マガジンのカバー画像

短編小説

34
noteで公開している短編小説のまとめです。 ファンタジー・童話・不思議な感じのものが多いかと思います。
運営しているクリエイター

記事一覧

はやく私を見つけてください【短編小説】

「アーヤカ! なーに読んでるのっ」 「うわっ」  下校中、スマホをじっと見つめていた私の背を、誰かが叩いてきた。振り返ると、シオリがいた。  シオリは、私のweb小説読書仲間だ。高校一年生の時にクラスが一緒になり、趣味も同じだったから仲良くなった。高校二年生になったいまでも仲がいい。  一緒に帰るのは久しぶりだった。 「歩きスマホはだめだってえ……で、なになに? おもしろいの? URL、送ってよ」 「いいよ! これ最近のお気に入りなの!」  私は投稿サイトの小説を読み

ロング・ロング・ドッグ・ダックスフンド【短編小説】

 ダックスフンド。あるいは、ダックスフント。  ドイツ原産の犬種。巣穴に潜ってアナグマを狩るために手足が短くなった犬。胴の長さも特徴的な犬。  彼らは気付いてしまった。 「ココアちゃ~ん! 身体長いね~!」  この長い胴は人間に気に入られていることに。たくさん撫でてもらえる。胴が長い分、撫でてもらえる面積も増える。 「クッキーちゃん、撫でられて嬉しいのかな? めっちゃ尻尾振ってるね~ちぎれちゃいそうだね~」  ダックスフンド達は撫でてもらうことが好きだった。そして人

狐と竜がいる森【短編小説・フリー朗読台本】

 ついにその森にも、人間の手が伸びてきました。  緑も青々と生い茂り、時には色鮮やかな花や甘い香りを漂わせる果実もある森。そこは、そこに住むたくさんの動物のものでした。  ところが人間が来てしまったのなら、森はたちまち人間に奪われてしまうことを、動物達は知っていました。遠くの森も、近くの森も、人間達がやってきたかと思えば、緑は消え失せ、そこに人間の建物が出来上がったのを見聞きしてきたからです。  人間は、森をなくし、そこを人間の土地にしてしまうのです。もちろん、そこに住

処方妖精【短編小説】

 真面目に働かなくちゃいけなかった。失敗もしないで、完璧にこなさなくちゃいけなかった。  でも最近、それができなくなった。ミスばかり。焦ってばかり。  いままでできていたのに。だから病気を疑った。病院で薬をもらえば、また元のように頑張って働けると思った。 「働きすぎ、頑張りすぎですね。きっと見えるでしょうから、妖精を処方しましょう」  妖精? そういう名前の薬があるのかと思ったら、本当に「妖精」が処方された。 「やはり妖精が見えますね。この妖精は基本的に二週間ほどあ

竜と育ての親の鳥【短編小説】

 森の片隅で生まれた火は、たちまち広がって木々の全てを燃やしてしまいました。動物達には逃げる暇もありませんでした。舌のように伸びてきた炎に絡めとられてしまったのなら、あとは燃やされてしまうだけ。数千年に一度、起きるか起きないかの大火事です。  やがて炎は消えましたが、残されたのは焦土だけでした。激しい炎は、動物達の骨すらも燃やしつくしてしまい、そこに命があった跡すらも消してしまったのです。  その焦土の上を、一羽の鳥が飛んでいました。 「おや、あれは何だろう。全部燃えて

ブラックコーヒーと永遠の夜【短編小説】

 明日なんていらなかった。ずっと夜のままがよかった。  だからいつも眠るのが嫌だった。眠ってしまったのなら、朝が来てしまう。明日になってしまう。  そんな私の夜のお供はブラックコーヒー。私のお守り。明日を連れてきてしまう眠気を追い払ってくれる。  パソコンとスマホの光だけがある暗い部屋の中、コーヒーの水面はその光を受けて夜空みたいにきらきら輝く。まるで夜そのものみたいで、飲んだのなら、夜に溶け込めるような気がした。  そのまま夜になってしまえたのなら、朝に出会わなくて

星の花育成キット【短編小説】

『きらきらの星、育てませんか? 一週間であなたの星が咲きます!』  ホームセンターのワゴンに、そんな文言の書かれた箱がたくさん積まれていた。手に取って値段を見てみると、元の値段が二重線で消されて、その値段の半額以下の数字に書き換えられていた。お菓子みたいに安い値段だったので、一つ買ってみることにした。  家に帰って箱を開けてみると、何の変哲もない植物栽培キットが中から出てきた。プラスチックのポットに、ちょっとふかふかした土。そして……星の種というよりも「埃」みたいな種一粒

ダンビュリア山の竜たち【短編小説・フリー朗読台本】

  雪山であるダンビュリア山は、旅人にとってとても厳しい山であると有名です。  常に雪が積もった斜面は進みにくく、その上寒く、時には激しく吹雪くこともあります。そうなってしまったら、どんなに経験のある旅人でも、もう進むことができません。道に迷ったり、ひどい場合は命を落としてしまったりする可能性があると言われています。  そんな「死の山」にも思えるダンビュリア山ですが、実際に「死の山」と呼ばれることはありません。  何故なら、山に入った旅人は、みな無事に山を越えて旅を続けて

星を探すカラス【短編小説・フリー朗読台本】

 世界は夜に包まれて、ほとんどの動物が寝静まっているというのに、不意に外で激しい羽ばたきの音が聞こえた。それから、かあ、かあ、という鳴き声も。  何かと思って窓を開けてみると、地面にカラスがひっくり返っていた。 「寝ぼけて木から落ちたのかい?」 「ちがうよ、寝ぼけてなんかいないさ、至ってまともでまじめ、そして努力家だ」  カラスは起きあがれば、翼を広げた。 「夜に飛ぶ練習をしてたのさ、フクロウみたいに」  それは無理な話だな、と僕は思う。 「君はフクロウじゃなくて

竜農騎士の畑【短編小説】

 悪い人間。悪い魔物。そんな悪いもの達が世界には蔓延り、善良な人々を脅かしていました。  けれども大丈夫。そんな悪いもの達をやっつけるのが、竜騎士の仕事です。  竜騎士はみんなの憧れ、英雄です。  とある小さな村にも、竜騎士に憧れた竜が一匹、少年が一人いました。 「僕達きっと、いい竜騎士になれるよ! 絶対英雄になろう!」 「たくさん修行をして、一緒に竜騎士学校に入ろう! 僕達ならできるよ!」  仲良しな一匹と一人は、いつも修業をしていました。一緒に空を速く飛ぶ練習をした

K氏の百点満点の死【短編小説】

「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。「今回も満点には至りませんでした。点数は六十八点でございます」 「ううむ、突発的な死、というのはやはり満足できるものではないのだな」  そう言いながらK氏はヘッドギアを外しつつ、台から身体を起こした。確かに傍らの『死への満足』計測器には「68」の数字が浮かんでいた。 「ところで、私は財力がないために『幸福な死』への挑戦ができないのですが、スカイダイビング事故での死、というのはいかがでしたでしょうか?」  『幸福な死』

雨の降らない空の下にて【短編小説】

 ある時、公園で男の死体が見つかった。  満開の桜の木の下で、首を吊って死んでいた。  季節は十二月。桜が咲く時期ではなかった。  その上、そもそも公園に桜の木なんて一本もなく、この木は昨日まではイチョウの木だったという。  ――それから日本では「満開の桜の木で首を吊って死んだ人間」がよく発見されるようになった。  桜の季節でもないのに、桜の木でもないのに、何故か桜の木が出現して、そこで人が首を吊っている。  やがて気付いた。  木の下で首を吊ったのなら、その木は満開の

勇者の亡骸を抱えて【短編小説】

 魔王を倒すために、勇者はこの世界に呼ばれましたが、その魔王との戦いにて、彼は負けてしまいました。 「帰りたかっただけなのに」  別の世界から召喚された勇者は、最後に血を吐きながら言いました。 「戦いなんてなくて、静かで、平和なところで……」  そうして目を瞑ってしまいましたから、魔王は首を傾げます。  噂では、勇者としてこの世界に呼ばれたものの、それまで彼は、剣を握ったこともなかったそうです。ここまで戦えたのは聖剣のおかげであるのですが、果たして、彼がもといた「戦

森の怪物アッチーケに憧れた動物達【短編小説・フリー朗読台本】

 大雨により、森を流れていた川は激しく荒れ狂い、多くの動物を呑み込んでしまいました。  子狐の家族も、冷たい流れに呑み込まれ、二度と浮き上がっては来ませんでした。お母さんも、お父さんも、仲のよかった兄弟達も。  一匹だけ生き残った子狐は、大雨が止んで湿った森を、めそめそと、孤独に歩いていました。お母さん、お父さん、と声を上げますが、誰も返事をしてくれません。兄弟の名前を呼んでも、茂みが揺れることはありませんでした。 「僕は一匹で生きていかなくちゃいけないの?」  起き