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短編小説集

25
短編小説をまとめています。
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記事一覧

短編小説「同じ気持ち」

 遠い夕焼けが水平線の彼方へ暮れなずむ。  花火の残り香は風に流され、再び潮の香りが辺り…

湯川 葉介
2年前
50

短編小説「線路の上」

 ——あなたは信じないかもしれないわね、こんな話。  私が祖母の部屋を訪れたのは、穏やか…

湯川 葉介
3年前
111

短編小説「LINK」

 2029年12月16日の早朝、ヒューマンズリンク ~ H&TW ~ というアプリ運営会社から、1通の…

湯川 葉介
3年前
222

短編小説「猫ふたつ」

 庭先に根を下ろした梅が満開に花を綻ばせ、香しい梅の花の香りが家中を満たしていた3月初旬…

湯川 葉介
3年前
43

短編小説「還るところ」

 灰色の分厚い雲に覆われた空の下で、暗い海が冷たく波を揺らしていた。北西から吹く風はどこ…

湯川 葉介
2年前
50

短編小説「君を探しに」

 いつしか僕は、大粒の涙を零しながら夜道を歩いていた。  重々しい曇天には星の瞬き一つな…

湯川 葉介
2年前
52

短編小説「左手の赤とんぼ」

 一羽の赤とんぼが、麦わら帽子の淵に留まっていた。  金色の稲の海の波間を、僕は先行く祖父の後に付いて自転車を漕いでいく。夕日が雲を赤く染める頃合いに辺りを見渡せば、空中にはたくさんの赤とんぼが舞っていて、所々幾重にも隊列を組んでいる様だ。しかしながら僕は、祖父の被った麦わら帽子に不時着して羽を休めているただ一羽の赤とんぼが、特別に愛しく思えたのだった。  夕焼け空に突き刺さる長い釣り竿。1年前、祖父が裏山の竹林から見つけてきた丈夫な竹で拵えてくれたこの世でたった一本の僕

短編小説「木漏れ日の道」

 ふと、空を仰いでみただけです。泣いてなどいません。流れゆく雲の隙間にあなたの影が見えた…

湯川 葉介
3年前
58

短編小説「憂鬱の神様」

・・・もう疲れた、もう限界だ、何もかも嫌だ  溶けた泥人形の様に重い体を横たえた僕は、六…

湯川 葉介
3年前
72

短編小説「雲の羊の大移動」

 その日、国中で白い羊の群れが空を駆けていく現象が確認された。  天空に響き渡る「メー」…

湯川 葉介
3年前
53

短編小説「素敵なノック」

 僕は高校の三年間、不登校だった。  正確に言うならば『別室登校』と言った方が正しいかも…

湯川 葉介
3年前
47

短編小説「愛しています」

 朝になると、僕はよく彼女の部屋に遊びに行きます。そっと扉を開いて顔を覗かせれば、彼女は…

湯川 葉介
3年前
65

短編小説「雨のお友達」

 その日も、雨が降っていた。  梅雨入りして約一ヶ月。朝からどんよりとした暗い雲が上空に…

湯川 葉介
3年前
98

短編小説「月下美人」

 残暑が漸く下火になる十月の初旬頃、僕は一ヶ月前に生まれたばかりの息子と妻を連れて、久方ぶりに実家に帰省した。田園風景が目前に広がる静かな人里の中にひっそりと佇んでいる古い一軒家が、高校生まで生活した懐かしき我が家だ。予め知らせておいたものだから、実家の玄関先では両親が首を長くして僕らの乗った車が到着するのを待ち侘びていた。初めて顔合わせする初孫に両親はいたく喜び、僕と妻も心からの歓迎を受けるのだった。  その日の夜、久方ぶりに父との晩酌を楽しんでいると、徐に立ち上がった母が