【紹介記事】地域格差による大学進学課題/運動部活動の地域移行/なぜ東大は男だらけなのか
日々報じられる様々な媒体の教育関連情報から、今後教育業界への影響が高いと思われる内容について、それぞれの私見を述べます。
教育・学校・入試について関心がある方々にとって、考えるヒントとなりましたら幸いです。
🔽「地域格差」による大学進学課題 関連記事
▼東大合格、増える東京圏出身者 北大・東北大では地元合格を押し下げ…進む「地域格差」が社会にもたらす不利益とは <前編>(JBpress・4/3)
▼親非大卒枠、地方出身枠、女子枠…大学入試のアファーマティブ・アクション、拡充でも公平性達成は程遠いワケ<中編>(JBpress・4/4)
▼「どの都道府県で育つか」でこれほど違う大学進学率、背景に高校制度…普通科88.6%の東京、地方との圧倒的な機会差<後編>(JBpress・4/5)
【記事概要】
大学選抜試験が終わり結果と分析が各メディアで報じられています。
その中でも、松岡亮二氏(龍谷大学社会学部准教授)の「【均質化する東京の難関大】出身地域の多様性低下、その背景と影響を読み解く」連載記事に注目しました。
松岡氏には『教育格差』『教育論の新常識』『東大生、教育格差を学ぶ』などの著書があります。
日本国憲法第26条には「・・・その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」とありますが、現実には、地域や出身家庭のSES(社会経済的地位)により教育環境には差があります。
松岡氏が注目するデータは次のとおりです。
こうした状況に対し、大学側ではアファーマティブ・アクション(是正措置)をとるところがあります。地域枠に加え、工学部系の女子枠設置、ブロック別の合格者枠を設ける学部などの動きも出ています。
しかし、こうした措置に対しては、当然ながら、該当していない側からの批判があります。
本当にこれが「是正」になっているのかという疑問もあります。
評価の観点は複数ありますが、大学入試段階の対応だけでは限界があり、抜本的な「違い」の問題が残ります。
松岡氏はデータに基づいた議論を行い、より適切で充実した教育施策を行うことの必要性を訴えています。
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【研究員はこう考える】
教育に限らず、「完全に平等な」環境というのは絵空事ですが、「違い」がある「程度」を超えると「格差」と言うことが可能になります。
その「程度」とはいかなるものかは、判断が分かれるところであり、統一することは不可能でしょう。
しかしながら、日本という国が、経済や文化の各指標におけるランキングを下げていることを無視はできません。物価の上昇に賃金の伸びがまだ追いつかず、多くの国民の日々の生活、購入行動に影響を与えています。そして、なかなか明るい見通しを持てなくなっています。
したがって、私は教育環境の「弱い面」に公的な支援が必要ではないかと思います。
家庭に任せる、個人に委ねるのではなく、機会を提供すること。
例えば、小規模の市町村では公設塾を運営するところがあります。また、現在、全国各地で高校の「遠隔授業配信」に力を入れつつあり、北海道の「高等学校遠隔授業配信センター」の取組が注目を集め、国も必要な制度改正を行なっています。
子どもが潜在的に有する能力を開花させられるよう、必要な情報や知識を提供し、ありとあらゆる手段を活用して学びや体験の場をつくり、コーチ、サポートすることが大切ではないでしょうか。
🔽「運動部活動の地域移行」の波紋…全国的に部活廃止が進行中 中学生親子たちの思いは(Yahoo/まいどなニュース・4/7)
【記事概要】
「部活動の地域移行」について、福井県、静岡県掛川市の動きが紹介されています。福井県では休日の活動を 2025 年度末で廃止する方針を示し、静岡県掛川市では 2026 年夏までに平日も含めた学校の部活動の完全廃止を表明しています。
部活動の地域移行とは、「教員が担ってきた部活動の指導を、地域団体や指導事業者に担ってもらうことで、地域で子どもの部活動を支える仕組み」です。
2022年 12 月、スポーツ庁と文化庁は「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」を公表。2018 年のガイドラインを統合、改定したものであり、中学生に適用され、高校や私学は実情に応じて取り組むことが望ましいとしています。
学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する 総合的なガイドライン【概要】
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【研究員はこう考える】
日本独特の部活動の仕組みと文化は、教員の職務を越えた努力により一定の教育的成果を上げてきましたが、それも限界に達し、改革の必要性は広く認識されています。
ガイドラインにおいては「スポーツ・文化芸術活動に継続して親しむことができる機会を確保する」「地域の子どもたちは、学校を含めた地域で育てる」「地域の実情に応じ最適化を図り、体験格差を解消する」ことの重要性が強調されています。
課題は、指導者と活動環境の確保、家庭の経済負担に対する援助です。
子どもたちにとって、スポーツ・文化芸術活動の重要性は言うまでもありません。
私は、本当に必要なことには、最大限お金をかけるべきだと思います。
もちろん、家計と同じで、食べるものも着るものもなくなってでもというわけにはいきません。
国や自治体の財政に係る積極的かつ適切な判断が求められます。
なお、全国各地に、官に頼らずに、子どもたちのスポーツ・文化体験を支える活動を展開している人たちがいます。
たとえば、元サッカー選手(コンサドーレ札幌)の曽田雄志氏は、A-bank Hokkaidoを立ち上げ、義務教育の授業や部活動へのアスリート派遣などを行なっています。曽田氏は2023年、十勝の浦幌町に移住し、スポーツを通したひとづくり・まちづくりに取り組んでいます。
🔽【書籍・論説】
「なぜ東大は男だらけなのか」矢口祐人(集英社新書 2024.02 集英社)
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\begin{array}{|l|l|} \hline\ 形態 & 書籍 \\ \hline 名称 & 「なぜ東大は男だらけなのか」 \\ \hline 出版元・雑誌名 & 集英社新書\tiny \normalsize2024.02\footnotesize(集英社)\\\hline 著者 & 矢口祐人\footnotesize(東京大学副学長[グローバル教育推進担当]) \\ \hline \end{array}
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【研究員はこう考える】
現執行部のお一人が明かす東大の深刻な実態
現東大執行部の一員でいらっしゃる矢口 祐人副学長(グローバル教育推進担当)が、東大においてなかなか進まないダイバーシティ、こと女性比率の惨憺たる現状について、開学以来の男性中心だった歴史や伝統、そしてご自身が直接体験された米国プリンストン大学(東大の交換留学協定先)における格差解消の実例等を交えて、論を展開しています。
そして、これまで他では見ない鋭い指摘や批判も随所に織り込んでいます。
(矢口先生は「女子」ではなく「女性」という言葉を用いるべきと説いています)
例を挙げれば、
刈谷剛彦氏や吉見俊哉氏、竹内洋氏らが著わした東大や高等教育に関する近年の出版物について、肝心の女性問題に触れていないとの欠点を指摘。
(p18)
さらには、新制東大の立役者として名高い、戦後初の総長・南原繁氏や、当時の法学部教授・高木八尺氏もやり玉にあがっています。
戦後、女性入学に賛同したものの、あくまで占領軍という上からの命令で行われたもので、「大学トップのイニシアティブ」でなされたものではなかった、と手厳しく批判しています。(p185)
そして、注目は、最終章の「東大のあるべき姿」。
ここで矢口先生は、なんと「女性50%のクオータ制」の導入を提唱しています!(p205)
これはあくまでも矢口先生個人のプランではありますが、藤井輝夫総長が進める D&I 構想とも方向性が重なる部分が多いと感じられますので、ひょっとすると、総長や執行部による何らかのサジェスチョンがあったのか?
観測気球?
いずれにせよ、東大が、自らが謳う「世界の公共性に奉仕する」大学に本当に生まれ変われるのか、抜き差しならない窮地に陥っていることは確かです。
✲ちなみに、矢口先生は、札幌南高校出身、北大を経て米国に留学された経験をお持ちのアメリカ研究者。いわゆる“外部”のご出身となります。
次回、vol.03 もお楽しみに📒
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