今回の読書記録は、カナダ生まれのジャーナリストであり、環境問題・気候変動の活動家でもあるナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン―惨事便乗型資本主義の正体を暴く』です。
ショック・ドクトリンとは何か?
上下巻で本文だけでも700ページ近くある本書ですので、まずは簡単にどのような本なのか、本書のカバー裏から引用したいと思います。(強調は筆者による)
また、訳者あとがきでは『ショック・ドクトリン』あるいは『惨事便乗型資本主義(Disaster Capitalism)』について、以下のように簡潔にまとめてくれています。
前回の読書記録では、本書をより読み進めやすくするための前提を共有する前提編としてまとめました。
今回の記事は、それらを踏まえて世界各国でどのようにショック・ドクトリンが行われてきたのか、著者であるナオミ・クラインは膨大な資料と取材をもとにまとめられた事例を紹介するものです。
国の社会体制および経済体制がどのような意図、思想の元に設計され、運用されてきたのでしょうか?
その結果、どのような結果がもたらされたのでしょうか?
それでは、以下、見ていきましょう。
ハリケーン・カトリーナとルイジアナ州ニューオーリンズの例
2005年8月末にアメリカ合衆国南東部を襲ったハリケーン・カトリーナ。ルイジアナ州ニューオーリンズの街が水没した際の様々な動向。
チリの独裁者アウグスト・ピノチェトによる軍事クーデター以後の例
ソ連崩壊前夜、労働者による民主的政権交代後のポーランドの例
天安門事件を契機に民主化を弾圧し、自由市場改革を断行した中国の例
アパルトヘイト体制脱却後も経済的な苦境に追いやられた南アフリカの例
ソヴィエト崩壊以降、欧米及び国際機関の思惑が入り乱れたロシアの例
スマトラ沖地震に見舞われた漁村を観光地化しようとしたスリランカの例
ショック・ドクトリンの事例から何を学ぶか?
以上、本書中のショック・ドクトリンの事例のまとめをご覧いただきました。
本書中には、上記以外にもイギリス、ボリビア、モルディブ、ニカラグア等の国々で起こった事例も掲載されていますが、本書中でもより特徴的かつ詳細な事例を抜粋する形でまとめることとしました。
さて、以上の事例から、私たちは何を学ぶことができるでしょうか?
この記事をまとめている本日2021年8月時点で、国内に限らず世界中で様々な出来事が起こっています。
新型コロナウイルスの蔓延は依然として続いています。
また、発達した前線が長期にわたって日本列島を覆い、災害級の大雨をもたらしています。
世界に目を向けてみると、8月14日にはハイチ西部を震源とするマグニチュード7.2の大地震が発生。これまでに死者は2000人を超え、負傷者は1万2000人以上、行方不明者は300人以上となっています。
さらに、アフガニスタンでは武装勢力タリバンが8月15日に首都カブールを掌握した後、多くの人たちがアフガニスタンからの脱出を求めてカブール空港に押し寄せ、空港は混乱状態に陥りました。
未曾有の災害や政変は、その危機を脱出するために、そして危機を逃れた後の復興を実現するために多くの資源が必要となります。
COVID-19に関しては、ワクチンの開発と接種、また、感染者や重傷者に対する病床の確保と医療体制の構築が急務となっています。
震災からの復興には、国内外から拠出する支援金および復興計画や実施事業者が必要となります。
政変の後は、政権によって執られる政治体制および方針と、それらの当事者となる人々との対話ないし議論、または試行錯誤が必要となります。政変のあった国と近隣諸国、また、政治的・経済的な利害関係者との調整も必要となるでしょう。
また、何よりそれら大きな変化による精神的なショックを感じている方もいらっしゃるでしょう。
そのような状況下において、本書『ショック・ドクトリン』の事例では、大きな政治的決定が人々の預かり知らぬ間に行われていたり、惨事に便乗する形で利益を得ようとする人々がいることを描いてきました。
今まさに、私たちの身の回りではどのようなことが起こっているでしょうか?
私自身、自分の身の回りと同時に、広く社会や国際関係についての視点もバランスよく持ち続け、醒めた目と冷静な判断を今後も心がけていければと感じます。