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短編 第二集

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日常の隙間に入り込む、切なくも儚い存在
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#短編小説

受傷告知

 紅葉唐門からひとりの僧がかすかに香を漂わせながら衣擦れの音だけをさせて出て行った、きび…

吉穂みらい
3週間前
78

紙一重

 厄介な感情を持て余したまま右手を吊革にぶら下げていた。とっぷりと更けた夜の中を行く電車…

吉穂みらい
1か月前
107

ふたつの国宝 #シロクマ文芸部

752年 奈良 東大寺 廬舎那仏   金色に輝く廬舎那仏が私を見下ろしている。見下ろされた…

吉穂みらい
1か月前
60

うどん記念日【#白4企画応募】

 うどんが食べたいときみが言ったから今日はうどん記念日、というわけではないけれど、突如う…

吉穂みらい
3か月前
95

紫陽花をんな無限ループ #シロクマ文芸部

 紫陽花女がいる、という噂が、どこからともなく広がった。  昭和の口裂け女のことは、子供…

吉穂みらい
5か月前
68

RAIN #シロクマ文芸部

 『雨』を聴くためにその店を訪れた。  21時からしか開かない店。お酒と音楽だけを提供する…

吉穂みらい
5か月前
65

金魚鉢宮 #シロクマ文芸部

 金魚鉢宮、次はきんぎょはちぐう、というアナウンスが車内に響いた。 「キンギョハチグウなんてバス停、あったっけ」  隣に座っているシュウくんに聞くと、うん、昔っからあるよ、と眠たそうな返事が聞こえた。つるんとした顎先に、ぽつんとひとつ、ニキビがある。気になるのか、時々触るので、触っちゃダメ、と彼の手に自分の手を重ねた。  バスの車内の二人掛けの席に座れたのはラッキーだった。密着している腕や太ももが熱を帯びている。  金魚鉢宮では、誰も降りず、誰も乗らず、バスは停車せずに通過し

アディクト #シロクマ文芸部

 白い靴が、足首だけを連れて目の前を歩いて行った。靴底に特徴のある真っ白なスポーツタイプ…

吉穂みらい
6か月前
43

昭和99年の柏餅 #シロクマ文芸部

 子供の日って、大人の日じゃないのかね。  子供のいる大人が、自分の子供の成長を喜んだり…

吉穂みらい
7か月前
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夢幻能 #シロクマ文芸部

 『春の夢幻能』という掲示物が目に留まる。夢幻能、と言う言葉と、面をつけた女性とおぼしき…

吉穂みらい
7か月前
43

紙芝居 #シロクマ文芸部

 始まりはじまりぃ、っと、ん?何が始まったって?見りゃわかるだろう、紙芝居だよ。紙芝居、…

吉穂みらい
8か月前
46

多様性暴走バス #夜行バスに乗って【企画参加】

 友達とカフェに入って、隣の席に自分の母親と同じような年頃の女性がひとりで座っていたら、…

吉穂みらい
8か月前
62

Son alibi

 小学校のころ、僕たちの教室には机がひとつ多かった。  学年のどの教室にもその机があった…

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