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星の花育成キット【短編小説】

『きらきらの星、育てませんか? 一週間であなたの星が咲きます!』

 ホームセンターのワゴンに、そんな文言の書かれた箱がたくさん積まれていた。手に取って値段を見てみると、元の値段が二重線で消されて、その値段の半額以下の数字に書き換えられていた。お菓子みたいに安い値段だったので、一つ買ってみることにした。

 家に帰って箱を開けてみると、何の変哲もない植物栽培キットが中から出てきた。プラスチックのポットに、ちょっとふかふかした土。そして……星の種というよりも「埃」みたいな種一粒。

 窓際に置いて育てるといいと書いてあるから、種を植えたポットをそこに置いた。水は普通の水を夜に一回、あげたらいいらしい。育てるのはそんなに難しくなさそうだった。

 初日、水をあげて眠って起きたら、もう芽が出ていた。透けるような黄緑色の芽が、朝日にきらきら輝いていた。

 それから二日三日ですくすく育ち、長い葉っぱを手のように広げ始めた。
 四日目で、小さな蕾が真ん中にでき始める。五日目で膨らみ、六日目には弾けそうなほどに膨らんだ。

 そして七日目の夜、特に変化がなくて、眠って起きたら、星の花は枯れていた。
 水をあげすぎたのかな、と最初は思った。きらきらの星は咲かなかった。

 ホームセンターに行ったのなら、まだあのワゴンはあった。星の花育成キットも山積みのままだった。
 安い値段だったから、もう一つ、買ってみる。二回目だからきっと星を咲かせることができるだろう。

 今度は水の量に気をつけて育ててみる。気付けば毎晩、寝る前の水やりが楽しみになっていた。

 星の花は、一回目の時みたいに順調に育っていく。芽が出て、伸びて、葉が広がって、蕾が膨らんで。一週間であっという間に大きくなる。

 けれど、やっぱり七日目の夜を過ぎて八日目の朝。
 星の花はしおしおになって枯れてしまっている。

 思ったよりも育てるのが難しいものなのかもしれない。ネットで調べたら、八日目で枯らせてしまっている人が多いようだった。咲かせた、という写真はどこにもない。
 だからきっと、安売りされてしまったのだろう。

 あのホームセンターに行ったのなら、星の花育成セットは相変わらず山積みで、一番上のものは埃を被り始めていた。

 その一つを、また手に取って。
 三個目を育ててみる。きらきら輝く星が見たかったから。

 また一週間が始まる。芽が出て、伸びて、葉が広がって。
 蕾ができたら弾けそうなほどに膨らんで。

 そして七日目の夜を迎える。

 ――咲くのに失敗して枯れてしまうのかな、と思って、その夜は眠らずに蕾を見つめた。
 二十四時になる。眠たい目を擦って、それでも蕾を見つめ続けていると、昼間よりもまたずっと蕾が膨らんでいることに気付く。

 と、その蕾から、ぱち、ぱち、と音が聞こえ始める。
 うとうとしていたから、すぐには気付けなかった。音のする方向をぼんやり見れば、蕾が柔らかく明滅し始めていて、それに眠気が消し飛ぶ。

 息を呑んで待っていると、ついに蕾がぱちんと弾けた。
 そうして星の花が咲いた。小さな光が宙に放たれる。きらきら光るそれは、くるくると踊るように回る。まるで蛍みたいで、でもよく見ると形は金平糖そっくりだった。

 とても綺麗だったから、写真を撮るのも忘れていた。手を伸ばしてみると、星は小動物みたいになついてくれた。

 けれど、そのうち窓の方へ星は飛んで行ってしまった。何を考えているのか、星はあたかも虫のようにかんかんと窓ガラスに身体をぶつけ始める。ぶつかるたびに、光のかけらが剥がれるように散っていき、星は小さくなっていく。

 このままじゃ砕けちゃう、と思って、慌てて窓を開けたのなら、星はそのまま外へ出て行ってしまった。夜空へ向かって飛んでいく。無数にある星の一つになる。

 三つ目の星の花栽培キットで、ようやく星一つを咲かせることができた。
 星は夜空でないと咲き続けることはできなかったんだ。

 きっと今までの星は、小さく砕けていつの間にか消えてしまっていたんだろう。
 残されたポットを見れば、しおしおになった星の花があった。

 これは枯れた姿じゃなくて、全てを終えた姿だった。
 この星の花の星は、もう枯れたり砕けたりしない。きっと、夜の空で輝き続けてくれる。                     

【終】

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