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【読書記録】トランジション―人生の転機を活かすために

今回の読書記録は、2014年に出版されたウィリアム・ブリッジス著『トランジション―人生の転機を活かすために』です。

ウィリアム・ブリッジス『トランジション―人生の転機を活かすために』

本書は、アメリカの著名な著述家であり教師、コンサルタントであるウィリアム・ブリッジス氏(William Bridges)が1980年に出版し、全米でベストセラーとなった『Transitions: Making Sense of Life's Changes』改訂版(2004年出版)の邦訳書です。

ウィリアム・ブリッジス氏の唱える『トランジション(Transition)』とは、人生における転機、変化に対処するために起こる心理的・内面的な変容を指します。

就職、結婚、転職、出産、引越し、死別など、人生の転機には大きな内面の変容・トランジションも伴います。

著者であるウィリアム・ブリッジス氏は、人間性心理学会会長(President of the Society for Humanistic Psychology)を務める以前はアメリカ史、アメリカ文学の研究を行なっており、アメリカ人のライフスタイルがトランジションと共にあることを見てとっていました。

同時に、現代社会の変化やその変化の加速により、多くの人が変化に対して心構えができない状態のまま、どこに辿り着くかもわからない不安や苦痛、曖昧な浮遊状態に置かれていること、また、トランジションの意味合いも異なってきていることを捉えていました。

1970年頃、著者自身もまたトランジションの最中にあったことから探求を始め、約10年をかけて『Transitions: Making Sense of Life's Changes』は出版されることとなりました。

1980年に出版された初版は、1994年に『トランジション―人生の転機』として邦訳出版されており、今回扱う『トランジション―人生の転機を活かすために』はこの本の新装版に当たります。

また、『トランジション―人生の転機を活かすために』の出版以降、2019年には『Transitions (40th Anniversary Edition): Making Sense of Life's Changes』が出版されています。

本書の出版を待たず、ウィリアム・ブリッジス氏は2013年2月に亡くなっており、40th Anniversary Editionの出版は氏のパートナーであるスーザン・ブリッジス氏(Susan Bridges)およびWilliam Bridges Associatesに引き継がれ、実現されました。

40th Anniversary Editionには『Transitions: Making Sense of Life's Changes』改訂版にはなかった、スーザン・ブリッジス氏による考察なども加えられているため、今回の読書記録は40th Anniversary Editionの記述も引きつつまとめていければと考えています。


トランジションとは?

トランジションの概要

ウィリアム・ブリッジス氏の唱える『トランジション(Transition)』とは、人生における転機、変化に対処するために起こる心理的・内面的な変容を指します。

そして、著者はトランジションには、以下のような大きく3つの局面を経ることを本書中で紹介しています。

  • 何かが終わるとき(The Ending)

  • 混乱や苦悩のとき/ニュートラルゾーン(The Neutral Zone)

  • 新たな何かが始まるとき(The New Beginning)

この点に関して、変化とトランジションの違いも踏まえつつ、著者は以下のようにも述べています。

変化とトランジションの最も重要な違いの1つは、変化はゴールに到達するために引き起こされるもので、トランジションは現在の人生のステージにもはや当てはまらなくなったもの、あるいはそれとぴったりであるものを手放すことから始まるものであるということだ。自分で自分自身のために、「もはやふさわしいとは言えなくなった」ことが何であるのかをしっかりと捉える必要がある。

『トランジション―人生の転機を活かすために』p187

では、なぜトランジション(Transition)が問題となるのでしょうか?

先述したようにウィリアム・ブリッジス氏はアメリカ史、アメリカ文学の研究を行なっており、アメリカ人中心ではありますが、現代社会の人々のライフスタイルや文化の研究を行なっていた人物です。

ブリッジス氏は、トランジションにまつわる人々の課題を、現代社会における文化・風習という観点から以下のように述べています。

現代社会は、社会的変化のレベルを高く維持しようとする人が重んじられる歴史上はじめての社会なのである。その他のほとんどの時代や場所では、社会の継続性を守る人々を重んじ彼らに名誉を与えてきた。しかし我々の社会は「革新」という名のもとに変化そのものに価値を置いている。(中略)こうしてわれわれは変化に依存した経済と、創造性や変革に過大な価値を置く文化を築き上げてきた。人々のキャリアも頻繁に生じる変化によって区切られるしかなく、そのたびに古いやり方や古いアイデンティティを新しいものにしていく「トランジション」が要求される。

『トランジション―人生の転機を活かすために』p119

しかし別の社会では、トランジションのプロセスを規則正しく、繰り返しドラマチックに表現してきた。それは物事のありようが一種の「死」によってどのように終わりを迎え、また一緒の「誕生」によってどのように新たに立ち現れるかを提示する。こういった表現によって、人々はトランジションに慣れ親しみ、それにどう対処したらよいかを学んできた。このような儀式や行事を維持したいと思う人もあるかもしれないが、われわれの社会はそうしない。人々はこれまで集団で習慣的になされてきたことを、これから個々人で意識して行わねばならないようになるだろう。

『トランジション―人生の転機を活かすために』p6

また、このトランジションのプロセスやその質感について、ブリッジス氏は自然界における季節の移り変わりや変容について紹介しながら以下のように言及しています。

自然界を見ればわかるように、成長においては、加速する時期や変容する時期が周期的に訪れるものである。進行が遅く何も起こっていないように見える時期のあとで、突然、卵の殻にひびが入り、小枝に花が咲きおたまじゃくしのしっぽがとれ、葉が落ち、鳥の羽が生え変わり、冬眠が始まる。

人間においてもそれは同じである。羽や木の葉ほど明らかな兆候はないが、トランジションの機能は同じである。その「時」は自然な発達と自己再生のプロセスにおけるキーポイントなのである。こうした自然なトランジションへの理解がなければ、自分には変化が起こらず、これまでと変わらない人生を送るのだと思うよりほかなくなってしまう。

『トランジション―人生の転機を活かすために』p18

このような理解は、原著版であるTransitions (40th Anniversary Edition)の表紙も蛹から羽化し、飛び立つ蝶であることからも窺えます。

Transitions (40th Anniversary Edition): Making Sense of Life's Changes

トランジションの比喩として、蝶の変態はとても興味深い現象です。

蝶の幼虫がサナギになるとき、「成虫原基」と呼ばれる、いずれ成虫としての体組織を構成する細胞や、特定の筋肉、神経組織以外は自らの出す酵素によってドロドロに溶けてしまうと言います。

しかし、この自らの体がドロドロに溶けた廃物液は豊富なタンパク質を含み、成虫としての変態を助けてくれるというのです。

イモムシがサナギになり、蝶へ変態するプロセスもまた、以前までの自分が一度崩壊し、新たな自分として生まれるという変遷を辿るため、トランジションの比喩としてはとても示唆に富んだ一例かもしれません。

これまで散文的に紹介してきたように、トランジションにはそれまでの自分の「死」と「再生」のプロセスが含まれています。

人によって体験する人生の変化の大小、その際に内面に起こる変容の大小はあるものの、このこともトランジションを理解する上で重要なポイントのように思います。

人生のある局面から次の局面へ移行するとき、人は「死と再生」を経験するのである。

『トランジション―人生の転機を活かすために』p44

トランジションと通過儀礼

上述のように、トランジションにおける私たちの困難は、私たちを取り巻く環境、文化、社会情勢と切っても切れない関係にあります。

ブリッジス氏は、トランジションについて人文学的・社会学的な観点からもアプローチしており、現代のような変化や流動性の大きい社会と対比するように、神話や部族社会、通過儀礼ついても本書中で何度も言及しています。

われわれよりもトランジションに注目し、トランジションを迎える上でより効果的な備えをしてきた社会がある。そういった社会では典型的な儀式(われわれが「通過儀礼」と呼んでいるもの)があり、個人が人生のある章を終えて新しい章に入るときに役立てている。また、その社会では、人生はトランジションによって区切られていると言う考え方があり、人々はしかるべき時期にトランジションが来ることを予期し備えることができる。そういった概念を持たないわれわれは、人生の四季がわからない人みたいなものだろう。

『トランジション―人生の転機を活かすために』p5-6

そして、この通過儀礼を考える上で特に大きな影響を受けたと考えられる人物が、文化人類学者であるアルノルド・ヴァン・ジェネップ(Arnold van Gennep:アルノルト・ファン・ヘネップ等ともです。

アルノルド・ヴァン・ジェネップ『通過儀礼』

これらの儀式を現代西洋人に最初に紹介したのは、オランダの文化人類学者アーノルド・ヴァン・ジュネップであった。約百年前のことである。「通過儀礼(rites of passage)」と言う用語を作ったのは彼であり、伝統的社会はそのような儀式によって人生のトランジションを構造化している、と指摘したのも彼である。

彼はさまざまな儀式をいくつかのグループにまとめた。すなわち、誕生と死に関する儀式、思春期と結婚に関する儀式、族長の決定とシャーマンの誕生に関する儀式、男性ないし女性の「秘密の会」への入会に関する儀式、季節の変わり目を迎えることに関係する儀式などである。そして彼は、これらの儀式は「分離(separation)」「トランジション(transition)」「復帰(incorporation)」という、三つの局面で構成されていると考えた。

『トランジション―人生の転機を活かすために』p153-154

通過儀礼は何かをするための技法ではなくて、何かの経験を拡大してみせるためのレンズなのだ。それは、死、カオス、再生という自然なパターンに焦点づけ、それらを見やすくする方法である。

『トランジション―人生の転機を活かすために』p155-156

ブリッジス氏は上記のように前置きしつつ、私たち現代人は通過儀礼の文化と共に、人生の転機における内的な変容のための智慧や対処法を失ってしまったということ、だからこそ、通過儀礼や儀式について学び、現代的な形でトランジションを迎える術を身につけていくことの重要性を訴えています。

トランジション×マネジメント

ウィリアム・ブリッジス氏は『Transitions: Making Sense of Life's Changes』の出版以降、その対象を企業組織における組織変革、トランジションに応用を始めます。

この、ビジネス領域における組織のトランジションに焦点を当て、その際にリーダーや管理職、マネージャーはどのように組織のトランジションに向き合うべきか?などをまとめたのが、『Managing Transitions: Making the Most of Change』です。

1995年に初版が出版されて以来、改訂を重ね続け、2017年には第4版が出版されました。

また、同年11月に『Managing Transitions: Making the Most of Change』第4版の邦訳書籍が『トランジション マネジメント ─組織の転機を活かすために』として出版されています。

トランジション マネジメント』『トランジション

『トランジション マネジメント(Managing Transitions)』の中では、組織にはライフサイクルが存在し、7つのステージのどの段階にあるかによって組織のトランジションの課題が変わることや、トランジションのインパクトをいかに皆で分かち合っていくか等について紹介されています。

トランジションの国内での広がり

1980年に出版された『Transitions: Making Sense of Life's Changes』初版は、1994年に『トランジション―人生の転機』として邦訳出版され、ここからブリッジス氏のトランジション(Transition)に関する知見が本格的に国内で紹介されるようになりました。

現在は就職、転職、離職、異動、昇進などの人事・キャリア領域や、結婚や出産、転居、死別などのライフイベントに関わる支援、組織変革などの場面で取り上げられることの多いトランジションですが、2000年代後半以降、日本語による情報発信も増えてきています。

また、ウィリアム・ブリッジス氏の提唱するトランジションとは異なる文脈、経緯から生まれた「トランジション」を冠する取り組みも2010年代以降、急速に増えてきました。

いずれも、現在の社会やシステムからのトランジション(移行、転換)を企図するものです。

本章ではそれらについて代表的なものをいくつか取り上げ、整理しながらまとめていこうと思います。

ジェレミー・ハンター氏による紹介

ジェレミー・ハンター氏(Jeremy Hunter)は、クレアモント大学院大学ピーター・F・ドラッカー・スクール准教授、同大学院のエグゼクティブ・マインド・リーダーシップ・インスティテュートの創始者として知られる人物であり、マインドフルネス研究やセルフマネジメントの第一人者でもあります。

ハンター氏は2010年代後半以降、ブリッジス氏のモデルに共通する以下の3つのプロセス…

  • Ending Zone

  • Middle Zone(Zone of Letting Go and Exploring)

  • New Beginning

上記のプロセスからなる、トランジションのモデルを国内へ紹介されています。

また、国内のソーシャル・イノベーションの第一人者であるINNO-Lab Internationalのお二人(井上英之さん井上有紀さん)が、NPO法人ETIC.とハンター氏のご縁を取り持ったことをきっかけに、ハンター氏によるセルフマネジメントおよびトランジションに関するプログラムが継続的に国内で開催されるようになりました。

昨年2023年に開催されたNPO法人ETIC.主催のプログラム「Transition(トランジション)~人生を意図的にシフトさせ、新たなステージを迎える半年間~については、当該リンクからご覧ください。

また、ハンター氏は2018年に稲墻聡一郎氏藤田勝利氏と共にTransform LLCを立ち上げており、このTransform主催で2024年3月から始まるプログラムのイベントページが現在オープンしています。

トランジションの関連書籍

ウィリアム・ブリッジス氏の提唱したトランジションに言及している主な書籍は、今回の読書記録執筆に際して調べてみた限り、以下に紹介する3冊です。

松本紹圭、三浦祥敬『トランジション: 何があっても生きていける方法』(2019年5月出版)

看護管理 2021年4月号 特集 トランジション――新たな役割への移行期を活かすために

佐宗邦威『じぶん時間を生きる TRANSITION』(2023年7月出版)

トランジションを冠する別の取り組み

「トランジション(Transition)」は、ウィリアム・ブリッジス氏のみが活用する用語ではありません。

しかし、2000年代以降、さまざまな領域で「トランジション(Transition)」を冠した活動、ムーブメント、取り組みが勃興してきたため、特にトランジションを「移行」というニュアンスで使用している活動について以下、まとめていこうと思います。

トランジション・タウン

まず、1つは、2005年にイングランドのトットネス(Totnes)という小さな町から始まったトランジション・タウン(Transition Town)またはトランジション・ムーブメント(Transition Movement)です。

トランジション・タウンとは、パーマカルチャー・デザイナーであったロブ・ホプキンス氏(Rob Hopkins)によって創始された活動であり、

エネルギーを多量に消費する脆弱な社会から、適正な量のエネルギーを使いながら、地域の人々が協力しあう柔軟にして強靱な社会、持続可能な社会への移行

Transition Japan  トランジション・タウンの概要

上記のような、持続可能な社会への移行を目的として始まり、世界にそのムーブメントが広がりました。

日本では2008年に、神奈川県の旧藤野町(現相模原市緑区)のトランジション藤野がスタートし、2020年時点で60のトランジション・イニシアチブが存在しています。

また、関連書籍としては、2013年5月に『トランジション・ハンドブック』が出版されています。

トランジション・ファイナンス

続いて紹介するトランジション・ファイナンス(Transition Finance)は、脱炭素社会実現のための新しい金融手法です。

2020年10月、菅元総理は所信表明演説の中で2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。(「2050年カーボンニュートラル」)

「トランジション・ファイナンス」は、着実な低炭素化を実現する「移行(トランジション)」を進めるための金融手法(ファイナンス)、すなわち、将来的な脱炭素化を目指すために、長期的な戦略に基づいて着実にGHG削減に取り組む企業に対し、途中で息切れしないよう資金を供給して後押しする、新しい金融手法のことを言います。

まだまだ新しい枠組みであり概念であるため、詳しくは経済産業省環境省金融庁資源エネルギー庁などが公開している資料もご覧ください。

トランジションのプロセス

以下、トランジションの3つのプロセスである、

  • 何かが終わるとき(The Ending)

  • 混乱や苦悩のとき/ニュートラルゾーン(The Neutral Zone)

  • 新たな何かが始まるとき(The New Beginning)

この各プロセスについて、『Transitions (40th Anniversary Edition)』の裏表紙から引きながら、簡潔に紹介したいと思います。

詳細については、ぜひ『トランジション―人生の転機を活かすために』を手に取って見てください。

何かが終わるとき

何かが終わるとき: すべてのトランジションは、何かの終わりから始まる。私たちはしばしば、何かを終えることを最終的な状態・出来事だと混同してしまう。終わりについて新鮮な視点で考えることは、私たちがどのように新しく何かを始めることができるかの鍵である。

The Ending: Every transition begins with one. Too often we confuse them with finality. A fresh way to think about endings is key to how we can begin anew.

Transitions (40th Anniversary Edition): Making Sense of Life's Changes

ニュートラルゾーン

混乱や苦悩のとき/ニュートラルゾーン: 何かが終わり、新たな始まりを迎えるまでの、方向転換の時。それを最大限に活用するには?

The Neutral Zone: A time of reorientation. How can we make the most of it?

Transitions (40th Anniversary Edition): Making Sense of Life's Changes

新たな何かが始まるとき

新たな何かが始まるとき: 新たなスタートを成功させるには、未来への道を指し示す外的なサインと、内的なシグナルを理解する必要がある。

The New Beginning: A successful new beginning requires an understanding of the external signs and inner signals that point the way to the future.

Transitions (40th Anniversary Edition): Making Sense of Life's Changes

終わりに

私が本書『トランジション―人生の転機を活かすために』に初めて出会ったのは2018年の頃でしたが、6年越しにようやく読書記録としてまとめることができました。

この6年余り、ウィリアム・ブリッジスが提唱したこの『トランジション(Transition)』について意識しない時間はほとんどありませんでした。

にもかかわらず、トランジションというテーマに向き合い、自分の中に落とし込むには、6年近くの歳月がかかってしまいました。

というのも、何より私自身がこの6年近くを人生のトランジション……それも、私のこれまでの人生の中で最も辛く悲しい体験と、最も幸せな体験、それに伴うトランジションを体験してきたためだと感じています。

私のトランジション体験

現在の私は、地元である三重県伊賀市を拠点に家業である米農家を事業承継して米作りを営みつつ、組織変革プロジェクトの伴走支援、海外の実践事例の研究、執筆といった活動に取り組みながら、二拠点生活をしています。

6年前の時点では、京都を拠点とするNPO法人場とつながりラボhome's viに所属しながら、企業・団体を対象に組織変革のためのファシリテーションやワークショップの実施を生業とし、ティール組織(Reinventing Organizations)と呼ばれる新たな組織コンセプトについての探求を進めていました。

しかし、父が大病を患い、余命幾許もないと知った時から、私の人生は大きく転換していくこととなりました。

結婚、父の死、休職、家業の事業承継、独立といったことが、この6年ほどに私の身の回りに起こった変化(change)であり、独立以降、これまでのキャリアと異なる職種・領域で仕事・家族関係を軌道に乗せつつ、今に至ります。

社会に目を向ければ、全世界がコロナ禍に見舞われた、ということも大きな変化の1つでした。

この度重なる人生の大きな変化に伴い、私の内面にはトランジションが起こっていました。

変化が起こるそれ以前の自分の世界が終わり、まったく新しい状況に対して自身が向き合おうとするのですが、何より内面には大きな絶望や悲嘆、苦痛、虚無感がありました。そして、喪失感がありました。

父の死別に端を発する悲しみとは別の、それ以前に積み上げてきた私というアイデンティティの喪失がもたらされていました。

しかし、長男として生まれた自分は遺された実家の家族や、新しい家族を守るため、落ち込んでいる暇はありません。やるべきことは山積みでした。

この6年間で取り組んだことや、それに伴う内面の動きについては、以下の記事やマガジンにもまとめています。

今に至るまで、多くの方にご心配とご迷惑をおかけし、仲間たちにもさまざまな場面で助けられながら、今日まで過ごしてくることができました。

そして、今ある環境の中で、時間を共にできる家族や仲間がいることのありがたさ、彼ら彼女らと過ごす時間を大切にすることの尊さを感じています。

私の人生において最も大きなトランジションも、新たな始まりの局面を迎えつつあるように感じます。

新たな始まり

この数年間のトランジションの中で、ウィリアム・ブリッジス氏の書籍はいつも私の傍にありました。

なぜ、彼の言葉はここまで私に響いてくるのか、ずっと疑問に感じていました。

個人の人生だけではなく、人間関係の中で共鳴するトランジションに関する洞察や、組織変革プロセスへの応用など、示唆に富んだ豊富な知見はもちろん素晴らしいのですが、ウィリアム・ブリッジス氏のメッセージはそれだけではない。

今回、読書記録をまとめることで、ようやくその答えが見つかったような気がしました。

ブリッジス氏は、『トランジション―人生の転機を活かすために』の中で何度も、通過儀礼や自然のプロセスと共にある社会・文化について言及しています。

そして、これは部族社会に限ったことではなく、トランジションを迎えていた私のそばに、いつもあったものでした。

田植えが終わったばかりの我が家の田んぼ

家業の米作り、農業は自然の営みと共に歩むものです。

季節の移り変わりを感じ、自然の猛威に直面し、動植物たちの生の営みを眺め、秋には収穫を迎え、家族でその喜びを分かち合う。

このような、自然なプロセスで移りゆく日々の営みの中で、私のトランジションは進んでいきました。

収穫を間近に控えた我が家の田んぼ

また、通過儀礼とトランジションの関係についても、この6年間の中で深く考える機会は何度もありました。

結婚式や葬儀といったライフステージの変化に伴う儀式の体験の他、農業を営む小さな村落ならではの神社やお寺での地域の行事にも出席したことで、なぜ人は季節の移り変わりや自然な変化のプロセスを通過儀礼と共に過ごしてきたのか?その意味や意義を体感できたように思います。

今、私は新たな始まりを迎えつつあるように思います。

それは、

私がこれまで学び培ってきた『人や組織のポテンシャルを発揮していくためのアイデア』を、自然なプロセスと調和させ、世代を超えて継承することを願いながら届けていきたい

そのような想いが生まれてきていることから感じられます。

現在の私は、トランジション以前に取り組んでいた『ティール組織(Reinventing Organizations)』をはじめとする、新たな働き方・組織のあり方に加え、一人ひとりの中にある創造性を発揮し、コラボレーションしていくための知見である『ソース原理(Source Principle)』の探求・実践を仲間たちと共に始めています。

これらのアイデアに加え、今回ようやく、実に6年越しに、人生の転機をどのように迎え、活かしていくか?という『トランジション(Transition)』についても、体験と学びの統合を進めることができました。

今後もまた、このような形での情報発信や、都度開催している読書会、ワークショップの実践などを通じて『人や組織のポテンシャルを発揮していくためのアイデア』お届けしていければと思います。(読書会については、Xの投稿もぜひご覧ください)

このまとめを最後まで読んでいただいた皆さんに、何か気づきや発見などがあれば幸いです。

さらなる探求のための参考リンク

William Bridges Associates

ふたつの世界の合間にあるグレーゾーンに立ち続ける勇気をもとう。INNO LAB International・井上有紀さん

Transition〜先が見えない中で自分の道を見つける〜


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大森 雄貴 / Yuki Omori
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