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詩的散文

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私の書く文章に、主人公は必要ない
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2019年5月の記事一覧

コウモリ

コウモリ

夕方の6時、まだ夏を迎えていないこの時期は、すっかり薄暗い空へと模様替えをしてしまう。

なんとなく街からは活発さが抜け、家の電気と街灯が夕暮れと共存している。いっそのこと夜の方が安心できそうな、不気味な時間だ。

日が暮れる速度に、僕たちの目の明暗順応力は追いつけず、視覚を酔わされたような空気が漂う。

遠くを歩く人影が二重にも見える。歩む道は、夢の中の質感にも似た不確かさを兼ねている。

空を

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蒼翠の神殿



一つの意識が、蒼空の下で、大気中に放たれ霧散する、

それは、風の斥力で前進し、定まった路の上に、

偶然持ち合わせていた、二本の足を、器用に着地させる。

意識は、蒼の天蓋を司る、パルテノン神殿の、

無限の柱廊を、天の白い眼差しに睨まれて、

何処へともなく、連行される。

神殿を支える、植物じみたエンタシス(柱)は、

柱頭部が枝分かれし、緑の大きな装飾によって、

意識を、白日の下から

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性と恋

恋に汚れず、高級な性の探求に遣える男、

彼は、『人間』をひどく嫌っていて、本能的な性欲を愛する。

性を忘れ、恋の探求に惑わされた女、

彼女は、本能的な「雄(オス)」に飽き、人間に許された愛を求める。

二人の交わす言葉は、根底こそ違えど、互いを引き寄せ合う。

惹かれ合った偏屈者共が、合間見える瞬間、

初恋を想わせる、初心な緊張が迸る。

黒尽くめの彼は、多少横柄ながら、小心者の雰囲気だ。

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恋の追憶(- 腫瘍)

それは、禁煙中のタバコのように、

それは、ネット中毒者が持つスマホのように、

それは、心が弱った時に聴くロックのように、

僕の片足を拘束している。

あの人の、抱きかかえた猫のように柔らかい肌と、

春の日差しに晒された砂ほどの体温に、

もう一度、もう一度だけ、包まれたいと願う。

それが叶わないので僕は、不思議な色をした、

明らかに毒々しい綿(わた)の思い出に、身を任せてしまうのだ。

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記憶 / 感情、そして思い出

記憶 / 感情、そして思い出

記憶 / 感情、思い出は同一視してはいけない

記憶(memory)とは、人間の脳が、五感によって経験した反応を蓄積した複雑なデータ集団のことである

記憶が点であるのに対し、思い出とは、線だ。

記憶には過去も未来も、また、その中間としての今も存在しない。あるのは刹那の瞬間だけである。

その記憶には本来、持続性は存在しない。

何故なら、記憶を思い出す度に、古びたり、濃密性が増したり、華々しく

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他人の人生に影響を与えるという事

 僕たちは、他人の人生に干渉したり、逆に影響を受けたりしながら生きている。

 たまに僕は、その事に対して罪悪感に苛まれるのだ。

もしかしたら、僕の言葉が相手の才能を殺すのではないか。

もしかしたら、僕の反応が相手の人生の選択を変えてしまうのではないか。

相手の人生に、僕が登場する世界線と、登場しない世界線。

どちらが幸か不幸かはわからない。けど、勝負を降りることは簡単だ。

堅い要塞を心

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繊細すぎる感覚を保つ為に開けた孔

私たちを苦しめるのは事実ではない。

私たちを苦しめるのは感情である。

恋人との別れという事実そのものは、次の日からの生活を、身体的に耐え難いものにする事はない。

ただ、隣に恋人がいた過去が、私たちを苦しめる。

そして、一人となった生活は、過去を取り戻すために、取り憑かれている。

私たちは、事実ではなく、感情によって、次の日からの生活を身体的に耐え難いものにしてしまう。

私たちから恋人が

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絶望の温床で咲く華

絶望の温床で咲く華

僕の人生は、いい事はちょっとで、あとは大体嫌な事だ。

隣の芝を見る習慣はあんまりないから、特に辛くはならないけれど。

でも、世間一般的には、自分よりも楽しい人生を送っている人達が多い事は重々承知の上に生きている。

だからなんだって話だけど。(笑)

ただ、この機会だから言いたいんだけど、みんな「楽しくない」ってだけで、何でもゴミ箱に入れすぎじゃあないか?

そりゃ、楽しい事に比べたら、忘れた

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