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【ビブリオバトル日本一がガチで30日間本紹介してみた】8日目『五浄出立』

 みなさん、こんにちは。
 藤野美紀子です。

 みなさんは三国志や西遊記などを読んだことはありますか?

 どれも古代中国で綴られた有名な長編小説であり、劉備孫悟空といった英雄たちが活躍する話ですが・・・

 今日は誰もが知っている中国古典の主人公ーー「じゃない方」を描いた小説をお届けします。




おまえを主人公にしてやろうか!

 
 今回紹介するのは、万城目学作『悟浄出立』です。

 こちらは中国の超有名古典をもとにして書かれた短編集なのですが、注目すべきはその主人公たち

 みなさんは西遊記三国志と聞けば、孫悟空や劉備、諸葛亮孔明などを思い浮かべるかと思います。


 しかし!
 
 作者・万城目学がこの本で描くのは、その英雄たちではなく、いわゆる「モブキャラ」たちの視点なのです。

 例えば、西遊記で描かれるのは孫悟空・・・の横にいる沙悟浄

 三国志で描かれるのは諸葛亮孔明・・・に仕えていた趙雲

 史記で描かれるのは項羽・・・の愛人である虞美人

 このように、万城目学はあの文学で語られなかった側のストーリーを次々と描き出していくんです。

1 「悟浄出立」 西遊記のメンバーの一人•沙悟浄を主人公とした物語。
2 「趙雲西航」 三国志の蜀の軍人•趙雲子竜を主人公とした物語。
3 「虞姫寂静」 秦を滅ぼした項羽の寵姫•虞美人を主人公とした物語。
4 「法家孤憤」 秦の始皇帝暗殺未遂事件と法家思想政治の顛末の物語。
5 「父司馬遷」 史記の著書•司馬遷の娘から見た父の物語。


どうしてこれが面白いか?


 この「じゃない方」から見る中国古典がどうして面白いのかと言いますと・・・。

 みなさんは映画のエピローグとかって見ちゃうタイプですか?

 私もよく最後まで見てしまうのですが、
 裏話を覗き見するってなんだかワクワクしちゃうんですよね。


 あの壮大な作品の裏に、どんな制作秘話があったのか。
 あの英雄が物語とは別の場所で、どんな風に生きていたのか。

 本編はすでに終わっているけれど、
 そういう部分をのぞいてみると、一層その物語の世界を楽しめる感じがしませんか?

 
 それと同じように、
 原作とは違う視点から物語を切り取ることで、
 もう一度あの世界が楽しめるんですよね。


 私も三国志の大ファンですので、
 背表紙を閉じるときにいつも「もう少しこの世界を楽しみたい」と思うけれども、
 物語としては幕を閉じてしまっている。
 
 続編はないのかと探すけれども、
 さすがにこんな大昔の中国古典に、いまさら続編が出てくるわけがない。


 そこで、万城目学が筆をとったわけです。

 しかも、
 原作を無理に引き延ばすのではなく、

 あの主人公を脇役にする、という突拍子もない発想から全く新しい世界を描き出したのです。

 この「有名な人間を全く別の視点から切り取る」というのがどれほど面白いかというのはこちらの記事でも紹介していますので、併せてお楽しみください。

 あの物語で、英雄にとっては取るに足らないシーンでも、この脇役にとっては最も重要なシーンだったのではないか?
 という視点で描いたのだと思います。


原作を知らない人こそ!



 さて、この作品は中国古典を題材にしていますから、その原作を知ってる人は大いに楽しめること間違いありません。
 

 しかし、前知識が全くなかったとしても
 存分に楽しんでいただけるストーリー仕立てとなっています。


 これまで中国古典に興味がなかった人こそ、まずこの本を手に取って、中国の悠久の文学史に足を踏み入れてほしいなと思います。

 そして、なんといってもこれは沁みる作品です。


 ビブリオでこういうエモーショナルなことは言わないんですけれども、
 自分も「誰かの脇役」じゃなくていいんだ、と思わせてくれます。


 物語の脇役を主人公に・・・
 素晴らしい発想であり、
 原作を捻じ曲げるどころか、より原作を輝かせるような描き方でした。

 『悟浄出立』、ぜひ読んでみてください。

『悟浄出立』万城目学
本の長さ:240ページ
出版社:新潮社
発売日:2016/12/23
ISBN-10:4101206619


おまえを主人公にしてやろうか! これこそ、万城目学がずっと描きたかった物語――。勇猛な悟空や向こう見ずの八戒の陰に隠れ、力なき傍観者となり果てた身を恥じる悟浄。ともに妖魔に捕えられた日、悟浄は「何も行動せず、何も発言せず」の自分を打ち破るかのように、長らく抱いてきた疑問を八戒に投げかけた……。中国古典の世界を縦横無尽に跳び、人生で最も強烈な“一瞬”を照らす五編。

新潮社Websiteより


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