LGBTQ事情#9 女の子と付き合った。
女性へ抱いてしまう恋心を肯定してくれたのは、20歳の時に、レズビアンバーで知り合った8歳年上の女性、ヨウちゃんだった。クールな雰囲気に引かれ、お酒の力を借りて、初めて女性にアプローチした。
私たちはすぐに恋人になった。ヨウちゃんの運転で横浜の海をクルージングしたり、ボクシングでボコボコにされたり、年末には年越しそばを作ってくれたりもした。
しばらくしてから、私は女優の夢を諦め、島根に帰ることにした。ヨウちゃんは、島根にまで会いに来てくれた。
「これ、かぶろう?」
ニヤニヤしながら、怪物の仮面を私にかぶせ、そのまま、松江市内のショッピングセンターへ。2人で堂々と手をつないで、大笑いしながら店内を闊歩した。うれしかった。本当にうれしかった。人目が気になる私のために、仮面を用意してくれたのかもしれない。ヨウちゃんは私の心を読むのがうまい。女性を好きになる自分を初めて肯定できた瞬間だった。
あれから10年、お互いに別の恋人ができても、たびたび連絡を取り合っている。私たちの間では、LGBTの話題はごく自然に存在している。
とはいえ、レズビアンのヨウちゃんも恋愛には苦労している。相手ができたとしても、悩みは尽きない。結婚も出産も今の日本では難しい。だけどヨウちゃんは前向きだ。「外国人と国際結婚しよっかな!」。その手もあるか!(同性婚が認められている国は現在28カ国。先進国なのに日本は超遅れている!)
だけど私たちの最近の話題は、人間関係の〝カタチ〟だ。友達? 恋人? 夫婦? 家族? 関係性に名があれば安心し、名のない関係に不安を感じる。でも名をつけただけで安心し、本当に大切な部分を疎かにする関係に傷付いてきたし、きっと私も人を傷つけてきた。
友達って一体どこから? 恋人に縛られるのは嫌だ。夫婦なんて全く性に合わなかった。「家族ってもっと温かいものじゃないの?」。そうやって人間関係に悩む私に、つい最近ヨウちゃんがくれた言葉に救われた。
「人間関係で悩むってことは、彩が一人じゃ生きられない人間だからだよ。誰かと生きたいと思える気持ちって素敵だね」。
そう、それでも私は誰かと生きていきたい。既存の形にとらわれない自分にとっての「最高のカタチ」をつくりたい。だからこそ、自分が何者かを知りたいと思っている。
「自分が自分の足でしっかり立てるようにならなくちゃ! 大切な人を支えることなんてできないよね!」と自分を奮い立たせつつ、それでもやっぱり、謎だらけの自分の曖昧さや課題だらけのいくじなさに、絶望する。
そうして、今日も、私は、ヨウちゃんに助けを求め、携帯電話を握りしめる。時間泥棒は申し訳ないから、そのたびにメッセージアプリ内の課金でカフェチケットを送っている。来月の請求が恐ろしい。悩みの数だけお金がかかる。だから明日も頑張って働くのだ。
山陰中央新報
2020年2月2日 掲載分
写真 いしとびさおり