプするのさ

マシュー

この間、土砂降りだと言うのに
遠くの神社まで出掛けていったよ
電車を乗り継いで

朝 行きたいなって思った
もうひとりの自分が「大雨なのに?」って聞く

でも、体が勝手に着替えを始めて
電車に乗ってたよ

いつもひとりぼっちで
病気と向き合って
やることもなく
まだ続く先の長い日々をやり過ごす

不安と恐ればかりのなかで
何かに祈りたくなったんだ

遠出するのも久しぶりだから
体調気に

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未来の旅 妄想日記 1

未来の旅 妄想日記 1

今日から始める未来の妄想日記。

私は旅が大好きだ。電車や車の旅も良いけれど、やっぱり一番は飛行機。
飛行機は乗るのも見るのも好き。そして旅先は絶対に日本ではない場所。
今はまだすぐには出かけられないけれど、いつか行けることを夢見て妄想日記を書いてみることにした。

支離滅裂、破茶滅茶、なんでもありの、自由自在の日記。
勝手にひとりで楽しむつもりなので乱文意味不明なことばかりかもしれないけど、誰か

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#8 ”今”この瞬間が尊いんだよね

#8 ”今”この瞬間が尊いんだよね

マシュー

今日は夕方に散歩したよ

夕陽を眺めようと
家を出て
少し遠くが見渡せるところまで
行ってみたよ

でも、少し遅かった
夕陽は見えなかったんだ

だけどね
向こう側から差す光が
雲を照らして
輝かせていて
その上の暮れゆく空も
とてもきれいだったんだ

太陽は見えなくても
太陽の光が
周囲にあるものたちを
奇蹟のように
演出していたんだよ

素敵だな〜と思った

雲を見ているだけでも

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#7 落ち着かない心とともに

#7 落ち着かない心とともに

マシュー

今 僕は病気が見つかって
治療中なんだ

マシュー

ときどき 
堪らなく 胸に大きな重石が置かれて
ずっと僕の心を苦しませる

今はゆっくり治療に専念すればいい
何も考えずにのんびりしていればいい
ただ、ゆったり構えて
神さまがくれた休暇だと思って過ごせばいい

そう思うようにしたりするけど
重石は居座って動かなかったりする

これを乗り越えた先には
素晴らしい人生が待っている
絶対

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「おばあさんに幸あれ」と叫ぶ

「おばあさんに幸あれ」と叫ぶ

時々車で通る道の途中に、気になる家がある。

実際には、気になるのはそこに住むおばあさんのこと。

ある日、道路沿いにあるその家の前を通るとき、縁側の椅子に座り、外を眺めているおばあさんに気づいた。

狭い直線道路だから、少し手前から通過するまでの間、そこにおばあさんがいること、外を眺めていること、その縁側の奥にはベッドがあることーまで見えるし、その目がなんだかうつろなことにも気づく。

おばあさ

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明日を思い煩うことなかれ

明日を思い煩うことなかれ

生前、父親は庭にエサ台を作って、やってくる野鳥にエサをあげていた。

初めは何か残り物とか、鳥が食べそうな物を置いたたりしていたが、いつからかパン屋さんでパンの耳を買ってきて、ハサミで細かくちぎってあげていた。

父が亡くなり、やがてエサ台は朽ち果て、忘れられた。

それなのに、いつからか私も、庭にエサを撒くようになった。

やってくる野鳥は何種類かいるけど、年間を通して毎日食べにくるのはスズメ。

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ひとり旅でもひとりじゃない

ひとり旅でもひとりじゃない

「クロッカスが咲いちゃったよ」と言って、母はこっそり涙をぬぐった。

な、な、何? 今、旅から帰っただけなのに。

大学生の時、どうしても流氷が見たくなった。

初めての北海道、しかも真冬の。スキーをするでもなく、ただただ流氷を見に行く。節約の旅だから宿泊はユースホステルの予定だし、大まかなスケジュールしかたてず、気分と状況次第で決めようと、初日の宿泊しか予約していなかった。

そんな適当な旅を母

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あるクリスマスイブの思い出 #こんな社会だったらいいな

あるクリスマスイブの思い出 #こんな社会だったらいいな

前の年も、その前の年も

誕生日も

クリスマスも

お正月も

ひとりだった。

いつから、

おせち料理を食べなくなったっけ?

クリスマスケーキも

お誕生日のケーキも

食べなくなった。

だって家族もいないし。

毎日仕事が苦しかった。

ある年のクリスマスイブ

仕事で帰りが遅くなり

何か食べて帰ろうと思った。

「ラーメン食べたい!」

クリスマスイブにラーメンて!?とか思いながら

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