シェア
紅葉唐門からひとりの僧がかすかに香を漂わせながら衣擦れの音だけをさせて出て行った、きび…
「秋」と「本日は晴天なり」、どちらを選びますかと男は言った。 その男に会ったのは去年…
厄介な感情を持て余したまま右手を吊革にぶら下げていた。とっぷりと更けた夜の中を行く電車…
752年 奈良 東大寺 廬舎那仏 金色に輝く廬舎那仏が私を見下ろしている。見下ろされた…
夕焼けは晴れ朝焼けは雨。 これ、ことわざなんだってと、万葉は言った。 へえ。じゃあ明…
電話の声は、確かに遠ざかっているのだ。 毎日話していたら気が付かないくらいの速度で。 …
「風の色鉛筆」というフォークグループとして、三人で活動していたことがある。当時はフォーク全盛期で、吉田トクローや赤い直角定規、親指姫などの有名グループに紛れて、ひっそりとデビューしたのだが、全く売れなかった。 メンバーとバイトをして食いつなぎ、1980年が来るまで粘ったが、次第によだまさしやオブコース、中山みゆきなどがポップムードに移り変わり、テレビ出演やステージにはトークの才能なども求められ、結局解散した。 メンバーは、まっちゃんこと益子英二(ギター)、タキこと滝
懐かしい痛みだわずっと前に忘れていた 頭の中で松田聖子の声で再生された『SWEET MEMORI…
レモンから揚げ、と私は言った。 レモンから揚げ?と、夫がリピートし、語尾を上げる。 「…
うどんが食べたいときみが言ったから今日はうどん記念日、というわけではないけれど、突如う…
紫陽花女がいる、という噂が、どこからともなく広がった。 昭和の口裂け女のことは、子供…
北川屋グループ「タケナワモールKITAGAWAYA」は今年、オープンして20周年を迎える。 山…
金魚鉢宮、次はきんぎょはちぐう、というアナウンスが車内に響いた。 「キンギョハチグウな…
白い靴が、足首だけを連れて目の前を歩いて行った。靴底に特徴のある真っ白なスポーツタイプのスニーカーは、闇の中で蛍光色に光る。まるで踊っているような足取りで、スキップするように軽やかな歩行。 少女の切り落とされた足が赤い靴を履いて踊り続けるのはアンデルセンの『赤い靴』だった。その靴は足と共に踊り狂いながら暗い森へ消えたはずだ。 今目の前に現れた、あの白い靴と足は、いったいなんだろう。 つられるようにその足首と白い靴を追った。 少女がなぜ赤い靴に囚われたか。赤い靴が最