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ギャンブルの成功報酬:全マガジン(無料記事)

さて、自分にプレッシャーをかける意味で書きますが、『ロバート・ツルッパゲとの対話』の続編を出すことになりました。

『ロバート・ツルッパゲとの対話』(センジュ出版)に続き『カメラは、撮る人を写しているんだ。』(ダイヤモンド社)という写真の本を出したあと、似たような本を書くのはありえないと思っていました。しかし考えてみると、自分が書きたいことを好き勝手に書いたこの二冊の本は、それこそ「私自身を写していた」ことに気づきました。自分が考えていること、好きなこと、嫌いなこと、以外は書こうとしても書けないのだと再確認したので、次も何も考えずに書くことにしました。

本は私にとって特別なもので、ネット上に書かれているテキストとはまるで違う存在です。民主的という意味で「誰でも好きなことが自由に書ける場」としてネットがあるのは理解できますが、そこにはヒリヒリした勝負がありません。私はデザイナーとして仕事をしてきた経験があるので、マーケティングをし、企画を立て、原稿を用意してデザインをして印刷をして製本をする。それが書店に並ぶまでの大勢の人の努力と覚悟がわかっています。ソーシャルメディアに「私の持論」を書くこととはまったく違うのです。

ビジネスとは、投資して利益を回収する『ギャンブル』ですから、勝たないと意味がありません。負けたことを褒めてくれる人はいませんから、たくさんの人がベットしているギャンブルに勝てる手札を私が用意しなければいけません。事情を知らない人からよく「印税が入っていいね」と言われるのですが、半年から一年かけて苦労して書いた本が、1万か2万冊くらい売れたとしても印税はたかがしれていて、それくらいの金額は撮影の仕事をすれば3日でもらえますから、本業のほうがコスパがいいに決まっています。

ですから、このギャンブルの成功報酬はお金ではありません。

「あなたが書かなかったら、この本に書かれていることは人類の歴史には存在しなかったんですね。ありがとう。楽しめた」

と言われるためで、これが何にも替えがたい報酬です。大げさに聞こえるかもしれませんが、それが本が持っている魔力です。私にとっても「あれを読んでいなかったら今の自分は違う方向に進んでいた」と思える本がたくさんあります。読書とは他人の人生を知ることであり、自分が生きている場所の座標を教えてくれます。19世紀のフランスも、戦国時代の日本も体験したことはありませんが、本を読めば少しは知ることができます。私とは違う環境と時代を生きていた人が自分にヒントをくれます。

本を読むのが好きではないという人の話を聞くと、座標に興味がないことがわかります。自分が生まれ育った場所、時代以外のことを知るつもりはないのでしょう。それでもいいのですが、私は2024年の今、他人が何を考えているかを知るために本を読みますし、自分が書いた本を書店に並べて読んでもらいたいのです。

役に立つことを書くつもりなどありません。それらは、そういう本を書ける頭脳を持った優秀な人が書きますから大丈夫です。ただ、何かに役に立つとか5分でわかるとかコスパだとか自己啓発みたいな目的の本が大量にあるからこそ、バランスを取るためにそうじゃないものを書店に並べたいのです。

さあ、書こう。


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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。