これだけは知っておきたい!不老長寿のカギになるオートファジー
ただ寿命を延ばすのではなく、
健康に長生きしたい
……とは思いませんか?
ヒトにとって永遠の研究テーマと言える「不老長寿」。
その研究が今ではどこまで進んでいるかというと……
特大のブレイクスルーに、あと一歩まで迫っているのかもしれません。
と、オートファジー研究の世界的権威の一人である吉森保教授(大阪大学)は語っています。オートファジーは、健康寿命を伸ばすカギになるとして、大変に注目されている分野です。
オートファジーとは何か?
どんな働きがあるのか?
どれだけの可能性を秘めているのか?
今回は、そのあたりをまとめてみました。
オートファジーとは
一言で言えば、細胞内のタンパク質の一部を分解して再利用するシステムです。「細胞内のゴミのリサイクル機能」と呼ばれることもあります。
ミトコンドリアのような、細胞の中で働いている小器官もオートファジーによって分解されます。これらの小器官も、タンパク質のかたまりのようなものです。
エネルギー源を供給する働き
おなかがペコペコなのに、食べるものがない……(涙)
ご先祖さまの時代には、「飢えと隣り合わせの生活」が普通にありました。
そんなピンチの際に、体内のタンパク質を分解してエネルギー源として活用する。これが、オートファジーで最初に見つかった働きでした。
「飢えた時だけ働くシステム」ではない
オートファジーは、飢餓のような緊急時にスイッチが入る、サバイバル専用のシステムなのだろう……と初めは考えられていました。現在では、それ以外にも多くの日常的な働きを担っていることが明らかにされています。
オートファジーの「日常的な働き」とは?
文字通り毎日必要になる働きです。ゆっくりとしたペースで、いつでもコンスタントに続けられている働きも含まれます。
そうなると、「断食した時にしか稼働しない」、では具合が悪いはずですね。実際、オートファジーは、もっと簡単にスイッチが入るシステムなのだと理解されてきました。
食事をした直後は細胞の中でタンパク質の合成が優勢になり、時間がたつにつれてタンパク質を分解する時間に変わります。オートファジーはタンパク質分解システムの1つですので、食間に優勢になります。
食事と食事のあいだに、ちょこちょこお菓子を食べたりせず、しっかりおなかをすかせる時間をつくっていれば、オートファジーの働きを高めることができますよ!
中古タンパク質を新品に入れ替える働き
「オートファジーの日常的な働き」、いろいろとあります。1つ1つご紹介していきましょう。
まず、細胞内のタンパク質がいつでも最高の状態で働けるようにメンテナンスする働きがあります。
タンパク質は、家電と似ています。それぞれに実用的な働きがあるし、古くなると、だんだん動きが怪しくなってきます。そのくたびれてしまった中古タンパク質を取り除く担当が、オートファジーなのです。
タンパク質はアミノ酸がつながって作られているので、分解されるとアミノ酸になります。このアミノ酸は、新品タンパク質を作る材料として再利用されています。
オートファジーが直接かかわっているのは「分解」ですが、分解を進めることでタンパク質の合成も促される結果になります。
分解されたタンパク質のうち、約7割がリサイクルされて新品タンパク質に変わります。約3割は、エネルギー源などに利用されています。
タンパク質のリサイクルについては、こちらでもご説明しておりますので、ぜひご一読ください。
オートファジーが活発に働いていれば、細胞内のタンパク質をいつでもレベルの高い状態に保てます。こうして、1つ1つの細胞のパフォーマンスを高めることが、全身の健康改善につながります。
ちなみに、ビタミンやミネラル多くは、タンパク質をサポートするかたちで働いています。上イラストのような「タンパク質が充実した状態」をキープできている細胞の中では、ビタミンたちは大活躍。ポンコツなタンパク質ばかりの細胞だと、ビタミンもそれなりの仕事しかできません。
「サプリを摂り続けているのに、期待したほどの効果はないな……」、と感じている人は、しっかりタンパク質を摂れているか、リサイクルをうまく回せているか、をチェックしてみるといいですね。
メンテナンスが特に重要になる細胞がある
もし、神経系や心臓循環器系が心配なら、絶対やった方がいいことがありますよ!それは、オートファジーを活発に働かせること。
オートファジーは体内に40兆近くある細胞のほぼすべてで働いていますが、神経細胞や心臓の心筋細胞にとっては、特に重要です。
たとえば、皮膚の細胞や胃腸の内皮細胞なら、古くなったものから次々にはがれ落ちていき、数日で新しい細胞に入れ替わります。ですからすさんだ生活でボロボロの皮膚細胞だったとしても、反省すれば、キラキラ細胞にチェンジできます。
一方、神経細胞や心筋細胞は、基本的に入れ替えがありません。生まれた時にあった細胞と、死ぬまでずっとご一緒することになります。そうなると、ボロボロにしてしまったら、取り返しがつきません。
気づいた時から、細胞内にゴミをためず、新品タンパク質がすぐに納品されるようにケアしましょう。
ウイルスなどを駆除する働き
オートファジーには、有害な微生物(ウイルスなど)が細胞内に侵入した時に、ピンポイントで分解する役割もあります。こうした「狙い撃ち」的な働きは、吉森保教授によって2004年に世界で初めて見つけられました。
でも、ウイルスを退治するのは、免疫システムの白血球じゃないの?
おっしゃる通りでございます!
ただ、白血球とオートファジーでは、守備範囲が違うのです。
たとえば、白血球の一員であるマクロファージは、ウイルスなどの有害微生物をパックマンのように食べまくってくれます。ただし、働ける場所は、基本的に細胞の外側のスペースだけ。細胞の内側は管轄ではありません。
当然ウイルスは、安全地帯である細胞内にもぐりこもうとして、必死に逃げ回ります。西部劇でよく見るシーンと似た展開です。
コロナ禍で、「結局大切なのは、自分のからだに備わっている自然治癒力を高めること」と散々聞かされました。免疫を強くする方法も、いろいろと学ばれたでしょう。でもそれは、主に「細胞の外側の戦い」用のノウハウです。
最後の決戦の舞台は、細胞の中。オートファジーは、その大事な砦を守る自然治癒力となります。これも、オートファジーを活性化させた方が良い理由の1つです。
老化や病気の原因物質をお掃除する働き
いろいろな病気の進行プロセスを探っていくと、多くの場合、発病の引き金となる「原因物質」が見つかります。その原因物質は、多くの場合、タンパク質などが集まって作られた異常なかたまりです。
そうなると、予防や治療のカギとなるのは、異常なかたまりを作らせないこと、できてしまったかたまりは分解すること、になりますね。
オートファジーが細胞内のスナイパーになると分かってから、「ひょっとしたら、異常なかたまりもオートファジーが打ち砕いてくれるのでは…?」と一気に関心が高まってきました。
具体的に、どんなかたまりとオートファジーの関係が追求されているかというと、たとえばアミロイドβ。脳細胞にアミロイドβが蓄積していくことが、アルツハイマー型認知症の進行につながると考えられています。
同じようなアミロイドのかたまりは、すい臓のベータ細胞でも作られます。このかたまりが細胞死を引き起こし、糖尿病を進行させる一因になると考えられています。
痛風で問題になるのは尿酸結晶ですね。これも、トラブルを起こすかたまりの1種です。
動脈の内側の壁をつくっている細胞たちにとって、やっかいなのはコレステロールのかたまりです。このかたまりが大きくなり、広がっていくことが動脈硬化につながります。
そもそも何故、こうしたお邪魔で危険なかたまりがあちこちの細胞で作られてしまうのでしょう?
その答えは、オートファジーがキチンと働いていないから、という可能性が次第に濃くなってきました。もしそうなら、病気にかかるかどうかの命運を握っているのは、オートファジー、と言えるかもしれません。
今回あげた認知症や糖尿病以外にも、がんをはじめ多くの病気の進行にオートファジーが直結しているではないかとして、世界中で盛んに研究が進められています。
オートファジーが弱るから老化する?
不老長寿のブレイクスルーはすぐ目の前まで来ています、と切り出して、長々と書いてきましたが、そろそろまとめに入りましょう。
オートファジーについて1つハッキリしているのは、年をとると、働きが衰えていくこと。その影響は、全身の細胞に及ぶはずです。
中古タンパク質の処分が進まず、細胞内に粗大ゴミがたまる。
タンパク質の合成が進まず、新品タンパク質の補充が鈍る。
タンパク質不足で、骨や筋肉が衰えやすくなる。
神経や心臓も衰えやすくなる。
感染症にかかりやすくなり、かかれば悪化しやすくなる。
認知症、糖尿病、痛風、動脈硬化などが進行しやすくなる。
こうしてみると、老化に伴う問題とか、高齢者がかかりやすい病気のほとんどがカバーされていますね。オートファジーは全身に幅広く影響しているので、うまく活性化することができれば、たくさんの問題を一気に好転させるだけのポテンシャルを秘めていると思います。
オートファジー関連の研究は、薬品やサプリメントの開発につながることもあって、世界中で大変な盛り上がりです。その成果が注目されますが、日常生活の中でもオートファジーを活性化することができます。そのやり方は、こちらにまとめてありますので、ぜひご一読ください。
オートファジーのメカニズムは、こちらでもう少し詳しく解説しています!