マガジンのカバー画像

短編小説集

25
短編小説をまとめています。
運営しているクリエイター

2021年5月の記事一覧

短編小説「線路の上」

 ——あなたは信じないかもしれないわね、こんな話。  私が祖母の部屋を訪れたのは、穏やか…

湯川 葉介
3年前
110

短編小説「LINK」

 2029年12月16日の早朝、ヒューマンズリンク ~ H&TW ~ というアプリ運営会社から、1通の…

湯川 葉介
3年前
221

短編小説「猫ふたつ」

 庭先に根を下ろした梅が満開に花を綻ばせ、香しい梅の花の香りが家中を満たしていた3月初旬…

湯川 葉介
3年前
43

短編小説「雲の羊の大移動」

 その日、国中で白い羊の群れが空を駆けていく現象が確認された。  天空に響き渡る「メー」…

湯川 葉介
3年前
53

短編小説「素敵なノック」

 僕は高校の三年間、不登校だった。  正確に言うならば『別室登校』と言った方が正しいかも…

湯川 葉介
3年前
47

短編小説「愛しています」

 朝になると、僕はよく彼女の部屋に遊びに行きます。そっと扉を開いて顔を覗かせれば、彼女は…

湯川 葉介
3年前
65

短編小説「雨のお友達」

 その日も、雨が降っていた。  梅雨入りして約一ヶ月。朝からどんよりとした暗い雲が上空に垂れ込め、気圧の変化に不調をきたした私の頭はその奥底にじんわりと鈍い痛みを携えている。湿った溜息を零しつつ、私はなんとなくざわついた胸を抱えたまま、お気に入りの傘をさしてアパートまでの帰り道を歩いていた。  今日の職場のオフィスもじめじめとしていて、ミスをした同僚が何やら上司に叱責を受けていた。彼が私とは違う仕事を担当しているとは言え、誰かが怒鳴られているのを聞くと胸がズキズキとして呼吸

短編小説「月下美人」

 残暑が漸く下火になる十月の初旬頃、僕は一ヶ月前に生まれたばかりの息子と妻を連れて、久方…

湯川 葉介
3年前
60

短編小説「エリーの世界」

「・・・助けて」  そんな声に僕はゆっくりと目を覚ました。気付けば小さな電灯が明かりを降…

湯川 葉介
3年前
48

短編小説「巡る観覧車」

 記憶を遡っていって最後に突き当たる行き止まりで、私はいつも祖母に出会う。  近所の小さ…

湯川 葉介
3年前
57

短編小説「入道雲のおじさん」

 耳を劈く様な蝉時雨が降り頻る中、僕は夏空に向かって大きく手を広げた。その先には、もくも…

湯川 葉介
3年前
45

短編小説「永遠の紙飛行機」

 年に一度、或る二つの国同士で不思議なイベントが行われる。  その二つの国は非常に友好的…

湯川 葉介
3年前
36

短編小説「祭囃子に候」

 からんころんと下駄が鳴る。  白地に紫の撫子模様が咲き乱れる艶やかな浴衣に身を包んだ年…

湯川 葉介
3年前
34

短編小説「ボクノカプセル」

 珍しく温かい一月の陽光にウトウトしていると、僕の左胸辺りでざっくざっくと土を掘る音が聞こえた。何事だ、と顔を上げてみる。  すると、大勢の若者達がわいわいと騒ぎながら、僕の左胸に生えたメタセコイアの木の下で何かを掘っていた。スコップが掘り進めれば掘り進める程になんだかくすぐったくなったので、 「君達、僕の胸の上で何をしているんだ?」  と訊ねると、 「タイムカプセルを探しているんです」  と彼らは答えた。はて、そんな所にタイムカプセルを埋めた卒業生らがいたかな、と