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2024年5月の記事一覧

その前夜 2024/05/31

その前夜 2024/05/31

『その前夜』というタイトルは、「その-前夜」と「その前-夜」という二つの解釈のあいだで揺らぎをもっている。that before night とbefore that night という一日分の曖昧さが横たわっている。

The Wisery Brothersが久々に新譜をリリースしたというので、なつかしさ半分で再生してみた。一番熱心に聴いていた『シーサイド81』が2016、『HEMMING EP

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新しい美容室 2024/05/30

新しい美容室 2024/05/30

昨夜、新しい美容室に行った。新しい美容室に行くのは数年ぶりだった。3年前に西荻窪に引っ越してきてからはずっと吉祥寺の同じ美容室に通っていたが、心境に新しい風を通したくなったのだった。

南口のビルの6階にあるその美容室は、入ると更衣室のような無骨なロッカーが構えてあって、そこに荷物を預ける方式だった。雰囲気のある店内に似つかわしくないロッカーにリュックをしまい、予約時間と名前を伝えて席に案内される

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リクエスト 2024/05/29

リクエスト 2024/05/29

6月に誕生日が来るので、プレゼントは何がよいかと恋人から訊かれるのだけれど、これがまたなかなか困る。

欲しいものは色々あるのだけれど、恋人はまあお金が無いので、高価なものをリクエストするというのは気が引ける。先のクリスマスにはまあまあ高いBluetoothスピーカーを頼んでしまい、ヨドバシカメラで表情を失って立ち尽くしていた。リクエストは相手の財政状況を鑑みて頼まなければならないのだと、苦い経験

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既成のものと新しいもの 2024/05/28

既成のものと新しいもの 2024/05/28

昨日のフィロショッピーで、「既成のものははじめから既成であり、新しいものはつねに新しい」という話があった。

どういうことかというと、一般的には「新しいもの」が古くなっていくことで「既成のもの」になるという風に認識されている。けれどもドゥルーズは、「既成のもの」ははじめから既成で、「新しいもの」とは本質的に異なっているということを言っているのだった。

新作が常時リリースされていても発展性に乏しい

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現代から戦争を描くこと 2024/05/27

現代から戦争を描くこと 2024/05/27

『虎に翼』は第八週まで来た。伊藤沙莉が妊娠・出産で弁護士の仕事を続けられなくなり、夫の仲野太賀が出征するところまでだった。寅子が困難に突き当たり元気を失っていく無念さは見ていて泣きそうになるし、直三が気丈に振る舞う姿は胸を打つ。演技と演出がとても丁寧で、作品としての質がとても高い。

と、前置きはここまで。ここで考えてしまうのは、現代から戦争を描くということについてだ。

日本が戦後奇跡的ともいえ

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是政 2024/05/26

是政 2024/05/26

是政は、江戸の人の名前から取っていそうな駅名だなぁとか思いながら初めて降りた。出口のすぐ前に大きな幹線道路があって、沿って左に進むと多摩川に出る。

塞いだ気分を晴らそうと電車で遠出することにした。目的はなく、ただ開けた空間がありそうだから行くことにした。武蔵境で多摩川線に乗り換えて、終点まで乗ると是政だった。

はじめに大橋を渡って、東に向かっていく。堤防や葦道、砂利道を通り抜けて、ときどき写真

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女性が戦争を描くこと 2024/05/25

女性が戦争を描くこと 2024/05/25

10時少し前に起きてそのまま心療内科に行くと、今日は珍しく人が少なく、10分も待たずに診察室に呼ばれた。日中が眠すぎるので薬を戻してほしいと伝えて、最近どうですかという質問には大丈夫ですとだけ答えて、すぐに帰ってきた。

朝食を摂りながら、録画が溜まっていた『虎に翼』を消化していく。第7週は弁護士資格を取ったものの仕事のない寅子が、社会的信用を得るために結婚するという粗筋だった。『虎に翼』の特異点

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よくがんばりました 2024/05/24

よくがんばりました 2024/05/24

喫茶店で終業連絡をして、そのあと一度日記を書いて、結局捨ててしまった。今日はちょうど800日目で、何かもう少し書くこともあるだろうと粘ってみることにしてみたが、特に何があるわけでもない。毎日面白いことが起こることが面白い生活だとも思わない。

ノートパソコンがいよいよ壊れかけてきた。ウィンドウズがうまく立ち上がらず何度も再起動する日が多くなってきた。もう8年目だからよくがんばってくれたほうだ。新し

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卑怯であること 2024/05/23

卑怯であること 2024/05/23

「卑怯であることを恥じないこと」ということを昨日からずっと考えていた。「卑怯であること」とはどういう状態か、逆に「卑怯でない」とはどういう状態か。どうして「卑怯」という言葉にとどまっているのか。

「卑怯であることを恥じないこと」という言葉を目にして一番最初に思い出したのは学生時代の部活のことだった。運動部ではずっと補欠で、モチベーションは腐っていたのだけれどもそれでも最後まで続けていた。まっとう

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ゲリラ戦 2024/05/22

ゲリラ戦 2024/05/22

この仕事に何の意味があるのだろう、と迷宮に嵌りこんでしまい、彷徨うように本屋に入ると浅田彰『逃走論』の表紙が目に入った。そうそう、結局いま社会で価値があると言われているようなものごとが嫌で仕方ないのだ、と気づいた。

本屋には、人間を大人しくレールに載せるような訓示の本がたくさん並んでいて、転職がどうとか人生が何とか、全部クソだと思った。そうやってお行儀良く人生をまっとうさせようとするものは、全部

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八方塞がり 2024/05/21

八方塞がり 2024/05/21

一人でいると、仕事に向いていないかもしれないと悩む時間が自然と増えていく。今日は気まぐれに適職診断を受けて、IT系人材になるための講座について調べてしまった。一人で日々延々と同じ業務を繰り返していけば流石に飽きる。

いっそのこと転職してしまいたいが、勢いで会社を移っても良いことなどない。それは人材系企業で働いていたときに骨の髄まで学んだ。やりたいことなんて突き詰めれば何もないけれど、とにかく今の

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向いていない 2024/05/20

向いていない 2024/05/20

仕事の成果がなかなか出ない状況が続くと、だんだん「この仕事向いていないかもしれない」という気持ちに浸食されていく。この仕事向いていないと思えば、次に思うのは「じゃあ向いている仕事って何だろう」で、結局「自分には何も向いていない」という悲しい結論にたどり着く。もう30なのに、働き始めた頃から何も抜け出せていない。

久しぶりに再読した田中和将の『群れず集まる』に、こんな一節があった。

前に読んだと

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文フリ 2024/05/19

文フリ 2024/05/19

文フリ。「流通センター」駅は、文フリ以外では使用しない駅だ。東京モノレールは高いうえに寂れていてあまり好きではない。どうしてこんなに辺鄙な会場でやるのだろうかと毎回思う。

場内は人で溢れていて歩くのも大変だった。全体を一通り巡回する気でいたが人の多さに諦めてしまった。興味のある批評ブースに行くと、知っている名前や批評誌があり、地元に帰ってきたような気分になって安心した。目星をつけていた何冊かを購

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感想が苦手 2024/05/18

感想が苦手 2024/05/18

月曜日に受講したPhiloshophyでは毎回感想・質問の宿題が出される。もちろん任意なのだけれども、まあできれば出したほうが勉強になるだろうと、頑張って何か考えることにしてみる。

感想質問というものが苦手なのは、感想という言葉になにか窮屈さを感じてしまうからなのだろう。いわゆる「読書感想文」的な、道徳教育的なイメージが染みついてしまっている。別の見方をすれば、「優等生的な感想を書かなければ怒ら

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