レポート:世界15カ国の実践者から学ぶ先進的な組織づくり:Corporate Rebelsグローバルミートアップ参加報告会
本記事は株式会社令三社が主催した『世界15カ国の実践者から学ぶ先進的な組織づくり:Corporate Rebels グローバルミートアップ参加報告会』をレポートしたものです。
本企画は、オランダの企業Corporate Rebelsが主催する世界の先進的な組織運営を学ぶプラットフォームの世界各国のコミュニティの集いについての報告会であり、当日はその日本コミュニティRebel Cell Japanに参画している山田裕嗣さん(株式会社令三社)、長谷川博章さん(RELATIONS株式会社)、ヴァッサー・ジャンバティストさん(株式会社yamaneco)の3名が登壇されました。
なお、当日の様子は録画されており、以下の動画からご覧いただけます。
私自身はこれまで、山田さんが翻訳された書籍『コーポレート・レベルズ』の読書会やRELATIONS主催のイベント等への参加を通じて触れてきたCorporate Rebelsの取り組みですが、今回の報告会はその最先端の実践に触れる機会となりました。
以下、本イベントで語られた内容やこれまでに発信された文献などをもとに、気づきや学びをまとめました。
本企画に関する前提共有
Corporate Rebelsとは?
Corporate Rebelsは『Make Work More Fun(仕事をもっと楽しく)』をタグラインとし、ピム・デ・モーア氏(Pim de Morree)とヨースト・ミナー氏(Joost Minnaar)によって設立されたオランダ・アイントホーフェンの企業です。
Corporate Rebelsは自立分散型組織やSelf-Management Organizationなど、あらゆる先進的な取り組みを行なっている企業へ訪問・取材し、記事を作成・発信するメディア運営を行なっている他、これまでに2冊の書籍が出版されています。
これらの活動に加え、近年ではハーバード・ビジネス・スクールとの連携・協働、ビュートゾルフ(Buutzorg)やホラクラシー(Holacracy)をはじめとする経営モデルをコンテンツ化したCorporate Rebels Academy(学習コンテンツプラットフォーム)の運営が行なわれています。
今回の報告会の元となったCorporate Rebels Global Meetupは、オンラインプラットフォームCorporate Rebels Academyの各国ごとのローカルコミュニティRebel Cellの参加企業・参加者たちの集いであり、その設立の背景には実践者が増えてほしい・各国内や各国を超えて実践者同士がつながってほしいという願いがありました。
また、Corporate Rebelsのユニークな取り組みとして、スペイン・ビルバオに拠点を置くネル・グループ(NER Group)と共同でプライベート・エクイティ・ファンドKRISOS(クリソース)を設立・運営していることが挙げられます。
スペイン語で、サナギから蝶へ変容するプロセスを示すという語から名付けられたKRISOSは、ある企業を買収した後、企業再生の中で従来的な階層型組織から自立分散型の組織へ変容、従業員に売却するというスキームを構築しています。
このようにコーポレート・レベルズは、アカデミックな研究だけではなく企業再生の実践という両輪の実現に取り組んでいます。
Rebel Cell Japan立ち上げまで
Rebel Cell Japan Coordinatorであり、『コーポレート・レベルズ』の翻訳者・山田裕嗣さんはr3s magazineという国内外の企業の組織づくり事例を取材し、紹介するメディアを運営されています。
r3s magazineそのものもCorporate Rebelsに着想を得て始めたという山田さんは、Corporate Rebelsの創設者2人(ピム、ヨースト)と書籍の翻訳以前から協働関係を築いてきました。
r3s magazine内でCorporate Rebelsの記事を日本語訳して紹介する、日本企業の事例をCorporate Rebelsへ寄稿する、さらに、ピムとヨーストの来日時には国内企業への取材のアレンジを行うなど、海外の企業事例を国内へ、国内の事例を海外へ発信するため、現在も積極的に活動されています。
また、『コーポレート・レベルズ』翻訳出版時には出版記念ウェビナーを開催され、ウェビナーの模様はログミーBizの記事となっている他、令三社YouTubeでも公開されています。
そして、2023年後半から2024年初頭にかけて、各国の実践者たちがリアルに繋がるローカルネットワークRebel Cellが立ち上がるという時に日本でもRebel Cell Japanが立ち上がり、Rebel Cellは現在、世界20カ国、企業150社、1300人以上が参画するネットワークとして今も広がり続けています。
約一年間、第1期としての活動を推進してきたRebel Cell Japanは、これまで定期的なミートアップ、企業訪問、Academyのコンテンツの学習などを行ってきた中で、今回のCorporate Rebels Global Meetupへの参加につながります。
Corporate Rebels Global Meetup
Global Meetupの全体像
2024年11月21日〜22日の2日間にわたって開催されたCorporate Rebels Global Meetupには、世界15カ国から100人の実践者が集い、互いの経営・組織づくりについて意見交換や対話が行われました。
キーノートスピーチには、ポッドキャストLeadermorphosis主宰者でありReimaginaireファウンダー、Tuff Leadership Trainingトレーナーのリサ・ギル氏(Lisa Gill)の登壇や、スペイン・セビリアの航空宇宙および医療分野向けのパーツ製造業Indaeroの変革プロセスの紹介、また、ポルトガルのIT企業MINDERAや「ティール組織(Reinventing Organizations)」にも取り上げられたモーニングスターの事例紹介も行われたとのことです。
また、 報告会当日はGlobal Meetup本編以外で実施されていたスペイン・バルセロナの企業訪問の事例共有やワークショップ体験についても共有いただきました。
企業訪問の事例として挙げられたのは、良質なワイン作りのためのバイオダイナミクス農法の導入から組織づくりの探求へ進んだワイナリー・Recaredoや400名で自立・分散的な経営を行うIT企業Basetis、85000名が組合員として参加する再生可能エネルギー協同組合Som Energiaの3つです。
加えてワークショップ体験については、野中郁次郎先生に学んだ中央大学ビジネススクール露木恵美子先生による場(Ba)のワークショップ体験、リサ・ギル氏によるワークショップ等についてご紹介いただきました。
以上の内容の詳細については、当日の動画もご覧ください。
ここからは、長谷川博章さん、ヴァッサー・ジャンバティストさん(JB)、山田裕嗣さんの3名からのそれぞれの報告から印象的だった事柄について簡単にご紹介できればと思います。
KRISOSによるIndaeroの組織変革
長谷川博章さん(RELATIONS株式会社)からは「KRISOS/Indaeroに学ぶ投資とセットの組織変革」と題して、Corporate RebelsとNER Group(ネル・グループ)が共同で設立・運営しているプライベート・エクイティ・ファンドKRISOS(クリソース)とその変革プロセスについてご紹介いただきました。
NER Group(ネル・グループ)は、スペイン・ビルバオを拠点に発展している企業ネットワーク群の総称であり、2005年にコルド・サラッチャガ氏(Koldo Saratxaga)によって設立されたK2K emocionandoが中心となって拡大を続けてきました。
NERとはNuevo Estilo de Relaciones(New Style of Relationships:新しい関係性のスタイル)に由来し、K2K emocionandoがNERの哲学を目的として掲げた進化型組織へのコンサルティングを行っています。
報告会当日は、KRISOSによる組織の買収→旧来の階層型組織から自立・分散型組織への変革というプロセスは、オーナー100%の覚悟と従業員の80%の賛成投票という意思決定によって実施されることや、その後のIndaeroにおける変革についてのMeetupでの事例共有などを長谷川さんから伺いました。
昨年11月のMeetupの現場にはIndero変革に携わったコーディネーター、前オーナー、従業員も参加されており、パネルディスカッションの場では前オーナーの葛藤や従業員の方々の自らの意思決定で変革を進めてきた誇らしい姿なども印象に残っていると、山田さんやJBさんもお話しされていました。
なお、報告会当日にちらっと長谷川さんが触れられていたスチュワード・オーナーシップ(Steward-Ownership)についてはこちらの事例記事やイベントレポート、NER Group(ネル・グループ)についてはこちらの記事や以下の動画もご覧ください。
世界各国の実践者に共通する要素
ヴァッサー・ジャンバティストさん(株式会社yamaneco)ことJBさんからは「Rebel Cell活動を通して学んだ先進的な組織づくり」と題して、世界各国の実践者に共通する自律分散的な組織づくりの難しさと、一つひとつの興味深い仕組み・制度づくりなどの実践の背後にあるビジョンや価値観の大切さについてお話しいただきました。
まず、どの国においても共通する難しさについては、リサ・ギル氏(Lisa Gill)の記事「Hazards on the path to organisational self-management」を引きつつ、そこに紹介されている5つの罠についてご紹介いただきました。
記事の中で紹介されている5つの罠とは、以下のようなものであり、JBさんは自身のこれまでの経験や試行錯誤を振り返りつつ、「あぁ!全部当てはまってた」とお話しされていました。
また、上記のような罠が日本特有のものではなく、どの国や文化圏であっても陥りがちなものであり、スペインに集った100人の実践者たちは「手探りながらやってきた」仲間のような意識も、長谷川さんや山田さんも感じられていたとのことです。
そして、難しさと同様に実践の上で大切なこともまた、共通しているとJBさんは続けられました。
それは、ユニークに見える各国、各社の取り組みの奥にあるビジョンや価値観です。
私たちはつい、表面的に見える仕組みや制度、あるいはキーワードに惹かれてしまう部分があるものの、それを表面的に真似てもうまくいくことはありません。
それは、組織一つひとつに特有の文脈があり、生み出されてきた実践の一つひとつに体現しようとしてきたビジョンが価値観があるためです。
それはさながら氷山モデルのようで、JBさんも氷山のイラストを使用しながらお話しされていました。
日本から世界へ発信する
最後、山田裕嗣さん(株式会社令三社)からはお二人の話を受けつつ、2月より始まる第2期Rebel Cell Japanへの想いについてお話しいただきました。
まず、海外の実践者との交流を通じて、山田さんは以下のような実感を得られたとのことです。
最後のリスペクトについては、ビジネス文脈において「日本」である必然性は乏しく、かつての高度成長期やトヨタ生産方式などが注目された状況と現在は異なっているというお話でした。
現在、日本において先進的とされる事例も英語圏や海外への発信そのものが充実しているとは言えず、だからこそ山田さんは国内の組織事例をまとめたr3s magazineでの発信や、それらの事例を基に「Signs of the Shift」を英語で出版されてきたという背景もあります。
また、従来の権力階層に基づく組織づくりからの変革や、自律分散的、Self-Managementな組織づくりに転換していくには、当然のことながらコミットメントや覚悟、日々の実践が不可欠です。
2月以降にスタートするRebel Cell Japanにも、自ら実践する当事者であると同時に海外の知見にリーチしたいという方、海外の実践者たちに自分たちの実践を発信し、共に高め合っていきたいという方に参加いただけたら、と山田さんはお話しされていました。
もし、ここまで読み進めていただく中でRebel Cell Japanにご関心を持たれた方には、こちらのページから問い合わせに進んでいただければと思います。