被害者意識という最もネガティブなエネルギーを増幅させる意識は、着実に確実に人を最悪な結末へと向かわせる為に存在している
僕は昨年10月末にWes(Westley Allan Dodd)の最後の殺人を小説で表現して書き終えたとき、激しく凄絶な興奮に襲われ、精神と肉体の震えがなかなか止まらなかった。
あまりに苦しく、Wesが本当に降りてきてくれたんだと確信した。
Wesの実際の当時の殺害記録を基にして書いた小説だが、最後の文章は僕のオリジナルで僕の描くWesの中に眠っていた被害者意識を最大限に表現したかのようなものだった。
Wesはもともと大人しい性格で「良い人間(Nice Guy)」だと周りから思われていた。
自分がこれだけの被害を受けてるのだと人に向かって言うような人間ではなかった。
従順で、相手に自分の抱えている不満を曝すことなくユーモアがあって明るかった。
しかし逮捕後、Wesは自分が隠してきた人々に対する不満を吐き出した。
両親自身はまったくそんなことはなかったと言っているが、Wesは一度も親から愛されたことがなかったと言った。
自分の性犯罪をことごとく軽く取り扱い、見逃し続けた警察や更生保護組織の人間たちすべてを非難しつづけた。
父親や不倫関係にあった女性に対する怒りを表した。
処刑前の最後のインタビューでは、殺したい男性が一人いると述べた。
その男性は、恐らくWesに子ども時代に性的虐待を与えた可能性のある人物だと考えられる。
重要な着目点として、Wesは自分に対しても、他人に対しても厳しい基準で判断していた。
Wesの被害者意識というものに、人々はもっと関心を向けるべきだと僕は想う。
Wesは自分が何故、子どもたちを殺したのかわからなかった。
だがWesの顕在意識にはそれだけの被害者意識が存在していたことがわかっている。
では潜在意識にはその倍以上のものが存在すると考えるのが自然である。
人間はほとんど複雑な心境を潜在意識のなかに抱え込んでいて、ほんの少ししか顕在意識に上っては来ない。
Wesの潜在意識にあった被害者意識がどれほどのものであったか、僕たちは想像する事しかできない。
Wesはある時点からオカルトを研究し始めた。
そして最終的、どうしても子どもたちを殺したくなり、サタンと契約を交わし、サタンの力を借りて自分は子どもたちを殺せたのだと信じていた。
サタンをWesはルシファーとも呼んでいるが、悪魔の力を借りるとは、悪魔の呪いの力を借りるということになる。
そしてWesは子どもたちを殺させてくれるならば、自分の魂をくれてやるとサタンに言った。
まるでWesは自分だけのネガティブな意識では子どもたちを殺すのに足りないと感じ、サタンの意識を借りたかのようだ。
Wesは子どもたちを残酷に殺す為には、自分のネガティブなエネルギーを増幅させる必要があった。
僕はWesの最後の殺人を表現した自分の小説を通して、Wesが子どもたちを殺すに至った最も深い原因に心身ともに震え上がるほどの恐ろしい被害者意識があるという確信に至った。
無論、本当にWesが僕に降りて来たかどうかはわからない。
しかし最後の殺人は、最初の殺人とは比べものにならないほどのWesの怨念の凄絶さを僕は感じ取ったことは確かだった。
実際の殺人記録だけを読んでもわかるものがあると思われるが、Wesは本当にサタンに取り憑かれているように悍ましい記録を残している。
本当に苦しくて堪らないことだが、苦しいからと言って、僕たちはWesの被害者意識がどんなものだったか、深刻に考えつづけることをやめるわけにはいかない。
殺人者の心理に目を向けず、どうやってこの世から残酷な事象をなくす方法を見つけられるのか?
僕はこれまでそう信じていたと想う。
でもようやく気づいた。
僕は何よりも真っ先に深刻に、自分自身の被害者意識に目を向けなくてはならなかったんだ。
僕が最も望まない取り返しのつかない最悪な結果のあとに、やっと気づくことになった。
Wesの最後の殺人を小説で表現したあと、皮肉なことに僕自身の被害者意識が増大してしまったんだ。
僕がこれだけ苦しみながらWesを深刻に表現していることに対して、何故、だれも本当に深い関心を寄せてもくれないのだろう?
僕はそんな被害者意識を日に日に深めさせて行き、朝からお酒を飲んで手が震えはじめるようになった。
鬱症状が凄まじく悪化し、僕の大切なちいさな家族たちはほぼネグレクト状態だった。
当時の僕の人々に対する恨み、憎悪、呪いの意識は凄まじいものだったと想う。
そのすべてが、僕と僕の愛しい存在たちに降り掛かった。
僕はそれでも、被害者意識こそが最悪な原因であることにまだ気づけなかった。
アルタイル、ちよっち、しろっち。
続けざまに、みんな僕の愚かさの為に、苦しんで死んだ。
最後に、しろっちが僕のもとを去り、一時すべてに対する憎悪と自分自身に対する憎悪が増大し、その後、自責のなか苦しみつづけた。
もうすぐ4ヶ月近くなる。
「ペットロス」と表現するにはあまりにも浅い、この全てと自分に対する絶望的意識を、どうしたらいいか、何もわからなかった。
そしてこのような最悪な事態になったことの根源に、何があるかを、まだわからなかった。
でも今、僕はようやく気づけたようだ。
Wesと同じだ。
僕もWesも被害者意識という最悪なエネルギーの矛先をすべて、自分の愛する存在へと向かわせてしまった。
僕は今になってすこしWesの後悔がわかるように想う。
僕たちは確かにみずからの被害者意識によって人格を崩壊させて行き、自分で気づかないうちに狂気のなか、救いを求めながらも自分の被害者意識を満たす為に必死だったんだ。
被害者意識とは、被害者意識を満たしてゆく為のものであり、言い換えるなら被害者意識とは憎悪や恨みや呪いといった最悪なエネルギーを増幅させるための意識であり、それら人間を破滅へと着実に確実に至らせる為に必要な意識であって、その根源となっている意識だということに、僕はようやく気づけたんだ。
僕はWesを表現したことで、人々の相応の評価を求め、それがいつまでも得られないことで被害者意識を増大させると同時に最もネガティブなエネルギーを増幅させ、最悪な方向へと導いた。
僕もWesも根源的に存在している「何故、愛されないのか?」という宿怨(積年の被害者意識)をこの時点で最大限に爆発させた状態となっている。
間違いなく人格の崩壊が起きていると考えられるが、僕たちは最早、自分以外に誰を恨むこともできない。
もしまだ被害者意識に甘んじて生きようとするならば、僕たちは決して愛する存在と再会できる日など来ないだろう。
人間が容易に陥ってしまう被害者意識というものは、必ず増大させゆくことで悪へと繋がるエネルギーを増幅させ、僕たちのすべてをこれ以上にないと思えるほどの悲劇的結末へと向かわせる為に存在している。
その最も凄まじい形がWes(Westley Allan Dodd)や酒鬼薔薇のような殺人者たちだと言える。
人を実際に殺害する人は少なくとも、僕のような例は多くの人が経験してきたことで、この先、経験するかも知れない。
そして起きたあとにどれほど後悔しても、起きたことを起きなかったことにすることは、できないんだ。
僕の悲惨な後悔は死ぬまでつづくと想うけれども、しろっちを看病しているあいだ、よく「愛してる」と優しい声が僕のなかに響いた。
まるでしろっちが僕に愛を送ってくれていて励ましてくれてるようだった。
しろっちは黒毛のハムスターなんだけど、ちいさな身体で僕をずっと支えてくれていた。
僕とWesの最悪な過ちを通して、人々が自分自身の意識を変えてゆこうとするきっかけとなることを、此処から願う。(天にいますぼくしろっちからもよろしくね。)
2023年8月14日21:02 Yuzae改め、こず恵