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新しい美容室 2024/05/30

昨夜、新しい美容室に行った。新しい美容室に行くのは数年ぶりだった。3年前に西荻窪に引っ越してきてからはずっと吉祥寺の同じ美容室に通っていたが、心境に新しい風を通したくなったのだった。

南口のビルの6階にあるその美容室は、入ると更衣室のような無骨なロッカーが構えてあって、そこに荷物を預ける方式だった。雰囲気のある店内に似つかわしくないロッカーにリュックをしまい、予約時間と名前を伝えて席に案内される。

鏡の前にはタブレットが備え付けられていて雑誌が読めるようになっていた。私は美容室で読む週刊文春をこよなく愛しているのだけれど、探しても一覧に文春が見当たらなかった。仕方ないのでたいして興味のないBRUTUSを選択してみるとタブレットがフリーズしてしまい、見かねて隣の台のタブレットを持ってきてくれたが、それも動かなかった。結局、さらに隣の台からタブレットを持ってこられて、3台のタブレットを鏡の前に並べながら、データ容量の小さそうな旅の手帖を読むふりをした。

美容師さんは20代前半のやや太った女の子だった。なんとなく話しているうちに読書の話題になり、そこからドラマや音楽の話になった。「きみたちはどう生きるか」を一人で見に行ったがわからなかったというエピソードに相槌をうって、音楽は何を聴くんですかと尋ねると、昔からRADやDISHが好きですと嬉しそうに返ってきた。

数年間担当してもらっていた前の美容師は、軽音出身で音楽の話を気兼ねなくできたのがよかった。会話の切り返しが早くて、どんな話題でもそれなりに喋れる子だった。コミュニケーションが上手だったのでそれなりに楽しかったが、ただカットが耐えきれないくらい下手だった。

頭の良い人だったなぁと鏡の前で懐かしくなっているうちに、いつのまにかカットが終わっていた。つむじのあたりが何故かめちゃくちゃ短かかったですよ、と教えられて、だから美容室を変えたのだったと思い直した。セカンドオピニオンを受けた病人のようだった。ありがとうございました、と新しい髪型が気に入ったように振る舞って、愛想よく会計をしてエレベータを降りて帰った。

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