特色入試を重ねてもインバランスな状態の解消とはならなかった京大。ついに「アファーマティブ・アクション」を発動。
京大が“アファーマティブ・アクション”に
踏み切る意味とは
京都大学が3月に発表した「女子枠」の導入。
湊総長は記者会見で、
と、述べました。
では、「女性がチャレンジできる」女子枠の設置には、どのような意味や背景があるのでしょうか。
「女子枠」そのものは、理工系学部の女子割合を高めようとする政府や文科省の掛け声により、近年全国的に急速に設置が広がっているのです。
ですので、「女子枠」は、今となっては特段珍しいものではなくなりつつあります。
しかし、東京大学とともに最高学府の頂点に君臨する京都大学が、募集人員は少ないものの、「女子枠」設置に踏み切ったこと自体は、大学入試の歴史上、大きな意味があるのかもしれません。
“京大入試”の洗礼を通過した者のみが京大生に
というのも、京大は、これまで長い間、もっぱら伝統のペーパー入試で合格者を決めてきたといってもよいでしょう。
つまり、受験生的に言えば、あの“京大入試”の問題が、いわば入学者選抜の絶対的な拠り所とされてきた、ということです。
そうした伝統的な京大入試の洗礼を受け、“ 1 点刻み”の激烈な難関を通過した者だけが入学を許可されてきたのです。
今回、ごく一部ではありますが、そうした長年の伝統的なルートとは一線を画し、「積極的格差の是正措置」とも言われる“アファーマティブ・アクション※”による入学者選抜をはじめて実施するとなったわけです。
「幻想」、「不均衡」
“アファーマティブ・アクション”というのは、比率を改善したり、差別や格差を解消したりするため、なかば強制的に構成比率を是正しようとする、かなり強引な施策とも言えます。
米国をはじめ海外の大学では、男女のみならず、人種や国籍などの比率や格差是正のためこうした施策が実施されてきたことはよく知られています。
湊長博総長は記者会見で、“アファーマティブ・アクション”のワードにも言及して、次のように述べました。
湊総長はその際、
「女性が理工系に向いていないというのは幻想」と言及し、
「ジェンダー不均衡を解消して学びを深める環境の実現をめざす」
と、述べたとのことです。
つまり、「幻想」を打ち破り、「不均衡(imbalance)を解消」するための「女子枠」なのですね。
この「幻想」こそ、前回指摘した「障壁」なのでしょう。
女性比率の改善が期待された「特色入試」
であったが・・・
京都大学は、今回女子枠を設けることになった「特色入試」を 2016 年から行ってきました。
この特色入試には、もともと副次的効果として、女子比率を高められる作用があるのではないかと期待されてきました。
実際、2024 年度特色入試だけをみると、最終合格者 140 人中、女子が 68 人となり、女子比率は 48.5 %と、ほぼ半数近くのレベルとなりました。
このように特色入試では女子比率が男子に拮抗するまで上昇していますが、特色入試の合格者は 2800 人を超える総定員のうちの 5 %程度の 140 人に過ぎませんから、残念ながら全体の女子比率を大きくアップさせるには至っていないのですね。
2023 年のデータでは、特色入試の女子比率は 50.0 %でしたが、学部全体における女子比率は前年より1.7㌽アップしたものの 24.4 %にとどまっています。
推薦型になる法学部・特色入試
女子は2名まで推薦可能に
ここで、特色入試における女子比率向上に向けたニュースを一つ。
2025 年度から法学部の特色入試は、これまでの後期日程型から学校推薦型選抜に変更になります。
その際、1 高校あたりの推薦枠は 2 名とされ、男子のみ 1 名までとの制限が付けられることになりました。つまり、女子は最大 2 名まで推薦できるという設えとなったわけです。
些細な変更かもしれませんが、さらに女子比率を上げたいという大学の意欲が伝わってきます。
なお、この法学部の学校推薦型選抜により特色入試は、出願に際し、英語資格検定試験の成績結果と共通テストは 8 割程度のスコアも求めています。
令和7年度法学部特色入試入学者選抜方法における変更について(予告)
女子の少なさは、とかく理系学部ばかりがフォーカスされますが、文系学部の多くも男子の比率が女子を大きく上回っていますので、この法学部の取り組みに注目しましょう。
「障壁」、「アンコンシャス・バイアス」が作用して
ところで、人口における男女比というものは、もともとほぼフィフティ・フィフティですから、本来であればいろいろな組織の男女比率は半々になるのが自然です。
ところがそうはなっていない・・・
なぜでしょうか?
考えてみますと、多くの大学がこれまで行ってきた学力試験というのは、出願の段階、あるいはその合否判定において、男女の認識や区別はおこなっていない筈なので、基本的には意図的なジェンダーギャップは存在しておらず、その意味では、“公平”な試験が行われていると言えます。
しかし、出願するまでの段階で、いろいろな障壁やアンコンシャス・バイアスなど、何らかの原因が作用し、そのバランスが大きく崩れてしまうわけです。
「 1 点刻みの入試」からの決別!?
湊総長が言うところの不均衡の解消とは、特色入試を 8 年ほど導入してきても一向に改善しないインバランスの状況を解決することであり、「女子枠」はそのための切り札として登場した、と言ってもよいでしょう。
長年実施してきたペーパー試験至上主義、1 点刻みの激烈な入学者選抜の伝統を一旦脇に置いてでも、アファーマティブ・アクションを実施せざるをえなかった・・・
つまり、それほど事態は深刻だった、と言えるのでしょう。
大学に託された社会的役割を考えた場合、単に世界ランキングや巨額ファンド獲得を目指すことが大学の主たる目的ではないはずで、学問的・学識的見地に立って、未来に向けてのビジョンや方向性を世の中に対してサジェスチョンしていくことにこそ、大学の存在意義があるのではないでしょうか。
さらに、将来の社会を担うに足るしっかりとした判断力や見識をもった人材を育成し、送り出すことも大切な役割のはずです。
こうした見地に立てば、大学はダイバーシティやインクルージョンに関して、自ら率先垂範の姿勢で、解決すべき諸問題に取り組み、結果を出すことが求められています。
ましてや、国内最高レベルに位置づけられる東大・京大は、他の大学を牽引する意味でも、その責任は重大であると言ってもよいでしょう。
大学にも責任が
東京大学大学院教育学研究科の本田由紀教授も、国際女性デーに合わせて発表された「ジェンダー不平等の解消に向けて」のなかで、大学の責任について触れています。
では、不十分と指摘されてしまった東京大学の取り組みはどうなっているのでしょうか。
次回、そのあたりを見てみたいと思います。
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