#短編小説
【短編】日が昇る四畳半⑦最終回
⑥はこちらから
僕は裁判所の証言台にいる。
背後の傍聴席からの視線が、なんとなく怖い。こんなにたくさんの人に見られたのは初めてだ。少しだけ後ろを見ると比嘉さんと目があった。
比嘉さんは、父と母を許すと言ってくれた。でも、それには条件があった。僕が当事者として証言台に立って父と母がしてきたことをきちんと話すことだった。
「生駒秋芳さん、あなたは、18年前、生駒夫妻により、事故の現場から連れ去られ
【短編】日が昇る四畳半⑥
⑤はこちらから
日曜日。学校もバイトもない。
実家の玄関に貼られた貼り紙を剥がしてゴミ袋に入れる。壁には卵とか、犬のフンとかも投げ付けられていて、笑っちゃうほどにひどい。防犯カメラを設置して犯人を割り出してやっても良い。これだって、立派な犯罪だ。父や母は、お前たちに何もしてないじゃないか。
「ずいぶん、ひどいな。」
聞き覚えのある声だった。振り返ってはっとする。
「比嘉さん…。」
「手伝うよ。
【短編】日が昇る四畳半④
③は、こちらから。
久しぶりに実家の玄関に鍵を通した。
玄関に、壁に人殺しって張り紙がたくさん貼ってある。こういうの、どういう気持ちで書いて貼るんだろう。理解できない負の感情。
玄関を開けて家に上がる。飾られた花が枯れて植物の死ぬ匂いがする。水っぽさを少し含んで臭い。花瓶を手にして台所に向かった。
枯れて腐った花をゴミ箱に捨てて濁った水を流しにあけた。臭い。花瓶を覗き込むと、水垢がこびりついて
【短編】日が昇る四畳半③
②はこちらから
秋夜さんに話をした日から1週間。
僕の住むアパートに警察が来た。
「生駒秋芳さん。一度、DNA鑑定を受けてほしいんです。」
そんなことを言われて髪の毛を何本か提出した。僕の知らないことが始まっているように思った。
学校の友だちには変化はなかった。相変わらず立ち位置はみんなの弟で可愛がられ役。
「あっきー。メロンパンあげるー。」
そう言って、女の子たちに囲まれたり。きっと、この
【短編】日が昇る四畳半①
子どもの頃の話。
僕は、四畳半の部屋に住むおじいと仲がよかった。その部屋の襖を開けるとおじいはニカって笑って僕を迎え入れてくれた。
家族の中の誰とも血のつながりのないおじいがウチの一室にずっと住んでいた。誰とも関わらず、僕とだけ話すおじい。母がなんとなくおじいの分もご飯を作って、おじいの住む四畳半にそれを届けるのが僕の役目だった。
「今日は、おでん?おじいカラシほしいって絶対言うよ。」
「じゃあ、
【短編】日が昇る四畳半②
①はこちらから。
カーテンの色がブルー。
僕の部屋ではない場所で目が覚めた。レモングラスの香りがして頭が冴えていくが少し気持ち悪くて起き上がれなくて横になっていた。これが二日酔い。人生初めてだ。
「あき、おはよう。」
秋夜さんが、声をかけてくれて、ようやくここが秋夜さんの部屋だと分かった。
「ごめんなさい、僕…。」
「止めなかった俺も悪いよね。ごめんね。」
秋夜さんがペットボトルの水を渡してくれ
【短編】ささいなこと
家の玄関の前に、日除けのすだれがある
なぜか、額の高さで括られている。
頭をぶつける。
警戒しながら玄関まで近づくと
すだれから玄関まで蜘蛛の巣がはっている。
首に巻き付いて捕獲された気分だ。
靴を脱いで二階に上がる。
洗面台の蛇口を捻ってハンドソープのポンプを押すと
泡がカスカスだ。なぜ詰め替え用を足しておかない!
これはとても些細なこと。
本当に些細なこと。
お風呂に入って寝よう
【短編】ラーメン一緒に食べよう
帰り道。午後10時。
俺にとっては、早い時間。気に入っていて時々食べにくるラーメン屋さんがまだ営業中だった。ラーメン屋さんは敷地の狭いお店が集まる屋台村にあって表に見えるように貼ってあるポップに「冷やしラーメン」て書いてある。
あ、これ、食べたいな。
「あれ?中木?」
振り返ると、同じ会社の友達がいた。
「あ、藤谷。…飲み中?」
隣のお店は串カツ屋さんで外のテーブルには串カツを食べてるお客さん
【短編】焼きそばとスターマイン
「今夜はよく晴れて、風も穏やかでしょう。
お出かけの際は虫刺されをして出かけましょう」
翔ちゃんがラジオの真似をしている。松男ジイの孫で、よく松男ジイとウチで買い物をしている。僕は夏休みすることがないって親に決めつけられてレジバイトに入っている。
「愛は地チューを救うぜ!」
レジに置いてある24間テレビの募金箱を指差している。
「まぶらーほじーればー。さらいーのほらーへー。いちゅかかえるーいちかか
【短編】夏休みの1000文字
セミ。
捕まえてすぐ死んだ。まさか7日目のセミだったなんて。網をかぶせて捕まえた時はジギギギギって鳴いたのに。夜、虫籠の中で全く動かなくなってコテン。
”きょう、ミンミンゼミをつかまえました。
つかまえる時はスリルまんてんでした。
あみの中でとびまわるのでにげちゃうかと
おもったけど、にげませんでした。
カゴ入れたら すごいうるさくしてたけど
夜になったら死にました。
生きてる時はむしかごにくっ
【短編】甘いコロッケとあの日の父を
頭がガンガンするような、そんな音がずっと流れている。機械の声に金属の流れていく音。
「また、いるの?ちーくん。」
お父さんの横に座る僕にガラガラ声のモジャモジャ頭のおばちゃんが話しかけてくる。
「杉山さん、ダメだよ、こどもー。」
「ん?あー、そいつは…そう見えて大人なんだー。」
「バカ言ってら!」
おばちゃんは、銀色の玉を鷲掴みにして、台に吸い込ませていく。1円玉をハンドルに噛ませて、ずっと握って
【短編】笛と太鼓と自転車に
#2022年のライトノベル短編
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【短編】笛と太鼓と自転車に
作 38ねこ猫
春。俺の住む町は伝統の祭りがある。
箱崎農村環境改善センターのグラウンド。桜の花が勢いを見せて咲く。ウグイスも鳴いている。よく絵で見る緑の鳥はメジロで、本当のウグイスは、あれじゃない。本当のウグイスを教えてもらってどうして勘違いされたんだろうって思った。
「嫌いだぜ、春なんか。」