道化乃 涙

僕はワナビー 何者でもない / 僕は人気者の カンガルーを 遠くから見つめる ワラビー / カンガルーには なれない / 僕は ワナビーのワラビー / カンガルーに似てる と言われる

道化乃 涙

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最近の記事

タヌキのお弁当

タヌキ先生は、ふと思いました。 私の生徒たちのお弁当は、とても不公平だ。ある子はお肉と野菜たっぷりの栄養満点なお弁当。ある子はとてもカラフルな手の込んだお弁当。ある子はおむすびだけ。ある子はお弁当をいつも持ってこなくて水だけ飲んでいる。これはとても悪いことだ。私にとっては、みな同じ大切な生徒。それなのにお昼になるたびに、ある子は満ち足りて、そうでない子は悲しい思いをする。教師として、私はこれをどうにかしなければいけない。 そこでタヌキ先生はお昼休みに言いました。 「あー、

    • 3個のりんご

      村でりんごが3個とれた。 村人はみんなで8人だ。 みんなお腹が空いている。 かしこい人が言った。 1個のりんごを8切れに分けましょう。 すると全部で24切れのりんごになります。 これを1人に3切れずつ配ればちょうどです。 やさしい人が言った。 それなら僕は2切れでいい。 残りの1切れは、 体の弱っている人にあげよう。 そこへ、地主が口をはさんだ。 待て待て。 このりんごは私の土地でできたものだ。 だから、2個は私がもらう。 残りの1個は、 あなたがた7人で好きに分けてよ

      • オナモミ

        目が覚めると、私は一個のオナモミになっていた。どこかひなびた町の空き地の一隅で、他のオナモミの実たちと一緒に風に揺られていた。彼らに私のような意識があるのかは窺い知れない。私は声を出すことができなかった。 小学生の男の子の悪戯な手が伸びて、私を茎からもぎ取った。痛みはなかった。男の子は私を目の高さに掲げて観察し、それから自分の服のおなかにくっつけた。それから道路に出て、駆け出した。 踏切の警報が、彼を止めた。速度を落とした電車の通過待ちに飽き飽きした彼は、私を服から引き剥

        • 複写効果

          AはBがいなければいいと思った。 Aはこの世界では人はみな死んでいくことを知っていた。だから、Bもいつか死ぬことを知っていた。それが、明日なのか、10年後なのか、50年後なのかが問題だった。Bが長く生きるほど、Aには耐え難いように思えた。Aは、それまで人類が口にしたことのない言葉をBに言った。 「お前が、明日、死ねばいい」 Bは驚いた。人が人に「死ねばいい」と口にするのを初めて聞いたのだ。考えてもなかったことだ。他人の死を望むこと。そんな発想はまるでなかった。Bは自らの愚鈍を

          チラシ

          仕事を終えて、男が集合住宅の郵便受けを開くと、一枚のチラシが入っていた。 『自殺幇助します! 必要なのは遺言状1枚のみ! 合法です! ペントバルビタールを点滴します! 点滴弁はあなた自身が操作! たった20秒で死に至ります! その後、専門業者が火葬します! 遺灰の処置はご遺言に従います! 今が最安値! 明るい死後へ、今すぐ!』 男はため息をついた。 やれやれ、またか。自殺幇助が合法化されたせいで、こんなチラシが毎日のように投函される。自己責任社会の成れの果てだ。御生憎様。

          軍曹と新兵

          軍曹は新兵に言った。 「これからお前の赴く戦場では、苦しみや痛みは日常茶飯事だ。それに耐性をつけるために、俺はお前を日々痛めつける。お前は毎日殴られ、罵られ、他の兵士の前で恥をかかされる。覚悟しておけ」 戦争が終わり、年月が経って、軍曹は一介の老人になり、新兵は医師へと転身した。元軍曹が重い病に倒れて、自分の医院に入院してきたので、医師は彼に告げた。 「これからあなたの臨む死というものは、苦しみや痛みに満ちています。それに耐性をつけていただくために、我が医院は最先端の医

          人間原理

          「人間が言うには、この宇宙は観察者を必要としており、それゆえ、目に見えない不思議な力によって、人間という生物が奇跡のように誕生したらしいです」 「そう言う人間は、我々を養うために存在しているわけだが?」 「そうですね。ということは……?」 「この宇宙は、我々を必要としており、我々を存在させるために、人間を存在させつつ、存在している、というわけだよ」 「なるほど」 「というわけだから、我々は好きに食べて寝て、たまに人間と遊んでやればいいのにゃ」

          口裂け女とカラス

          マスクをした女は訊いた。 「私きれい?」 カラスは答えた。 「私には分かりません。私の直観はあなたがきれいだと告げていますが、それは目に見えない部分が隠されているからかもしれません。マスクによってではなく、例えば、あなたの心とか、あなたの性格とか、あなたの嗜好とかいうものが、私の無知によって」

          口裂け女とカラス

          ビリーバー

          街頭で、私はいつものように叫んでいた。 「あなたは神を信じますか?」 私は、自分が神を信じることによって天国へ行くと信じており、街ゆく人々は無知ゆえに地獄へ落ちると信じていた。私の活動は魂の救済であり、肉体という頸木からの解放であり、人類への無限の愛であった。私は、街頭で無視され、白眼視され、あるいは罵倒されることでむしろ快感を覚えた。課せられた積み荷が重いほど、私という人間の存在意義が光ると思えたのだ。だから、あの貧相な中年男が絡んできたときも、苛立ったりせず、私自身の持つ

          ビリーバー

          スーパーマン哀歌

          生活の糧を得るために スーパーマンは 自ら耕した畑で 朝一番に採れた もぎたての正義を 自転車のかごに詰めて 町へ売りに行く 一ヶ百九十八円の正義 通りすがりの老人が足を止めて言う あんた、そんなもん、売れやしないよ 正義なんて みんな自分では 持ってるつもりなんだからさ 老人は正しかったが それでも日暮れまでに 正義は三個売れた スーパーマンは売れ残った正義を 晩に すりおろして食べる

          スーパーマン哀歌

          珍奇な呪術

          ある王国で王は家臣に尋ねた。 「民は私のことを尊敬しておるか?」 「もちろんでございます」 「民は私のことが好きか?」 「愛しております」 「それは偽りだ」 「何故でございます?」 「愛というのは、私の姉が私に与えてくれたものだと考える」 「姉上様の急逝にお悔やみ申し上げます」 「姉は民に真に愛されていた」 「その報に涙を流さなかった者はないと聞きます」 「私は、姉に愛されたように、民に愛されたいのだ」 「なるほど」 「私を見るなり、目をそらし、小さく縮こまる民を見るのが嫌な

          呪いの言葉

          母の口癖は「嫌なら出て行け!」だった。 母は何度もこの台詞を口にした。幼かった私が、家が汚いと指摘したとき、両親の喧嘩の仲裁をしようとしたとき、野良猫を拾ってきて飼おうとしたとき。私が気に入らないことを言ったり、したりするたび、呪いのようにこの言葉をぶつけてきた。そしてある日、成人した私に向かって、付き合っている男が気に入らないと言い始め、反駁すると、やはり言った。 「嫌なら出て行け!」 すると突然、私の体は霧のように蒸発し、再び私自身に戻ったときには、愛する男性の腕の中にい

          βとγの生殖

          βの生殖器の全体がγの体内にすっかり入ると彼らの下腹は一時的に癒合し、熱い熱で充満される。彼らは快楽に見舞われ、それは巨大過ぎて意識が混濁する。βはγに覆いかぶさり、γはβにしがみつく。彼らは激しく痙攣し、その震え以外の何も、宇宙には存在していないみたいだ。時間が解体され、方向性を失い、ただ現在のみが永遠になり、それで彼らは真の自由を獲得したつもりになる。しかし、時が動き出し、βが手に入れたはずの自由を見ようと手を開くと、そこには何もないのである。 「終わったの?」とγが訊く

          ビッグK伝説

          以前、Kは小柄だった。以前というのは、17歳の時までである。普通、人はこのくらいの年齢で身長が止まる。ところが彼は17歳から20歳にかけて身長が40センチも伸びた。さらに体重は50キロも増えて、怪力の持ち主となった。 町の人たちは、彼にビッグKというあだ名をつけた。ビッグKは災害救助隊員になり、人助けに従事するようになった。 町は長らく平穏だったが、ある日突如として大地震に見舞われた。 ビッグKは直ちに現場へと急行した。奇しくも彼が最初に目にしたのは、飲み屋の瓦礫に埋も

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          献血ルーム

          献血ルームで受付の仕事を始めて3年が過ぎた頃、初老の男性が訪れた。事務手続きをするために声をかけると、男性はこんなふうに一方的に話し始めた。 「ずいぶんいい感じじゃありませんか、献血ルームっていうのは。ここなら安心して、血を抜いてもらえそうです。たくさん抜いてもらっていいんですよ。おそらくは、あなたがたが望むよりも、ずっと多くの血を。ええ、それこそ限界までね。400ml? そんなケチくさいことは申し上げません。私はね、1滴残らず血を抜いちゃってもらいたいんです。いやいや、冗

          指はもぞもぞ動いて、僕を起こした。おはよう、おはよう。僕に指の声が聞こえるのは、もともとの指の持ち主の声を記憶しているせいにちがいない。指に口はついていない。 彼女はいつも二度挨拶をした。おはよう、おはよう。 僕も二度挨拶を返した。おはよう、おはよう。 合計四回のおはようが僕らの朝の始まりだった。それはルールのようなものだった。僕らのルールはいつも楽しさを目指していた。もしもあるルールがどちらかの苦痛になるのなら、それは別の形に置き換えられる。僕らはこの挨拶を続けた。彼女が