金魚鉢宮 #シロクマ文芸部
金魚鉢宮、次はきんぎょはちぐう、というアナウンスが車内に響いた。
「キンギョハチグウなんてバス停、あったっけ」
隣に座っているシュウくんに聞くと、うん、昔っからあるよ、と眠たそうな返事が聞こえた。つるんとした顎先に、ぽつんとひとつ、ニキビがある。気になるのか、時々触るので、触っちゃダメ、と彼の手に自分の手を重ねた。
バスの車内の二人掛けの席に座れたのはラッキーだった。密着している腕や太ももが熱を帯びている。
金魚鉢宮では、誰も降りず、誰も乗らず、バスは停車せずに通過し