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星を探すカラス【短編小説・フリー朗読台本】

 世界は夜に包まれて、ほとんどの動物が寝静まっているというのに、不意に外で激しい羽ばたきの音が聞こえた。それから、かあ、かあ、という鳴き声も。

 何かと思って窓を開けてみると、地面にカラスがひっくり返っていた。

「寝ぼけて木から落ちたのかい?」
「ちがうよ、寝ぼけてなんかいないさ、至ってまともでまじめ、そして努力家だ」

 カラスは起きあがれば、翼を広げた。

「夜に飛ぶ練習をしてたのさ、フクロウみたいに」

 それは無理な話だな、と僕は思う。

「君はフクロウじゃなくてカラス、昼間の鳥だよ。夜に飛ぶなんて、難しすぎるよ、真っ暗すぎて、何も見えないだろう?」

 広げたカラスの翼は真っ黒。けれども夜の黒色とはまた違うから、拒絶されているみたいに見えた。

 それでもカラスは星空を見上げて、

「星がほしいんだ。星は昼間にはいない、夜にしか出てこない。だから、夜に飛べるようにならなくちゃいけないんだ」
「どうして星がほしいの?」
「もちろん、きらきらしてるからさ」

 そうしてカラスは跳ね上がったかと思えば、夜の闇の中に溶けていった。
 声だけが聞こえる。

「星を捕まえるために、もっと夜に飛ぶ練習をして、夜目を鍛えないと!」

 遠くでまた、激しい羽ばたきの音が聞こえて、続いてカラスの悲鳴が聞こえる。それが何回か。努力家のカラスに諦める様子はどこにもなかった。


* * *


 それから数日後の朝だった。目が覚めて、ベッドで目をこすっていたら、唐突にこんこんと窓を叩かれた。

 窓を開けたのなら、あの努力家のカラスが胸を張って立っていた。

「やあおはよう、久しぶり。もしかして、夜に飛ぶ練習を、朝までしてたのかい?」

 僕にはカラスが、誇らしげでも少し疲れているように思えたので尋ねてみた。するとカラスは。

「もちろんその通り。努力家だからね。毎晩、夜に飛ぶ練習をしていたさ……それで今日、ついに星を捕まえたのさ!」
「本当に、星を捕まえたの? 夜の空の、高くまで飛べたの?」
「いいや……やっぱり、フクロウみたいに夜に飛ぶのは、難しかったよ。でも、朝まで練習していて、少し明るくなったとき、流れ星を見つけたんだ。それで、その落ちた場所まで向かっていったら、ほら!」

 カラスは、自分の背後から小さな何かをくちばしにくわえて取り出した。

「見てくれ! これはきっと間違いなく星だ! 残念ながらきらきらしてはいないけれど、どこからどう見ても星だ!」

 くちばしでくわえた、いくつかのそれを、カラスは地面においた。確かにそれは星のように見えた。小さいけれども、ちくちくしている白いもの。白だけじゃない、桃色や、緑色、黄色に青もある。

「実は橙色もあったんだけど」

 カラスは言う。

「この星、舐めるととっても甘くて。集めてる最中に食べちゃったんだ」

 カラスが集めてきた、小さな小さな星。
 それはどこからどう見ても、金平糖だった。きっと、誰かが落としてしまったんだろう。

「やっぱりきらきらした星がほしいから、夜に飛ぶ練習はやめないけど、流れ星を追えば、甘い星が見つかるんだ!」

 けれどもカラスは、とても嬉しそうな様子だったから、僕は本当のことを言わないことにした。
 もしかすると、流れ星が本当に金平糖になった可能性だってあるかもしれないから。

「あっちの方角にも、流れ星は落ちていったんだ! それじゃあ、もう行くよ!」

 朝日の中、カラスは飛んでいってしまった。甘くておいしい星を探して。 


【終】


この作品は、朗読台本としてフリーで使用可能な小説作品です。
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