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男でも女でもない曖昧なワタシ〜松島彩のLGBTQ事情

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山陰中央新報で月に一度掲載している【オンナでもオトコでもない曖昧なワタシ-松島彩のLGBTQ事情-】の過去記事。写真は、いしとびさおりさんの作品から。現在は、新聞連載はしていませ…
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2021年7月の記事一覧

LGBTQ事情#12 差別をしていたのは私だった。

LGBTQ事情#12 差別をしていたのは私だった。

 私は被害者だと思っていた。世の中に漂う小さな差別に傷つけられてきた。だけど、私自身が加害者だったことを知った。差別を生み出しているのは私の方だった。

 あるトランスジェンダーの方に、

「体にメスを入れていないあなたがLGBTを名乗るのはおかしい。」

と言われた。ちょっと好きになったレズビアンの女の子からは、

「男と関係持ってるなんてキモイから私たちの世界に入ってこないで」

と言われたこ

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LGBTQ事情#11 私は化粧をしない。

LGBTQ事情#11 私は化粧をしない。

 私は化粧をしない。しないことにしたのはごく最近。今までは、したくないけれど、しなくちゃならないと思っていた。
 
 化粧をしないと相手に対して失礼に当たるらしい……。高校を卒業し、社会に出る時に読んだマナーの本に書いてあった。「女なんだから化粧ぐらいしろよ。」と言われることもあった。世間になじむために、鏡の前でヘタクソな化粧をする。ブッサイクだな私。でも失礼じゃないならいい。そう自分に言い聞かせ

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LGBTQ事情#10 結婚式にはいかない。

LGBTQ事情#10 結婚式にはいかない。

 結婚式には行かないと決めている。だけど断れなかった。参加したくない本当の理由は恥ずかしくて言えなかったけれど、ありとあらゆる言い訳をした。尊敬する演劇の先輩ゆんたんは人たらし。うまく押し切られた。でも、押し切ってくれてよかった。すごくすごくいい式だった。

 数年前、テレビの仕事でウエディングドレスを着なきゃいけないことがあった。着たくない。でも仕事。こみ上げる涙を飲み込む。試着室のカーテンを開

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LGBTQ事情#9 女の子と付き合った。

LGBTQ事情#9 女の子と付き合った。

 女性へ抱いてしまう恋心を肯定してくれたのは、20歳の時に、レズビアンバーで知り合った8歳年上の女性、ヨウちゃんだった。クールな雰囲気に引かれ、お酒の力を借りて、初めて女性にアプローチした。

 私たちはすぐに恋人になった。ヨウちゃんの運転で横浜の海をクルージングしたり、ボクシングでボコボコにされたり、年末には年越しそばを作ってくれたりもした。

 しばらくしてから、私は女優の夢を諦め、島根に帰る

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LGBTQ事情#8 心の距離感が孤独を生み出す。

LGBTQ事情#8 心の距離感が孤独を生み出す。

「『もしかして』と思う生徒がいて、その子に紹介したい本が山ほどあるんだけど。押し付けになってしまうでしょうか」

 昨年10月、出雲市の平田高校で、ある先生から耳打ちされた。教職員対象の人権研修会でLGBTについて講演して、帰ろうとした時だった。

 本を紹介することが押し付けになるのか、ならないのか。あの日から、ずっと考えていた。散々考えた結果、情けないけれど、私の答えは「分からない」だ。

 

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LGBTQ事情#7 平田高校の先生たちの理解の深さ。

LGBTQ事情#7 平田高校の先生たちの理解の深さ。

 10月、出雲市の平田高校で、「LGBT研修会」と題して、先生方にお話をする機会を頂いた。

 私はLGBTの専門家でも何でもないので、何が話せるだろうかと悩んだけれど。このコラムでひたすら自分の記憶や感情を掘り起こして文字にすることで、新しい気付きを得たり、過去の自分の苦しみを慰められたりととても充実している。「自分を深く知ること」が他者の理解につながるのでは? このコラムを書きながら私が今一番

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LGBTQ事情#6 自殺した友人の話

LGBTQ事情#6 自殺した友人の話

 大切な友人を自殺によって失ったことがある。

 彼女は、独りでいた私のそばにいつもいてくれた。人懐っこい笑顔が印象的だった。

「誰にも秘密だけど、実は女の子と付き合ってるんだ。」と、私に打ち明けてくれた。当時の私は、女の子を好きになる自分の感情を否定していたせいで、彼女の秘密を受け入れることができなかった。
 
 私が否定的に思っていることが伝わったのか、それ以来、彼女は恋人の話をしなくなった

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LGBTQ事情#5 ドラァグクイーンとの出会い

LGBTQ事情#5 ドラァグクイーンとの出会い

 高校の卒業式の夜、夜行バスに飛び乗って東京へ行った。役者の夢を叶えるために。やっと学生服が脱げる、やっと好きなことができる。1秒でも早くこの窮屈から抜け出したかった。
 
 東京は自由の街だった。朝から酔っ払いはいるし、道端で寝ている人はいるし、昼も働いているのかよくわからない人で街がごった返していた。最高だった!

 昼はお芝居の稽古をして、夜は毎晩、大人に連れられ、未知の遊び場へ繰り出した。

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