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ダンビュリア山の竜たち【短編小説・フリー朗読台本】

  雪山であるダンビュリアさんは、旅人にとってとても厳しい山であると有名です。

 常に雪が積もった斜面は進みにくく、その上寒く、時には激しく吹雪くこともあります。そうなってしまったら、どんなに経験のある旅人でも、もう進むことができません。道に迷ったり、ひどい場合は命を落としてしまったりする可能性があると言われています。

 そんな「死の山」にも思えるダンビュリア山ですが、実際に「死の山」と呼ばれることはありません。
 何故なら、山に入った旅人は、みな無事に山を越えて旅を続けているからです。激しい雪や吹雪に見舞われたにもかかわらず、そこで命を落としたなんて話や、山から下りて来なかったという話は一つもありません。

 というのも、実はダンビュリア山には、どんな悪天候に見舞われても必ず生き残ることができる方法が一つあるのです。

 それが「竜たちの力を借りること」です。

 もしもダンビュリア山を旅する中、吹雪に見舞われたのなら、天候がさらに悪くなる前に「かまくら」を作りましょう。悪天候になる中、かまくらを作るのは大変かもしれませんが大丈夫。山の斜面に穴をあけるようにして、雪を掘るといいでしょう。

 そうしていると、吹雪の中から、一つ、二つと影が現れ始めます。大きさから、狐か何かかと、最初は思うかもしれません。けれどもそれが近づいてきたのならわかるはずです――それが真っ白い竜だと。

 ダンビュリア山に住む竜たち。その子供です。

 ダンビュリア山には、何体もの竜が住んでいます。普段人間の前に現れることはないのですが、人間がかまくらを作っているとなると、彼らはそろそろと近づいてきます。

 ダンビュリア山の竜たちは、かまくらが大好き。人間がかまくらを作っているとなると、完成が待ちきれず近寄ってくるのです。そして我慢ができなくなったのなら、人間のかまくら作りを手伝い始めるのです。

 竜たちがかまくら作りを手伝い始めたのなら、あっという間にかまくらは出来上がるでしょう。彼らはかまくら作りの達人。ただ自分からかまくらを作ろうとしないだけです。

 かまくらが出来上がったらもう安心です。吹雪が落ち着くまで、中で待ちましょう。竜たちも一緒にかまくらに入ってきますから、退屈することはありません。彼らはかまくらの中で子犬のようにはしゃいだり、眠ったり、好きなように過ごします。中には人間にぴったりくっつく個体もいたり、かまくらをより大きくしようと掘り続ける個体もいます。

 何より、竜達は雪のように白くても、とても温かいのです。だからかまくらの中に竜がいればいるほど、かまくらの中は過ごしやすくなるのです。

 そのうち、外から木の実や果物を持ってくる竜も現れるかもしれません。歌い出した竜も、過去にはいたそうです。

 外は吹雪いていても、かまくらの中はもはやパーティー会場です。楽しく過ごして吹雪が止むのを待ちましょう。

 ただし、はしゃぎすぎてはいけません。はしゃぎすぎると、かまくらが壊れるからです。

 人間や竜が、かまくらの壁にぶつかって壊してしまうから……ではありません。

 ――あまりにもはしゃぎすぎて、楽しそうな雰囲気が外の遠くまで漏れてしまったら、今度は子供の竜ではなく、大人の竜もやってきてしまうからです。

 ダンビュリア山の竜は、大人も子供もかまくらが大好き。大人もかまくらの中に入ろうとします。

 すると、大人の竜に対して、かまくらは小さすぎるので、壊れてしまうのです。またその大きな体に踏みつぶされてしまったこともあるそうです。

 会場がなくなったのなら、パーティーはもうお開きです。竜達は吹雪に紛れるように消えて、寒い中、あなただけがその場に残されてしまうでしょう。

 そうなったら、あなたはかまくらを新しく作り始めなくてはいけません。  


【終】


この作品は、朗読台本としてフリーで使用可能な小説作品です。
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