ビッグK伝説
以前、Kは小柄だった。以前というのは、17歳の時までである。普通、人はこのくらいの年齢で身長が止まる。ところが彼は17歳から20歳にかけて身長が40センチも伸びた。さらに体重は50キロも増えて、怪力の持ち主となった。
町の人たちは、彼にビッグKというあだ名をつけた。ビッグKは災害救助隊員になり、人助けに従事するようになった。
町は長らく平穏だったが、ある日突如として大地震に見舞われた。
ビッグKは直ちに現場へと急行した。奇しくも彼が最初に目にしたのは、飲み屋の瓦礫に埋もれてもがいている兄の姿だった。
兄は悪党だった。幼少の頃、兄は散々彼をいじめた。大切な物を川に捨てたり、気まぐれに殴ったり、まだ小さかった体をからかっては笑った。大人になるとギャングの手下になった。
ビッグKは逡巡したが、先に助けるべき人たちがいると考えた。子供や老人である。いかにビッグKといえども、体力には限界がある。それを有効に配分しなければならない。ビッグKは兄の前を通り過ぎた。
次にビッグKが発見したのは、中学生のときの上級生だった。自家用車のハンドルとシートの間に挟まれていた。肺が圧迫されていて、息も絶え絶えだった。
ビッグKは思い出した。この男はたびたび彼から恐喝した。お金がないと言うと、確かめると言って彼を裸にした。大人になると、そんな過去などなかったような顔をして議員になった。
ビッグKの目に、彼は被災者とすら映らなかった。そして、その潰れた車の横を素通りした。
次にビッグKは、割れたガラスで血まみれになっている女性を発見した。女性は率先して助けなければならない。駆け寄ると、その女性はかつての災害救助隊の上司だった。
ビッグKは彼女が日常的に繰り返していた、理不尽な罵倒を思い出した。ビッグKには愛想が良かったが、同僚の気の弱い男をとにかく徹底して虐めた。ビッグKは同僚と過去の小柄だった自分を重ね合わせて、辛く見ていた。災害救助隊では上司への忠誠が義務づけられていて、口答えは許されない。ある日、上司は万引きで捕まり、解雇された。ビッグKはそっとその場を離れた。
違う! 違うんだ、私の助けたい人はこういう人たちではない!
そう独りごちながら、ビッグKはとうとう町を一回りした。そして、誰も助けなかった。
この町は嫌な人間ばかりだ!
ビッグKは憤りながら、大きな体をゆさゆさ揺らして隣町へと歩いて行った。