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メロウを引き出して?-Middle-逢瀬
浮気、してしまった。
仕事帰りに彼が好きな甘いものを買おうと思い付き、珍しく寄り道する。
最近、働き詰めで疲れているだろう。
会話がなく、泥のように眠り、魘されて、私を構う余裕もなさそうだ。心を弾ませ、足早に駅へ向かう。少しでも喜ぶ顔が見たかった。
それだけにも拘らず、乗り込んだ電車内でスーツ姿の洒落た男性と視線がぶつかる。
「大賀くん。」
未だに魅力的な初恋の人との再会に、つい声が漏れ、途端に恥ずかしさを感じて耳まで赤く染め、汗が流れた。
あちらは暫しきょとんとしたが、
「あー!うわ、久しぶり。三池さん、で合ってるよね?」
記憶を辿り、正直言って仲良くはなかった小中学校の同級生に笑い掛ける。話したくて堪らず勇気を振り絞って大賀くんの隣に立ち、さりげなく左手薬指をチェックした。〈無し〉、即ち独身。
けれども緊張により何を口走ったか覚えていない。
最寄り駅が近付いたらしい彼のシンプルなスマートフォンを見て、倉持のことを思い浮かべる。残念ながら現在の私はプロポーズを待っていた。
「あ、あの、タッ、私、今、彼氏が、」
「タイガ?懐かしいな、そのあだ名。うん、やっぱそっか、綺麗になったもんね。」
これにて終了。さようなら、愛しの大賀くん。
に、してもワンパターンだ。
別れを告げる車内放送にも飽きた、と考えるうち、不意に手を引かれて降りる。
まさかの出来事に寿命が縮み、言葉を失った。
一方、反応を窺い、楽しげに
「三池さんがホントに好きなのはそいつじゃなくて、バレバレだから。俺ん家で呑まない?話聞いたげるよ。」
囁かれ、あっさり誘惑に負ける。
目が覚めて、愕然とした。
そう、全ては夢だった。
とはいえ普段と異なり、大賀くんとの関係が進み、不思議なことに倉持は優しい眼差しで
「ミケちゃん、ありがとう。おいしかった、心配させてごめんね。」
寝起きの私を抱き締める。頭が混乱して、いつ、どのように、自宅へ辿り着いたのか忘れて罪がない彼を問い詰めた。勿論、何も解決せず。
土日休みを使って正気を取り戻さねば。
ところが更に拗れて、大賀くんの部屋に毎晩、連れ込まれる。ここなら傍に居られて、誰も傷付かない、また落ちる恋、無理にストレートで飲まされたラム酒のせい。
「独り占めしたい、泊まっていって。」「どうせあいつの彼女に戻んだろ。」「いっそ別れちゃえっつったら怒る?」
現実では何事もなかったかのように倉持と睦まじく生活を送り、両者の間で気持ちが揺れ、耐えかねてメッセージアプリを通じ、〈ツカサ〉に助けを求めた。