呪いの言葉
母の口癖は「嫌なら出て行け!」だった。
母は何度もこの台詞を口にした。幼かった私が、家が汚いと指摘したとき、両親の喧嘩の仲裁をしようとしたとき、野良猫を拾ってきて飼おうとしたとき。私が気に入らないことを言ったり、したりするたび、呪いのようにこの言葉をぶつけてきた。そしてある日、成人した私に向かって、付き合っている男が気に入らないと言い始め、反駁すると、やはり言った。
「嫌なら出て行け!」
すると突然、私の体は霧のように蒸発し、再び私自身に戻ったときには、愛する男性の腕の中にいた。
それ以来、私は実家との連絡を断ち、夫との間に2人の子供をもうけ、ささやかで静かな幸福の中に暮らした。
私はしかし、罪を重ねていた。夫以外の男性と関係を結んだのだ。それも、何度も。私はどうしてもそれをやめられなかった。そしてその報いはやはりあったのである。
乳がんによって、私は亡くなり、気づくと地獄にいた。
地獄は本当にひどいところだ。
日に三度、煮湯を飲まされ、寝ている間は火で焼かれた。地面からは剣山のように針が突き出ていて、罪人たちは重い砂袋を担がされ、そこを裸足で歩くのだ。その砂袋で、新参者の監禁されるあばら屋を造るのである。
ある日、私が造ったあばら屋に蹴り入れられる新参者を見た。母だった。母は私の姿を認めると、自分の咎など忘れた様子でうすら笑いを浮かべた。私は怒りに燃えて詰め寄り、母をなじった。あなたが十分な愛を注がなかったせいで、私は不貞に走った。私が地獄にいるのは、すべてあなたのせいだと。母はたちまち激昂して叫んだ。
「嫌なら出て行け!」
気がつけば、私は天国にいた。何という呪いの言葉だろう。それは、地獄をひっくり返して天国に人を落とすほどの力があるのだ。私の肩にあたたかい手が置かれる。いくつも、いくつも。層になっていく、男たちの大きな、あたたかい手。私はうっとりと目を閉じた。