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【2000字無料】 なぜ行動がブレないのか?——イーロン・マスクの伝記を読む(2)

*Kindle Unlimitedでもお読みいただけます!

以下の本を紹介します!

(書誌情報)
ウォルター・アイザックソン、井口耕二(訳)『イーロン・マスク(上)』文藝春秋、2023年

*この記事は、「イーロン・マスクの自伝を読む」シリーズの第2話です。
 第1話から読みたい方は以下からどうぞ。


なぜ行動がブレないのか?

しぶたにゆうほ(以下「しぶ」) 話を聞く限り、イーロンは相当に一貫した人間という印象を受けるけど、逆に伝記のいろんなエピソードを読んでいて、その一貫したイーロン像に反するようなというか、違和感のあるエピソードみたいなものはあった? イーロンの価値体系だと、こういう判断をするはずなのに、そうなってない、とか。

八角 ない。だから非常にわかりやすい。

八角
 株式会社「遊学」の代表。
 京都大学大学院 修士課程修了(文学)。
 哲学をやっている。

しぶたにゆうほ
 株式会社「遊学」の一員。
 京都大学大学院 修士課程修了(文学)。
 専門を尋ねられると、大学では「数学基礎論」、大学院では「宗教言語論」と答えていた。

しぶ ないか(笑)。

八角 非常に分かりやすい人だよね。変なことをしてない。もちろん自分のことも考えてるんだけれど、それはごく狭い一部なのね。パーソナルなことだけ、自分に近い範囲の自分の心の問題だけ、彼はすごく悩んでいる。でもそれ以外のことに関しては考えてないし、疑ってない。

しぶ 「自分は最初こう思ったけど、いや、もしかしてやばいのでは…?」とか考えて自分の行動理念からブレる、みたいなことがほとんど起きないわけね。

八角 ロケットにひびが入ったから、さあ今から、亀裂が入ったところを全部切るんだ、みたいなこと言う場面があるでしょう(306〜308頁)。反省が最低限だから、そういうことがはっきり言い切れる。

しぶ ここでいう「反省」っていうのは、「ごめんなさい反省してます」のの反省じゃなくて、自分で自分のことをモニタリングするというか、意識に対するメタ意識のようなもののことを指しているという理解でいいかな。

八角 そう。普通だったら、雇ってる人たちの休息とかさ、倒れちゃったりしないかとか、自分が疲れたなとか、変なことして爆発したりしたらどうしようとか、それで自分が動けなくなっちゃったりとかしたらどうしよう、っていうことを考えるわけだけれど、そういうことを考えないんだよ。考えてるかもしれないけど、それは重要じゃないってことだよ。例えば休暇中に死にかけることもあるけれど、そういうこともあまり重要じゃないんだよね。

しぶ 南アフリカに帰ったときだよね。帰省してマラリアをもらって帰ってきて、「南アフリカはいまだ私を破滅させようとしている」みたいなことを言う(135頁)。

八角 自分の心の問題の物語として、自分にとって南アフリカってのは非常に悪いところで、私は行くたびに非常に不幸なことになるから、あそこには行かない。つまり日本的な言い方だと「あそこは私の鬼門だから」とかそういう感じで処理してるよね。逆パワースポットみたいな。そういうオカルト。

しぶ ゲームのマップみたいだね。

八角 そうそう、あそこに行くと、あそこ辺は暑いのでずっとHPが減っていきますとか、ここら辺は毒の沼地なので、何か病気になりますとか、そういう感じで処理している感があるよね。マッピングみたいなラベルを付けてやってるって感じ、何に対してもね。

しぶ とにかく、病気で死にかけるようなことですら判断に影響を与えないくらい、一貫性が保たれている。だから反省が入れば判断が揺れるだろうような繊細な事柄に対しても、いつも通り自分の価値観そのままで切り込める。

八角 自分のSF的な感性にしてもそうだよ。車のデザインについて、例えば前のデザインを参照したり、顧客の声を参照したりしないで、「当然こっちの方が格好いいに決まってるだろ」っていう風に言い切っちゃう。反省的ではないってそういうことだよね。普通だったらそういうところに時間がかかるわけじゃん。

【デザイン①】ぼくのかんがえたさいきょうのくるま

しぶ デザインの話が出たから少し別の角度から議論したいことがあるんだけど。デザインって見た目とかに関係するよね。だからデザインって、数値とか効率とかのような定量的なものとはちがうものだと思うんだよ。

八角 うん、ちがうね。

しぶ イーロンは定量的なものを見て合理的に判断するよね。でも、そういう合理的な人の中には、見た目のデザインだの形だのに全くこだわらないっていうタイプの人も一定数いるでしょう。「車の機能が大事なのであって、デザインはどうでもいいよ」みたいな。

八角 とある本に「娘にMacをねだられた。僕は当然DELの方が安いし、機能もいいし、Macなんかよりはるかに良いって言ったのに、娘はMacがいいって泣いたので、今彼女の手にはMacがあります」っていう話が載ってたけど、そういう話だね。

しぶ そう、あるタイプのオタクとかギークみたいな人っていうのは、そういう類型として描かれがちでしょう。

八角 そうだね。なるほど、その話をする必要があるんだね。美意識の問題。

しぶ そういう「機能だけあればいいじゃん」みたいなのも、典型的なタイプとしていると思うんだけど。イーロンは明確にそれとは違う判断を行う。その違いは何なんだろう。

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