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LGBTQ事情#10 結婚式にはいかない。

 結婚式には行かないと決めている。だけど断れなかった。参加したくない本当の理由は恥ずかしくて言えなかったけれど、ありとあらゆる言い訳をした。尊敬する演劇の先輩ゆんたんは人たらし。うまく押し切られた。でも、押し切ってくれてよかった。すごくすごくいい式だった。

 数年前、テレビの仕事でウエディングドレスを着なきゃいけないことがあった。着たくない。でも仕事。こみ上げる涙を飲み込む。試着室のカーテンを開けるとスタッフに「似合わねえ」と笑われた。私も笑った。

「ウエディングドレスって、着たい!って憧れる人が似合うんだよ。お前、全く憧れてないだろ」

大正解。うれしかった。この人は私を分かっている。そう。私の幸せは、ウエディングドレスを着ることではない。その姿を親に見せることもできない。普通の子どもでなくてごめんなさい。それならどこに私の幸せがあるんだろう? 分からない。だからウエディングドレスを見ると苦しくなる。これが私が結婚式に行きたくない本当の理由。 

 そしてゲストもドレスを着る。これがまた嫌な理由の一つ。どうしよう。百貨店でドレスを見て回る。最悪の気分。こんなの着なきゃいけないのか。死神みたいな顔でここにいるのは私くらい。死神はいつのまにか、ドレス選びを放棄し、お気に入りの服屋に逃亡した。ここは10代の頃から大好きなブランドで「男性の服を女性が着る」というのがコンセプト。どうせ買うならここのがいい。上下真っ黒のパンツスーツ。かっこいい。これを着られるなら結婚式を楽しみに思えるかも! 包んでもらってから、値段を知った。心臓が止まりかけた。私の月収越えてる……。でも私女優だから、余裕の顔でカードを切った。

 黒はあまり結婚式にふさわしくない。女性は華やかな格好をしなきゃいけない。そんなことは知っている。でも、ワタシ史上一番いい笑顔で、ゆんたんにおめでとうを言いたい。だから服装のマナーは無視すると決めた。恐る恐るだけれど。

 当日は眼鏡を外した。ウエディングドレスを見て苦しくならないように。私の格好に対する冷たい視線を見なくていいように。幸せあふれる空間を全身で感じ、ああ、この感じかと、体にしっかり記憶させた。ゆんたんのドレス姿は最高に美しかった。

 後日「葬式みたいな格好で行ってごめんね」とメールをした。「母が松島さんはいつも個性的ですてきねって言ってた! 全然大丈夫(笑)」と返ってきた。緊張がやっと解けた。

 これで終わり。ゆんたんの結婚式が最初で最後。あのスーツを着ることはもうない。捨ててしまおうかと思ったけれど月収分も費やしたんだ、そう簡単には捨てられない。

 そうだ。いつか世界からジェンダーの苦しみがなくなったら着よう。そのときは大好きな友達の結婚式に二つ返事で行こうと思う。

 山陰中央新報
2021年3月2日火曜日 掲載分
写真 いしとびさおり

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